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Stjomulaus Nott

19
眠れない夜。包み込んでくる夜陰。 でもそれは怖いことじゃない。 時にうずくまり、時に手を伸ばし、時に思考を巡らせる。私を形づくる大切な時間。
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#novel

Night World 〜第四夜 暗い森で 〜

Night World 〜第四夜 暗い森で 〜

ほら。見上げてごらん。
お父さんが見てくれているよ。
初めて手を繋いだ帰り道でも
些細な喧嘩から仲直りした河原でも
大切な言葉をくれた湖岸でも
あなたを抱き上げた、あの日の夜も
いつだってあなたのお父さんは
夜空と一緒にいたの。
だから空さえあれば大丈夫。
私もあなたも守られている。
そう心配なんていらないよ。
きっときっと大丈夫だから。

それじゃあ。ねえ、お母さん。
宙さえ見えない今の私は

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Night World 〜第三夜 流れる星のもとで 〜

Night World 〜第三夜 流れる星のもとで 〜

どうして。
こんなことになってしまったんだろう。

私の腕の中で彼女は瞼を閉じ横たわり、苦しげに呼吸を荒げている。その動きが、息が少しずつ弱まっていることが。触れる細い肩から、少しずつ少しずつ温度が失われていくことが。
どうしようもなく怖くて。怖くて。怖くて。

だれか、たすけて。
彼女を。私を。わたしたちを。
どうかお願いだから。いい子になるから。
ほかはもう、望まないから。
だれか、だれか。お

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Night World 〜第二夜 導き手からの試験〜

Night World 〜第二夜 導き手からの試験〜

「うわぁ…」

星の扉を潜り抜けると、砂浜とはまったく異なる固い煉瓦の踏み心地。花でしょうか、それとも果実?どこからか漂う甘い香りが、微かに。そして何より、目の前に黒々と広がる夜の森が、私たちを圧倒しました。その中を一本の煉瓦道がまっすぐに伸びています。

「ねぇ。あれは遊園地かな?」

隣で彼女がつぶやきました。道の先には色とりどりのイルミネーションがまとわり光る、私たちの2倍の高さはあろうかと

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Night World 〜 第一夜 星のとびら 〜

Night World 〜 第一夜 星のとびら 〜

重い扉を開くと同時に、清冽と呼ぶにふさわしい冷たく容赦ない空気に包まれた。鼻の奥がツンっとします。私は今一度、厚手のマフラーをゆるゆると整えて、服と身体の間にあるほんの小さな隙間へ冷気が忍び込まぬよう、無駄な抵抗を試みました。

気持ちが負けてしまわぬうちに、扉を閉めて夜の闇へ。かちゃりと小さな音を立てて鍵を閉め、くるりと振り返って歩き出します。いつもの通い慣れた夜の道。いつか父さんに教えてもらっ

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