病院のごはん②
どんどん想い出がでてきて止まらない。
▫あおじる?
「今日、青汁が出るんだって!」
マスクマン とみんなに呼ばれていた30代の男性が、
聞いて聞いてと部屋まで来た。
女性の部屋に行っちゃだめよと
看護婦さんに何度叱られても直らないその人は
いつもマスクをしていた。
口の中に針が降ってくる恐怖と戦っていた。
つらい症状だったと思う。
でもきもちの優しい人だった。
「青汁なんてやじゃない?
でも青汁が出るんだって」
そう一生懸命訴えてくる。
「うーん、青汁は出ないと思うよ」
と言うと
「だってそう書いてあるよ!
見てごらんよ、ほんとなんだから」
ということで、ほんとかなぁと
献立を見に
ナースステーションまで行きました。
献立表
〇月▽日 夕食
…
「清汁」
……
なるほど。
「ほらね
青汁って書いてあるでしょ?」
「うーん。
これね、青じゃないよ。
さんずいがついてるよ。」
「えっ、あおじゃないの?なんなの」
「青にさんずいがついてるから、
すまし汁ってことだと思うよ」
「えっ、そうなの、すまし汁ってなに?」
そんなことがあった。
どっちもどっちってほどじゃないけど
献立もすまし汁って書いてくれたらよかったかもね?
なんかすごく ほっこりだった。
▫シーラカンス
女性閉鎖病棟のひとコマ。
夕方16時にもなると
多くの人が献立を確認にデイルームにでてきます。
わたしもそのひとり。
なにせ一日の予定が食事しかないもので。
献立表
〇月▽日 夕食
…
「しいらの煮付け」
…
「しいらだってー」
「しいらって、シーラカンスのことでしょ?」
「シーラカンスが出るんだ」
「どんな味だろうね」
「深海魚だよね、どうやってとったのかな」
「そんなのが出るんだね」
「この病院すごいね!」
そして病室にいる仲間にも
「今日のごはんシーラカンスだって〜!」と
教えに行く人たち。
わたしもシーラカンスだと思って、厳かなきもちでいただきました。
退院して数ヶ月後。
生まれてはじめて
「しいら」と書かれた魚を
スーパーで発見。
一緒にいた父に
「お父さんみてみて、
シーラカンスだよ!
こないた病院でも出たよ」
そしたら
「そんなわけないだろう〜」と言われた。
「えっ、じゃあなに?」
よくわからないが
しいら は しいら だったのだろう。
夜帰宅した夫にも
その話をしたら
「アホか!」
と言われ、終わりました。
献立表の前で
今日のごはんシーラカンスだって!
と興奮していた
わたしはそのひとりです。