一夜の過ち
口寂しさと小腹を満たすため深夜のコンビニへ車を走らせる。
目当ては生ハムチーズ。
サーサー降りしきる雨の中フードを被りお財布をにぎりしめた怪しげな人物が一人、自動ドアを小走りにくぐり抜けた。
お菓子やデザートのコーナーには目もくれずチルドの陳列棚へ一目散に駆け寄る。
『……ない…。』
仕事帰りに必ず立ち寄る店は、私のために生ハムチーズのコーナーが拡張されていると言っても過言ではないほどだが、どうやらここには生ハムチーズの魅力に取り憑かれた同士は現れないようだ。
さて、困った。
棚に並べられ腕の中に抱かれるそのときを待つ彼らのワクワクした表情とは裏腹に虚無感に苛まれ、この世の終わりともとれる絶望のふちに立たされる私。
…………。
諦めと共に違う場所へと足の向きを変えた瞬間何かの視線を感じた。
生ハムだ。
そうか、生ハムとチーズを別々で……
その問いに答えを出すまでそう時間はかからなかった。
しかし、自分の元から去った彼女に似た女性と一夜を過ごすべく、癒しを求める悲しき男性のような、高鳴る胸の鼓動と罪悪感が入りまじるざらついた気持ちのままレジへと足を運ぶ。
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部屋の扉を閉めた途端先程まで周囲を気にしていたのが嘘のように視線を合わせるふたり。
ゆっくりコートを脱がそうとすると彼女は目をつむった。
いたずらっぽく焦らしていると冷えた身体が温まっていくのが伝わってくる。
そろそろいいかな、と優しく抱き寄せながら交わす接吻。
一枚一枚丁寧に透き通ったベールを脱がしていくたび火照っていく彼女はただただ美しい…………
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鳥の鳴き声とともに目覚め、抜け殻に目を移し、ふたたび虚無感に襲われた。
深いため息を吐きながら枕に顔をうずめるとどこからか囁きが聞こえる。
……ルヨ……ニイルヨ……ココニ…イルヨ……
あっ……チーズはどうしたっけ?
この物語はほぼフィクションです。
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