ネットリンチを受けたので訴訟を起こし、勝訴した話 【4】 『考察編』

1.はじめに

本記事では、ネットリンチ被害者としての経験を元に、ネットリンチ全般について個人的に思ったことを書いていきます。

今後ネットリンチを受けた人、ネットリンチに加担したくない人の参考になれば幸いです。

※一部を有料記事とさせていただきます。ネットリンチをいけないと思う方、被害者を支援したいと思う方にご購入頂けると励みになります。

2. ネットリンチは何故起きるか

まず最初に、そもそも「何故ネットリンチは起きるのか?」について考えを述べていきます。

 2.1  ネットリンチの背景にあるもの

炎上の内容によって様々だと思いますが、今回の炎上騒動においてその背景にあった大きなものは嫉妬だったと私は考えています。

「あいつらばかり当選してズルい」
「あいつらばかり特別扱いされて羨ましい」

そのような感情があったと感じています。

もちろん、既に書いてきた通り、この点については真偽不明かつ被害者に全く非は無いのですが、人の感情はそう単純なものでは無く、当人に非が有ろうが無かろうが「気に入らないもんは気に入らないんだ!」となってしまうものです。

今回の炎上騒動に限らず、そのような「負の感情」を背景に当人を叩く正当性がある(と思い込んだ)ときにネットリンチという形となって現れるように思います。

 2.2  ネットリンチを正当化する心理

ネットリンチをする人間は、「自分は正しいことをしている」と思ってやっていることが多いと思います。

「アイツはこんなに悪いことをしている」

だから

「こうやって叩いてわからせてやってるんだ」

くらいに思っていたりします。

本当は負の感情を根底とした「叩きたい」という欲求が最初にあるけれど、「叩きたいから叩く」では自分が悪者になってしまう。だから「叩いても良い(≒相手が悪い)」理由探しをするのです。

もちろん、本当に「悪いこと」(例えば誰かを暴行したり、公の場で過度に人格を貶める言動をしているなどの犯罪行為)をしていた場合はある程度許容されることもあると思いますが、それが例えば「犯罪でもなく、被害者や権利者が問題視していないにも関わらず無関係な第三者が騒いでいる」というような場合は全く正当化されないでしょう。

ましてやその「悪いこと」がデマだった場合は最悪です。

 2.3 デマを信じる心理

今回の炎上騒動も”癒着”という「悪いこと」の根本的な部分がデマでしたが、このようにデマが元で炎上、ネットリンチに至った例は他にもあります。

有名な事例としては、殺人犯と勘違いされたスマイリーキクチさんの事例や、最近では、あおり運転の同乗者”ガラケー女”と勘違いされた社長さんの事例が記憶に新しいと思います。

【参考】

どちらもネットリンチ加害者は、デマを信じて「コイツはこんなに悪いことしている!許せない!」という感情に陥り、おそらくは『正義心』からあのような誹謗中傷を行ったと思われます。

では、彼らは何故デマを信じてしまったのでしょうか?

これは一言で言えば「周りがみんなそう言っていたから」だと思います。

それがどんな与太話であっても、「特定の空間」においては皆がそれを信じ、同じ意見、同じ認識ばかりという事が起きます。

今回の炎上騒動で言えば、某匿名掲示板の特定のスレがまさにそういう空間であり、その内容を繰り返し読んだ界隈の一部の人達がデマを真に受けました。

そして、それが集まってTwitterのリツイート機能によって多数拡散された結果、「多数リツイートされている」≒「皆がそう言ってる」≒「真実に違いない」という認識が一般の人にまで生まれてしまいました。

おそらくですが、これは多くの人が無意識にやってしまっているのでは無いでしょうか?

これは人間の誰もが持つ「多数派に引っ張られる」という心理のためだと思います。

それがデマであることを知っている人間からすれば全く理解不能なことでしたが、事情をよく知らない人間にとっては「周りが皆言っている(ように見える)」というのは、強力なバイアスになるという事を身をもって体験しました。

 2.4 デマは真実となる

デマの恐ろしさは、「一度拡がったデマは真実と認識される」点だと感じています。

例にあげたスマイリーキクチさんや社長さんの事例では、デマであることが広く社会に知れ渡りましたが、中にはデマが真実として刻まれてしまったケースも多数あっただろうと思います。

何故なら、今回の炎上騒動についてもこのような形で声を上げなければデマが真実としてネット上に刻まれてしまったことは間違いないからです。

A氏やB氏の対応は、ネットリンチの被害者として非常に理性的であり、歯痒さすら感じるほどでしたが、その結果はデマの拡散とデマを真に受ける人の続出でした。その真実性を疑う声が多数派になることは最後までありませんでした。(そのような声があったことも事実ですが)

例えデマであっても、被害者の対応が理性的であっても、「声を上げなければデマが真実となってしまう」というのは本当に恐ろしいことだと思います。

私が一連の記事を書いた大きな理由の一つは、この点について多くの人に注意していただきたいと思ったからです。

3. ネットリンチの恐ろしさ

 3.1 数の暴力

ネットリンチの恐ろしい所は、それが単体であれば無視できるレベルの誹謗中傷であっても、圧倒的な「数の暴力」によって被害者の心に凄まじいダメージを与えるということです。

今回の騒動でも、実際は内容そのものよりもその「数」が一番の問題だと感じました。

加害者側は「このくらい大したことじゃない」とか「嫌なら見なければいい」などと言って気軽にやっていますが、そのセリフは自分が数百件以上の一方的な誹謗中傷を集中的に受けてから言ってもらいたいと思います。

これは実際にネットリンチを受けてみないとなかなか理解出来ないと思います。

敢えて例えるなら、クラスメイトの大半がいわれのない噂を信じて、自分を汚い言葉で罵り、仲の良かった友人達までが自分と距離を置くようになる、虐める側に回る、そんな日常が24時間365日続くような感覚です。

イジメているのが一人や二人なら何とか耐えられるかも知れませんが、周りが皆イジメる側に染まってしまったらどうでしょうか?

皆さんはその状態を「気にしなければ良い」で済ますことが出来ますか?

今回の炎上騒動で被害者が訴訟を起こしたのは、加害者とそれに加担する人達によってそこまで深く心を傷付けられ、精神的に追い込まれたからなのです。

 3.2 疑心暗鬼による孤立化

炎上・ネットリンチが発生すると、賢明な人ほどその事について触れなくなります。

理由は2つあります。

1つは、その行為自体が炎上・ネットリンチを激化させるリスクがあることを知っているから。

もう1つは、「自分は巻き込まれたくない」という心理が強く働くからです。

今回の騒動では、無言を貫いた人が大勢いましたがおそらくそういう人達はデマを真に受けずに騒動を冷静な目で見ていた人達です。裏で連絡を取り合うと、彼らは一様に今回のネットリンチに批判的でした。

そういう人は実際は遥かに大勢いたと思います。

しかし、その賢明さ故に表立ってネットリンチ行為を批判しないため、被害者から見ると誰が味方(≒加害者では無い)なのかわからなくなります

(これは被害者だけでは無く、おそらく彼ら自身がそうだったと思います)

今回の騒動では、鍵垢にしたにも関わらずツイートの内容をネットリンチ会場に晒す人間が何人もおり、それは相互フォロワーの中にもネットリンチ会場に書き込んでいる者が相当数いることを意味していました。(当然、ネットリンチ会場の加害者達はその晒し行為をもてはやしていました)

そのような状態でネットリンチ行為を批判すれば今度は自分が晒され、ネットリンチされるのはまず間違いありません。故に彼らも自己防衛せざる得なかったのだと思います。

ですが、その結果被害者はどんどん孤立無援の状態に追い込まれていきました。

目に見える場所では被害者を批判する声ばかりになってしまったのです。

そうなると「2.3」に記載したとおり「皆がそう言ってるから」という理由で、ますます大勢がデマを信じるようになります。

あっという間に多くの人が周りに流されて、「そんな人だとは思わなかった」などと被害者を批判する側に回ってしまったのです。

 3.3 群集心理・バイアスによる過激化

つまるところ、「ネットリンチの恐ろしさ」=「群集心理・バイアスの恐ろしさ」です。本質的には、中世の魔女狩りと一緒です。

今回の炎上騒動で身をもって体験したのは大きく以下の3つの心理的バイアス・認知の歪みです。

・多数派に流される(バンドワゴン効果

・被害者の方が悪いと思い込む(公平世界仮説

・叩き行為の過激化(エコーチェンバー現象

長くなってしまうので、それぞれの詳細についてはリンク先を参照するかググってみて下さい。

これらの心理的バイアスが絡み合い、互いに増幅し合った結果、過激なネットリンチに発展してしまいました。

集団になると人は論理的・倫理的な判断が出来なくなってしまうのです。

はじめから人間という生き物は(私も含めて)欠陥品であり、誰しもこれらの群集心理・バイアスに陥ってしまうということを自覚する必要があると思います。

4. ネットリンチに加担しないための方法

当然のことながら、周りに流されただけであっても誰かを誹謗中傷したり、デマをリツイートした場合は損害賠償請求されたり、刑事告訴されたり、という結果を招くことになります。

それを避けるためには、「3.3」に挙げたような心理的バイアスが存在することをきちんと認識した上で、

「一次ソースを自分の目で確かめること」
「反論をちゃんと読むこと」
「真偽に関わらず誹謗中傷はしない」

という癖をつけることが大切だと思います。

特にTwitterで拡散されてくる情報は、その文字数の制限から極端に限られています。また、その発信元が個人である場合は非常に偏った一方的な情報であることが多いです。

ですからまずはその情報を疑い、リツイートの数や周りの声では無く、必ず自分の目で見て、自分の頭で考えて判断することが大切だと思います。

5. ネットリンチされないための方法

誰しもネットリンチに遭いたいとは思わないと思います。

では、ネットリンチされないための方法は何があるでしょうか。

基本的な対策としては以下が考えられます。

・一般的に求められるレベルの法律やマナーを守る
・攻撃的な言動をしない
・人の妬みを買うような事を言わない

(もちろん、これらを守って無かったからといって、ネットリンチをして良い理由には一ミリもなりません)

しかし、これらを守っていたとしても、ネットリンチされる時はされます。現に今回の炎上騒動では多くの被害者が何も悪くないのにネットリンチされました

例えば、前の記事に書いたA氏やB氏は、人格や普段の言動に問題のあるような人物ではなく、むしろ周りを楽しくさせてくれるような人物でした。

今回の炎上騒動においても、酷い誹謗中傷を受けながら特定の誰かを公に罵ったり、暴言を吐いたりすることも無く、多くの人のことを考えた言動をしていました。

けれども、それで彼らへのネットリンチが止むことはありませんでした。

つまり、それがデマなど当人以外に原因がある場合は防ぎよう無く、かつ一度火がついてしまえば、何を言っても、言わなくてもネットリンチは激化するしかないということです。

ネットリンチは被害者の行動で防ぐことは不可能なのです。

「ネットリンチをされるからにはネットリンチされても仕方無いような悪いことを本人がしたに違いない」と事情を知らない多くの人は思いがちですが、その認識は改めた方が良いと思います。

6. ネットリンチを防ぐには

では、ネットリンチを防ぐためにはどうすれば良いか。

それは一人ひとりがネットリンチに加わらないことです。

確かに、一般的にネットリンチ被害者の全てに非が無いとは限りません。当人の不適切な言動が原因であるケースもあると思います。

しかし、一度炎上・ネットリンチという状態に陥ってしまえば後は同じことです。ネットリンチされた事が原因でネットリンチされるようになります。圧倒的な言葉と数の暴力の前にはどんな反論も無意味です。事の発端や真偽すら省みられなくなります。

そうなれば被害者に出来ることは何もありません。何も出来ない相手に行動を求めるのは間違いです。

まず最初に必要なのはネットリンチ行為を止めることです。

目の前で殴る蹴るの集団リンチ(リアルリンチ)が起きていたら、普通はまず警察を呼んで止めさせるでしょう。

リンチが止み、落ち着いてから双方の話を聞き、必要であれば本人を諭し諫めれば(場合によっては訴えれば)良いことです。

ネットリンチも本来必要な対応は同じです。ネット上ではそのための仕組みが無い、言わば無法地帯というだけのことなのです。

とはいえ、ネットリンチを止める側に回るのはとてつもなく勇気のいることです。イジメを止めようとしたら今度はイジメられる側になってしまうことは多くの人が身をもって経験していることでしょう。

ですから、せめて一人一人がネットリンチに加わらないように気を付けることです。

ネットリンチは「皆が言ってる・やってる」と思うことで指数関数的に激化します。裏を返せば一人一人が踏みとどまれば被害はかなり抑えられるのです。

真偽を確認するのはもちろんこと、例えそれが真っ当な批判であっても当人が「どのような立場の人間で」、「どれくらいのレベルのことをして」、「どれほどの制裁を受けているのか」を確認してから行うことが大事だと思います。

※以下有料記事とさせていただきます。
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