「腹いっぱい食べてほしい」 繋がりをうみ続ける米づくり
アオイエでの暮らしに欠かすことのできない“お米”。アオイエに住む私たちが毎日食事を楽しむことができる背景には、お米を提供してくださっているもりとう農園の存在があります。
今回は、コミュニティマネージャーの市村・米倉を聞き手に、アオイエの提携先の一つである、もりとう農園の森藤重基さま(福島県須賀川市)にお話を伺いました。
農業のスタートラインをつくる
ーー 本日はありがとうございます。普段はメッセージでのやり取りばかりで、実際にこうしてお話しすることになり、緊張しています(笑)。よろしくお願いします。
もりとう農園の米づくりや販売は、従来の米農家と大きく異なるのかな、と感じています。アオイエと提携いただいているのもその一つですが。
森藤重基さん(以下、森藤)
こちらこそよろしくお願いします。もりとう農園は私で4代目になりますが、先代を継ぐ前は公務員をしながら米づくりを手伝っていました。親がつくる米は本当に美味しかったのをよく覚えています。
米ってきちんと比較すれば美味しさが分かるものなんですが、農協に出荷してしまうと全て混ざってしまって、美味しさがわからなくなる。農家単体ではやっていけないとはいえ、日本全国に凄腕の農家さんがいるのに、これではすごくもったいないと思っていました。
流通業者を通さず直接お客さんに米を届けたいと考え、恵比寿のマルシェに持っていって、自分で売ってみることにしたんです。平日は働いていたので、週末に30kgの袋を二つ積んで車で行きました。ですが、これが全く売れない(笑)。私が店頭に立っても状況は変わらず。同じ出展者の方には、「米を売るのは一番難しい」とも言われました。
そこでやり方を変えて、お米の美味しい炊き方や食べ方を紹介するようにしたら、興味を持ってくれるようになって、リピーターも増えました。公務員の仕事はそれほど忙しくはなかったし、毎週恵比寿で出展するようになりました。上京してアニメーターをしていた娘に会いたかったのも理由の一つです(笑)。
ーー 代を継ぐ前から、毎週上京されていたんですね。東京で販売や営業をされてから変化はありましたか。
森藤
思い出すのは、桔梗の店主から言われた一言です。桔梗というのは、大泉学園にある総菜屋さんなのですが、とにかくこだわりが強い。そしてものすごく美味しい。その桔梗にお米を持っていったときに、「コメが若干黄ばんでいる、飲み込むときにざらつきがある」と言われました。これはショックでした。当時の私は、(「料理の鉄人」で知られていた)道場六三郎さんから評価されたこともあって、自信があったんです。
福島には、「野菜の声が聞こえる」爺さんたちがたくさんいました。けれど、私には「お米の声」は聞こえません。だから、とにかくやってみるしかない。桔梗の主人から言われたことを地元の醸造所に相談したところ、「酒粕を田んぼに撒いてはどうか」と言われました。酒粕はアミノ酸の塊なので効果があるかも知れない、という発想です。さっそく酒粕を乾燥させて田んぼに散布しました。そうして秋に収穫したお米を桔梗に持っていったら、「一年でこんなに変わる農家は初めてだ」と絶賛していただいたんです。今でも桔梗を米づくりの師匠だと思っています。
ーーすごいですね!たった一年で、どのような工夫をされたんですか?
お米の声が聞こえない私には、これまで経験や勘で行われてきた農業を、数値化・言語化していく必要がありました。80歳まで続けたとしても、お米をつくれるのはあと22回です。データがあれば、誰でも農業のスタートラインに立つことができます。例えば、もりとう農園の農地はとても広いので、収穫を始めてから終わるまで1ヶ月かかります。適切な時期に収穫を行うには、水の状態やペーハー(pH)、気温をみてタイミングを判断する必要があります。私が得た経験や勘をどうやってデータ化していくか、日々頭を悩ませています。
あとは持続性です。田んぼに撒く酒粕は、もりとう農園の米でつくったお酒から出たものです。そのほかにも、郡山の野菜農家さんとは、お互いの繁忙期(もりとう農園であれば田植えの時期)に協力して作業をおこなっています。ただ労働力をシェアするだけではなく、ノウハウもシェアすることで、持続的な経営を目指しています。
アオイエとの出会い
ーー森藤さんがアオイエを知ったきっかけを教えてください。
森藤
秋葉原のマルシェに出展していたとき、当時アオイエの運営をしていた山田浩太が通りかかったんです。面白くて変なやつがいるなぁと思って、すぐに仲良くなりましたね(笑)。
当時の浩太は、どこへ行くにも公共交通機関は使わずヒッチハイクで、うちにも私のトラックに乗って1週間くらいいました。浩太が連れてくるアオイエの子たちは、みんなキラキラしていて、金はなさそうだった(笑)。政治家だったりお笑い芸人だったり、みんなが目的に向かって頑張ってる姿をみて、どうにかして応援してあげたいと思ったんです。
金はなくても、米さえあればなんとかなるだろう。うちの米でお腹いっぱいになってほしいと思い、浩太と相談してアオイエに米を提供するようになりました。
ーーヒッチハイクでもりとう農園に行く浩太さんも、それを受け入れる森藤さんも、すごいとしか言いようがない(笑)。私たちも住人を連れてもりとう農園に行きたいです。ぜひ、アオイエ住人やこの記事を読んだ方に一言お願いします。
森藤
繰り返しになるかも知れませんが、「腹いっぱいご飯を食べて」と伝えたいですね。私は、自分で自分の米が美味しいだなんて思っていないんです。ただ、皆さんに満足してもらえる米をつくっていきたいと思っています。私もなかなか東京に行けず、寂しいです。今は難しいですが、2月に酒粕をちぎる作業があるので、そのときはアオイエのみんなもぜひ来てください。
ーー行かせてください!!もりとう農園にも森藤さんにも親しみを覚えた時間でした。森藤さん、今日は本当にありがとうございます!
番外編①森藤さん直伝! “カレーにあう”お米の炊き方🍛
ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。番外編として、森藤さんに直接教わった“カレーにあう”お米の炊き方を紹介します。
①とぎ方
・お米は中性で炊くのが一番美味しいので、水道水を使います
・蛇口はシャワーではなく直流で水を注ぐ。
・1回目の水はかき混ぜずに捨て、2回目からとぐ。
・浮いているお米を沈めながら、20-30回ほど同じ方向にかき混ぜる。(鈍かった音がだんだん「シャキシャキ」という音に変わっていく)
・4,5回とがずに水を入れ替え、砕けた米がなくなれば準備万端。
②炊き方
・目盛りから2,3mm低いところまで水をためる。
・早炊きに設定しスイッチオン。
・炊き終わったあとは蓋を開けずに2分待ち、さらに蓋を開けて1分待つ。
・下と上を天地返しするように軽くかき混ぜれば完成。
旨味の強いお米でもカレーと調和する炊き方です。ぜひお試しください🍚
番外編②もりとう農園のお米が食べられるカレー屋訪問🍛
初めてお話しした森藤さんは、お米への想いを語りながらも、どこか控え目で、とても親しみやすい方でした。zoomでのインタビューには娘さんの協力が欠かせず、そばではお孫さんたちの笑い声が絶えませんでした(笑)。
森藤さんのインタビューを終えお米への愛が絶頂に達した市村と米倉は、もりとう農園のお米を使ったカレーを提供する、押上のスパイスカフェに伺いました。
20分ほど並んで入った店内は、居心地の良い古民家といった雰囲気。2種のカレーと4種の惣菜が絡み合い、「並んだ甲斐があったね」と、二人とも大満足させていただきました。お米はバッチリと森藤さん直伝の炊き方で炊かれているようで、カレーと調和する味わいになっていました。ライスのお代わりができる上、デザートとドリンクもついており、これはリピーターになる予感が・・・
(米倉)
アオイエについて
アオイエは、全国に14の拠点(東京8ヵ所、京都3ヵ所、大阪:2ヵ所、沖縄1ヵ所)をもつコミュニティハウスです。「みんな表現者」をコンセプトに掲げ、家という形を通して住人に安心と挑戦を提供しています。安心と挑戦をうむ環境づくりとして、各家へのキーパー制の導入、ゼミや合宿の実施、入居者へのフォローアップなど、他のシェアハウスには類を見ない取り組みを、5年目を迎える今もなお続けています。
(Webページ:https://www.community-house.jp/)