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Ref:rain

そうか。そうだね。
ひとの気持ちが手に取るようにわかるなら。
他の誰でもない。愛する人の心が知れるなら。
私もそう、思ったことはあるよ。

わからない怖さも。そこでした失敗も。
思い出せる。昨日のことのように。

嘘じゃないよ。
たくさん間違いもあったし、人も自分も傷つけた。
いっしょ。あなたと同じ。

吹き込んできたね。窓閉めようか。
雨、きらい? そっか。
私はね、好きだよ。雨。
大切なことを、人を、時間を思い出せるから。

聞きたい? この話を? 
そう…。いいよ。こころの秘密を、教えてくれたあなただから。
話、聞いてくれる?

まだ私の世界が、今よりずっと小さかったころ。
外の世界があることを知ってはいたけど、
踏みだす勇気はとてもとても持てなかったころ。
好きな人ができたんだ。

私の知る世界の外側で生きようとする人だった。
世界を自分で外側へ、大きく広げていける人。
広げたいと、視線を遠くにおける人だった。
その人と自分を比べると、あまりに遠くて嫌になったなぁ。

でもね。憧れじゃなかったよ。
それはたしか。
その人を、他の人に渡したくない。
そう思ったから。
いま思うと悲しいけど、私はその人に、
ちゃんとしっかり紛うことなく恋をしてたんだ。

ふと手が触れるだけで。笑顔で話を交わすだけで。
真剣に打ち込む横顔を見つめるだけで。
想いはどんどん膨らんでしまって、ね。
いつか隣を歩く自分を、勝手に想像したり。
隣に立てるような何かもせずに。変わろうとせずに。

なのに。いまならわかるのに。
帰り道。急な夕立に驚いて、
あの人の傘に入れてもらったあの日。
思わず心が溢れてしまって、言葉になってしまったんだ。

あの人は私の気持ちを知ってくれていた。
「うれしい」と言ってくれた。
うつむくあの人の気持ちと言葉を、
私は推し量ることも、理解することもできずに。
小さく震えながら、あの人の頬に触れたんだ。

今でも、あの雨に濡れた頬を思い出すと
自分のどうしようもない幼さに胸を掻きむしりたくなるんだ。
あの頃の私が、もう少し大人でいれたら。
私を送って、雨の中を傘さして行くあの人に、
いったい何を言えたんだろうね。

もうずいぶん前のこと。
自分の外にある世界の広さを、
今よりもっと知らなかったあのころ。
もう会うこともない人と、戻らない時間の果てに、
変わらず消えない「もしも」を、時々思い出しながら。
私も今を歩いているんだ。あなたと同じように。

雨があがったね。そろそろお帰り。
見てごらん、微かに虹がかかってる。
あなたの今日のさよならが、いつか小さな棘となり、
笑顔の花が咲きますように。


from Aimer/Ref:rain
5thアルバム『Penny Rain』収録 2019年

アニメ『恋は雨上がりのように』主題歌。
この曲からファンになったという方も多いみたいですね。切ない恋模様と人の想いや生き様のままならなさに、私も夢中で視聴した一人です。

そんな良質な土台があればこそ、別なものを生み出すのに苦労しました。曲の持つ切ない想いや、それを受け止めてくれる優しさが少しでも表せていたら幸いです。

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