見出し画像

ひろいキッチンだけが夢だった

画像1

どうしても居場所が必要だった。実家は居ごこちがあまりよくなくって、自分だけの、自分のためのキッチンが欲しくてたまらなかった。

それで、いまの家に住みはじめたのが20歳。

誕生日を飛び越えたとたん、印鑑を押してお金を払えばなんでもできてしまった。成人式には出なかったけれど、成人であることをなにより実感した瞬間である。貯金していたお金をぜんぶはたいて家出した時、いまよりもっと自由だったと思う。

画像4

(これは鍵を受けとって部屋の掃除をしにいった日。ひとりで雑巾がけをしたり。とても暑い夏だった。)


とげとげしていたわたしも22歳。あっというまに賃貸契約の更新を迎えた。

それなりの年数を重ねていて、むかしの造りをしたアパートだけど。この時期には湿気もやっかい。玄関のとびらはうすっぺらいし、洗濯機は外にある。防犯のぼの字もない。でもまあ、そんなところも含めて気に入っている。

なにより、ひろいキッチンだ。

画像3

おなべもラクラク洗えるシンク、これは3日間くらい洗いものを溜めてしまっても平気。2口のガスコンロ、魚焼きグリルもついている。あとは、じゅうぶんな広さの調理スペース。

想像に難くないキッチンではある。たとえば豪邸の大理石のL字キッチンや、アイランドキッチンなど、そういった類のものではない。

でもわたしの望むものはコレ。身の丈にきっと合っている。虚しくない。

画像3

こういう暮らしが好きで好きでしかたないな。わたしはずっと暮らしていきたいだけなのだ。

夢だった“広いキッチン”がいま目の前にあること、たまに驚いてしまう。そして2年間、このキッチンをなんとか守りぬいてきたことにも。いつまでここにいられるのだろうか。なんとなく、この城を楽しみきれていない気がする。だからまだまだここにいたい。


- aoiasa

最後までありがとうございました。 〈ねむれない夜を越え、何度もむかえた青い朝〉 そんな忘れぬ朝のため、文章を書き続けています。わたしのために並べたことばが、誰かの、ちょっとした救いや、安らぎになればうれしい。 なんでもない日々の生活を、どうか愛せますように。 aoiasa