今日だけを歩いてきた君が #シロクマ文芸部
青写真、とか。見たことなかったな。
どうとでもとれる感想を、君の唇が零す。
こんなに鮮やかなんだね。眼を射るみたい。
よく晴れた日にするように、きゅっと眼を細める。
サイアノタイプ。もっと渋い色のやつも、あるよ。
言って、別の写真を見せる。
うん。私、こっちのが好き。ほっとする。
ゆるりと目尻を下げるのをとくと見てから、やっと、
そう、と言った。
ぼくたちはいろんなところが、ちがう。
青写真、とか、必要ないよね。
君が鼻から息を吐くみたいに言う。
青写真を描く、って何なのって、ずっと思ってた。設計図、なんて。ないほうが人生、ずっとずっとたのしいに、決まってるよ。
だから、このくらいぼんやりしているほうが、私、好きだな。
眼を細めたまま、ことり、首をかしげる。
それはちょっと、失敗したやつなんだけどな。
君は旅程図なんか作らないまま、ふらっと旅に出てしまう。
青写真なんか描かないまま、今日だけを歩いていく。
明日のことを考えるのが、面倒くさいだけ。とか。君は言うけど。
そういうところ、よくわからない。
わからなくて、あぶなっかしい。
折れそうなハイヒールで、自信たっぷりにふらふら出歩く君が、あぶなくて、すこし、羨ましい。
進路も、将来の職業も、なんにもはっきり決めないで、のらくらしてた時ね。あなたの人生でしょう、って責められたんだ。
毎日毎日、何をするでもなく遊び呆けて。いざとなったらおとなが何とかしてくれるとでも思っているの。そんなんじゃ、あなたの人生何にもならないよ。周りを見なさい、きちんとした青写真を描いて、目標に向けてひた走っているひとたちを見なさい。あなたはどうよ。恥ずかしいと思わないの。
言われて、ああそうかなって。思って。明日とか明後日とかの方向の先のほうに、何かしらの看板みたいなの、立てといたほうが良いのかなって。思って。それに向かって行くのが良いのかなって。私みたいなのは、あっちにふらふら、こっちにふらふらしてるだけで、なんにもならない人生なのかなって。儚いなって。駄目なのかなって。
あなたみたいに、自分で定めたものを追いかけてるひとたちが、輝いてるように、見えて。私は、人間として、置いて行かれてるのかなって。
悲しいのと、悔しいのと、せつないのと、それからね、なんとも言えない気持ちがした。違うのに、そうならなくちゃいけないことへの。ありがちな、夢を追うひと、みたいな、青春ドラマみたいな、すかしたキャラクターを自分が模倣するのが、変だと思った。もやもやした。それは違うぞって。だけどなんだか、よくわからない。ただ粘着テープの上で重いものを引き摺るみたいに、胸の中でものすごい抵抗が起きた。
目標とかよくわかんないし。私飽き性だし。毎日その日に興味があることしか、したくないし。
いらいらして。むかついて。腹が立って。喉が詰まって。気持ち悪くて。とか。
どんな言葉で理解されるのも我慢ならないような、そういう気持ちがした。
でもこういうのって、今だから言えるんだよ。その時は、自分が何を感じているのか、わからなかった。わからなくて、こんなふうに抵抗する私は贅沢で、我儘なのかなって、自分を責めた。先の尖ったものをたくさん持って、一息に自分に突き刺してやりたいような気が、した。
今は、こんなふうに生きている。
ちょっと照れ臭そうに笑って、両手をひろげて、こんなふうに、と示してみせる君が、ぼくにとっては、輝いて見える。
ぼくたちはいろんなところが、ちがう。
お互いのちがうところを、お互いに輝いていると思っている。
そういう関係って、有難いと思う。
今日だけを歩いてきた君が、偶々ぼくに出会ってくれて、良かったなと、思う。
青写真の撮影から現像までを解説│ヘルドクターくられの1万円実験室 | リケラボ (rikelab.jp)
サイアノタイプの作り方 | 東京オルタナ写真部 Tokyo Alternative Photography (tokyoaltphoto.com)
青写真を描く…「青写真」ってなに? / サイアノタイプ Cyanotype | 東京オルタナ写真部 Tokyo Alternative Photography (tokyoaltphoto.com)
弾丸旅行に行きたい。あとサイアノタイプしてみたい。けどお試しで一式揃えるのは高校生のお財布にはきつい。
と、思っている葵でした。
さりゅ。ちゃお。ばばい。
明日も良い日になりますように。