例の著者近影

 古い話で恐縮です。私は、2007年に当時まだあった詩の専門誌『詩学』の投稿欄でこの年の最優秀新人賞を頂きました。今日はその時に起こったある事件のお話しを書きますね。この話は過去にあるサイトにおもしろおかしく掲載していたことがあるのですが、今回はちょっと手直ししたうえでこのnoteに再掲載したいと思います。
-実はこの「詩学最優秀新人賞」の受賞が内定して、編集部から写真の提出を求められた時点で私はすぐさまインターネットでフォトスタジオを探しました。どんな写真を提出しても編集部的には顔がわかればよかったんでしょう。旅先で撮ったような写真、いわゆる証明写真、なんだか妙にぼやけている写真…。歴代の受賞者はみなこんな感じの写真でした。しかし私は、本の最後に載っているような「著者近影」みたいなちゃんとしたカッコいい写真を出したかったんです。


 さっそくインターネットで見つけたフォトスタジオに予約を入れて、いざ当日。
朝10時ごろに行くと、赤いバンダナをしたカメラマンさんが機材の手入れをしています。カメラマンさんは私を一瞥したあと、また機材の手入れに視線を戻しました。「赤いバンダナ…挨拶もしてくれないし…。なんだかカメラマンさんは思っていた雰囲気と違うな…」と思いつつ ヘアメイク付のプランだったので、メイクさんと相談しながら髪を巻いたり、シャドウを入れてもらったりとやや本格的な感じになりました。よく考えたら、掲載誌はモノクロなのでメイクもいらないのでは?と一瞬頭をよぎりましたが一生懸命チークの色を選んでいるメイクさんにそんなことを言える雰囲気ではなかったのでなすがままにメイクしてもらいました。 メイクが終わり、2階のスタジオにあがると、先ほどのカメラマンさんがすでに待機してます。
やや固い雰囲気です。

私「あ、よ、よろしくおねがいします…」
カメラさん「(ムスっとしながら)はい。どうも。でね」
私「??あ、は、はい?」
カメラさん「あのね、最初に言っとくけど!ただ座ってるだけではいい写真とれませんから!」
私 「(えー!めっちゃキレてるやん…)ええ?あ、はい?」
カメラさん「いやね、撮られる気がないと、写真ってとれないんですよ、自分はただ座って指示に従ってればいいってもんじゃないんです、自分がどう写りたいか!この気持ちなんです!」
えー!スタジオ撮影と言えば、カメラマンさんが「きれい!いいね!かわいい!そうそう!うわー!かわいい!」とモデルを褒め倒して、モデルのイキイキとした表情を引き出してくれるものなんじゃないのかよ…。違った―!と思ったときには時すでに遅し…。
私 「…。ええ、はい。がんばります…」
カメラさん「(レンズをのぞいて)あー!だめだめ!いきなり説教くらったって顔で暗い!ダメ!」
私 「(だっていま説教しましたよね…)あ、はい!」
カメラさん「口角を上げて!笑って!誰も暗い顔なんてみたくない!」
私 「は、はいっ!(にこ!)」
カメラさん「もっと!口角あげて!」
私  「(口角をぎゅうっとあげる)(にこーー!!)(これ以上は顔がつる!!)」
思っていた楽しい撮影とはほど遠い!!
カメラさん「はーぁ、イマイチだなあ、作家さんでしょ、おたく。選挙のポスターじゃないんだから」 ととどめのひとことを放ちました…。
1カット撮るたびに消耗されていく心・・。 もう選挙のポスターでもいい…。「明るい現代詩!お任せください!」ガッツポーズの自分を妄想しながら撮影は終了。


 しかもやっぱり口に出さなかったのですが、掲載されるのはモノクロなんです。ライトの調整とかあるかもしれないですが、いまさらそんなこと言ったら確実に怒られます。
機材はデジカメなのでその場で、画面を見せてくれてこれは良いな、とかほら目が笑ってないでしょう。とかちょいちょい嫌みを言ってくれます。もうそんなの画像処理でなんとかしてくれよー!!!
怒られながらの撮影でしたが、めったにない経験だしおもしろいことになったなあと最後は前向きに帰宅。
後日、冷静になってその写真が載った掲載誌を見ると、案の定ひとりだけ「気合が入っている人」として目立っているし、なんなら口角がひきつった年増のキャバクラ嬢みたいに写っていました。友達には「往年の青田典子」とか「圧がすごい」「ネタ写真?」と散々な評価をいただきました。 この写真が載っている『詩学』2007年1.2月合併号をお持ちの方、そっとしておいてくださいね。


*今後は新作エッセイも発表したいと思います(笑)皆様どうぞよろしくお願い致します

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