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小説感想『かがみの孤城』辻村深月(読了:2022/9/2)


作品紹介

辻村深月の『かがみの孤城』は2017年にポプラ社より出版された作品。文庫版は2021年に出版されいる。2018年の本屋大賞受賞作。オーディオブック、漫画、アニメ映画、舞台とメディアミックスも豊富。

辻村深月には『スロウハイツの神様』でハマった。その後続けて『冷たい校舎の時は止まる』『子どもたちは夜と遊ぶ』『凍りのくじら』『ぼくのメジャースプーン』『名前探しの放課後』あたりは刊行当時に読んだ。

『かがみの孤城』は内容も良かったけど、とにかく読みやすい点が魅力的だった。小説を読むことの楽しさを味わわせてくれる作品。公式で読書感想文企画を開催していたり、児童書版が出ていたり、複数媒体で展開していたりと、幅広い層に向けてプッシュしていたことが分かる。

ネタバレは避けるけど、ある程度内容には触れているので注意。

以下はあらすじの引用。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていた“こころ”の目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。
輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。
そこには“こころ”を含め、似た境遇の7人が集められていた。
なぜこの7人が、なぜこの場所に――
すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。

引用:ポプラ社

とにかく読みやすい作り

まずガワから触れると、表紙が可愛らしくて取っつきやすい。ヘッダ画像は単行本の表紙けど、文庫本の表紙も良い。文庫本は上巻の表紙はこころ、下巻の表紙はオオカミさまで飾っている構成になっている。

また、登場人物のイラストが添えられている点も易しい。初めて小説を読むような人でも場面を想像しやすい作りになっている。個人的にはイラストは不要というかむしろ無い方が良いが、読みやすさを考慮してのことだろう。

次に物語。こちらもシンプルで分かりやすく、起承転結が明確になっている。導入部分で舞台設定や登場人物のキャラクターが定まり、登場人物が徐々に親睦を深め、後半には山場が訪れて、最期には…とオーソドックスな構成だ。小説を読んでいると、ページ数を視界に捉えながら「そろそろこう動いて欲しいな」と思うことがあるが、程よいタイミングでスッと次の展開に進んでくれるため、ストレスを感じることなく読むことができた

伏線の張り方も絶妙で、適度に考察をしながら読み進められる。ほぼほぼの人が違和感を持つであろう描写、伏線が適度に散りばめられていて、予想が当たる嬉しさを味わいやすい。一方で辻村深月作品らしく、最期まで読み切れない展開もある。ここのバランスが素晴らしく、小説の面白さを存分に味わえる作品となっている。

子供の視点、親の視点

作者のインタビュー記事をいくつか詠んだところ、以前と比べて大人の書き方が変わったという回答が印象に残った。あまり意識していなかったけど、たしかに過去作では子供と大人を互いに相容れない、独立したキャラクターとして書かれていたような気もする。

子供の視点では、世界の狭さや、学校にも家庭にも自分の居場所がないことの息苦しさが描かれている。これに対して大人の描写はと言うと、彼らも彼らで葛藤を抱えていて、子供との向き合い方に悩んでいるように描かれている。明確に両者を区別せずに、子供の延長として、様々な経験をした上で大人になっているという書き方がされている。

このような描写は、物語の構成の都合(読んだ人なら分かると思うが)による側面もあると思うが、辻村深月は自身の思いや経験を作品に出すタイプの作者なので、自身の環境の変化でキャラクターの表現も少し変わったのかなという印象を受けた。


おわりに

内容も良かったが、とにかく読みやすさの工夫に関心させられた作品だった。子供はもちろん、久しぶりに小説を読む大人のリハビリ書としてもオススメしたい。感想文企画によると、8歳~93歳までと非常に幅広く感想が集まったとのこと。多かれ少なかれ感銘を受けていないと感想文を送る気にもならないと思うので、幅広い層に受けた作品だということが分かる。2022年冬にアニメ映画が公開らしいので気が向いたら観たい。

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