湖月の君 雨模様①
出逢った初夏が過ぎ、遠くから見つめただけの夏も終わりかけた。
高くなった美しい秋空を見上げて幸せなきもちになりながら、真理子は絵画教室に入った。
こんにちはと挨拶すると、教室の主宰者が
「やあ」と言って、おいでと手招きをした。
「6月にやった展示会がけっこう反響があってね。今度は街のギャラリーだが、君もまた何か出してみないか」
真理子は鞄を胸に抱きしめて答えた。
「わぁ…。はい。ぜひ出してみたいです」
「そうか、よかった。それでなんだが、今私は自分のがちょっと迫っててね、出展するメンバーでチームを組んで話を廻していってもらえないかね」
「はい。他の方って…」
「まだ全員に声をかけた訳じゃないんだが、時任夫妻と小和田氏はやってくれるそうだよ。後は中堅のメンバーはどうかと」
俊之の名を聞いて真理子はどきりとした。
途端に頬が火照ってくる。
嬉しい。嬉しい。
やっと小和田さんと接点ができた。
久しぶりに俊之に近づいて声をかけた。
「小和田さん」
慎重に振り向いた俊之に、真理子は頬を紅潮させて笑って挨拶をした。
「私も街のギャラリー出展させていただくことになりました。よろしくおねがいします」
「はぁ、そうですか。こちらこそ」
嬉しそうな真理子につられて
「お互いいいのを描けるといいですね」
と俊之も顔が崩れかけ、次の瞬間には口元に手を当て顔をそむけた。
それを見たら真理子までなんだか恥ずかしくなって
「がんばります!」
と言って走って逃げた。
どうしよう。こんなに嬉しくてどうしよう…。
席について気を鎮めると、何を描こうかなと考えた。
私の好きな私の世界を他の人にもいいなと思ってもらいたい…。
そうだ。
雨。
雨がいいな。
雨を描いてみたい。
大好きな雨の音。
雨の匂い。
雨に濡れた木々や街の色。
真理子は目を閉じると、心のなかで様々な雨の情景を浮かべた。
とてもいい気持ちになった。