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魚に愛は伝わるか(数日目のお話)

実は初めに一目惚れしたのは、ポリプテルス・セネガルスの幼魚だった。
どこに一目惚れかはよくわからない。とにかく可愛いと思ったのがきっかけだった。
一緒にお迎えしたポリプテルス・エンドリケリーも、とても愛らしい顔をしている。初めはセネガルスよりも警戒していて、少しずつ今の環境に慣れてくれた。
しかし同じ「ポリプテルス」でも顔のつくりが違うのだなと思った。エンドリケリーの方が下顎が出ている。エンドリケリーにある耳のようなものが、セネガルスにはない。この耳のようなものは「外鰓がいさい」と呼ばれるもので、成長と共になくなってしまうらしい。
今限定のものなんだなぁとにやにやしながら、私はスマートフォンのカメラを起動する。フラッシュOFFを念入りに確認してからシャッターをタップした。

お迎えと同時に、餌も買った。水槽と一緒に買うのは早すぎるかと思い、このタイミングになった。
まず買ったのは底棲ていせい肉食魚用の人工飼料とメダカ数匹。
栄養面も考えると、生き餌も良いそうなのでメダカも用意した。ネットで調べていると小赤などの金魚を与えている方が多かったが、彼らにはまだ大きすぎて喉につまるのではと考えこうなった。
人工飼料をあげた際は、なぜかポリプテルスよりもメダカが食いついてしまった。それでいいのかポリプテルスさんたち。
おそらく環境が変わり、メダカたちより緊張状態だった可能性がある。
とにかく様子を見ようと思い、電気を消して人間は寝室へ向かった。

翌朝、メダカが1匹減っていた。
ポリプテルスは夜行性ということもあり、夜に本格的に動いたらしい。
人工飼料に手はつけなかったが、少しずつ食事をしているようだった。
そして目を離した隙にまた1匹、翌朝を迎えてまた1匹と減っていった。数日で水槽にいたメダカたちは姿を消していた。
今回は生き餌でもあったので覚悟はしていたが、やはり自分で用意した初めての水槽でもあったので寂しくなってしまった。
その日の夕飯の豚肉を見て「人間だって生きるために肉を食べるくせに、メダカに対してだけこういう気持ちになるのは偽善ぶっててなんなんだろう」と少し自己嫌悪になった。
どんな食材であれ、食事には感謝しなきゃいけないと思った休職中のとある1日だった。

メダカ以降、セネガルスは意外にもためらいなく人工飼料を食べてもらえたので問題なかった。しかしエンドリケリーの方が食べてもらえず困っていた。飼料のにおいに釣られて見つけてはくれるのだが、食べない。
いくらなんでも食べてもらえないのはまずい。
そこで、いろいろ調べてくれたパートナーが人間用の食料調達ついでに買ってきてくれたものがあった。
ハツである。
脂身らしきところは切り落とし、細かく切っておく。そこそこ大量になったので、すぐ食べない分は冷凍しておくことにした。
切り落とした脂身らしきところは人間が食べるため、パートナーがコーンとバター醤油で炒めてくれた。あたりまえだが、普通のお肉と食感が違って美味しかった。
ハツは2匹とも積極的に食べてくれた。セネガルスはもちろん、エンドリケリーも最初警戒しつつ食べてくれた。
ハツと人工飼料の日を交互にしてみよう、ということになった。あげすぎは良くないため、餌をあげない日も設けてみた。

交互にあげてお休みの日を入れる日々を続けた1週間後あたり。
人工飼料をあげていたパートナーが、突然声をあげた。
エンドリケリーが人工飼料を食べてくれた。
空腹のせいなのか、緊張がほぐれてきたのかはわからない。
それでもここ数日、人間が近くにいても物陰から出てきてくれる時間が増えていた。
初めてエンドリケリーが、ハツだけでなく人工飼料を食べてくれた瞬間は安心と同時に感動してしまった。


2022年8月23日 投稿
2022年8月24日 ふりがな追加、リンク追加


見出し画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしました。
ありがとうございます。


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