ヒデちゃん
私は中学生の頃から落ちこぼれていた、いわゆるクラスでの負け組。
僕の周りにいた友達も例の如く負け組で、勉強や、運動、容姿、貧乏、など、色々なコンプレックスを持った7人が集まり、クラスの吹き溜まりとして生存していた。
そんな7人の落ちこぼれとは一銭を隠した、もう一段上のレベルに居た落ちこぼれが、ヒデちゃんだった。
ヒデちゃんは一匹狼的な所があり、あまり群れなかったが、僕たちは、常にヒデちゃんを追い回した。
ヒデちゃんは特にユーモアあるわけでも無く、勉強もからっきしで、不潔、クラス1のブ男なのにマインドは二枚目。
どれをとっても誇れるところが無い男だった。
そんなヒデちゃんを僕たちは何故追いかけたのか?
それは僕たちが持っていない物を持っていたからだ。
圧倒的な行動力と揺るぎない自信、コンプレックスなど微塵も感じさせぬ立ち振る舞い。
その出立ちで何故そこまで自信が持てる。。ヒデちゃんの満ちたぎる自信に僕たちは男として興味をもったのである。
こんなエピソードがある。
中二の夏である。
来週から始まるの夏休みの計画を立てるため、
例の如く僕たちは放課後集まった。
『いよいよ夏ですよ皆さん!』
『今年は刺激的な夏にしたいね』
『女子と遊んでる男共には味わえない興奮を!!』
『刺激的にするにはあの人呼ぶでしょ〜』
『うん!モチのロン!』
『ヒデちゃん!!』
『いいねー、ヒデちゃん来たら事件起きるよぉ〜』
『決まりや!』
その時、またまたヒデちゃんが廊下を通り過ぎた。
『あっ!ヒデちゃん丁度いい所に来た!』
『来週、遊びに行かへん?』
即答で『無理やな』
『なんでなん!用事あるん?無いやろ』
勝手な決めつけだが、ヒデちゃんに夏の予定など無いと思い込んでいた僕たちは呆気に取られた。
『俺、今年の夏は忙しいねん』
大いに意味深である。
お前の夏は14年間一度だって忙しくなかったはずだ、強いて言えば去年、池で捕まえたザリガニを生で食べてお腹わ壊した事ぐらいだろう。
『何でなん、理由は!』
『俺、多分この夏、彼女出来るねん』
『えええええええええええええええ!!!』
全員立ち上がった!!
クラスのブ男代表のお前が、2人の夏物語だぁ〜、冗談にしても腹立たしい。
『ヒデちゃんどーいう事なん?それ教えてや』
全員が固唾を飲んでヒデちゃんの言葉を待っていた。
『今日告白するねん、、、ラブレター渡す』
『えええ!誰に!誰にぃ〜!』
『T.K子ちゃん』
『丁度ええは、今から家いくらから、お前ら見届け人になってくれ』
おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
『モチのロンですぅ〜!』
『何処までもお供いたしますぅ〜』
『い〜そ〜が〜しくなるぞぉ〜〜!!!』
おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
ちなみにヒデちゃんが告白しようとする相手T.K子ちゃんは学校のマドンナで男子の憧れの的である。
100%勝てないと分かっていても応援せずにいられない、それがヒデちゃんなのである。
結果は言うまでも無く惨敗。
T.K子ちゃんは玄関でラブレターを渡したヒデちゃんには目もくれずドアをピシャリと閉めた。
しばらくすると、2階の彼女の部屋の窓が空き、ヒデちゃんが渡したラブレターをビリビリに破いて投げ捨てた。
泣きながらこっちに帰ってくるヒデちゃに放り注ぐビリビリに裂かれた粉雪がなぜか綺麗にみえた。
草葉の影から見ていた僕たちは、
『やっぱフラれたーっ!!』って皆んなで笑い散らかそうと思ってたけど、ヒデちゃんの顔見たら泣きそうになって僕らは逃げる様に帰った。
帰りは誰一人喋らなかった。
皆んな同じ事を考えてたと思う。
落ちこぼれの僕たちは何時も大人に言われてた。
『貴方には絶対無理』
最初から期待されてない事はわかっていた。
だから僕たちは友達に絶対無理なんて言わない。
絶対友達に言いたくなかった。
ヒデちゃんはクラスで一番ブ男で、僕らの友達。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?