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妹がツンデレ過ぎてまともな恋愛が出来ません! 第28話
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第28話「お兄ちゃんの前だけ…」その①
「忍~。これはどう??」
「おぉ!可愛いんじゃねえの?」
試着室に消えた栞が、数分後にオフホワイトのニットワンピースと同じ色のニット帽をかぶって出てきた。
下は黒いストッキングに、ブラウンのショートブーツを履いている。
ニットってシンプルなのにすごく可愛い。俺は派手な服装よりも、こういうシンプルなものに惹かれる。
「じゃあこれにするっ。ちょっと待っててね?」
買い物の長い女子に付き合うのも、栞のお陰で大分慣れた。
俺はついに来週に迫っている文化祭に彼女である栞を呼んだまでは良かったのだが、周囲からの半強制でミスコンに出るようにお願いする羽目になったのだ。
当の本人は『私なんか出ても大丈夫? だって、レベル高いんでしょ? 恥ずかしいなあ……』と言っていたが、意外とノリノリだった。
とは言え、栞は羽球部だ。
こちらの勝手なお願いで彼女の練習に穴を開けてしまっている。今日はその埋め合わせも兼ねて、彼女の少し早い冬服買い物に付き合っていた。
今週の水曜日は祝日なので、お互い学校が休みだ。それに合わせて今回街中まで出てきたのだが、祝日なので周りに若者のカップルや子連れの親子の往来がかなり多かった。
俺はいつものように栞に腕を差し出し、彼女はそれに嬉しそうに絡みついている。
「ねえねえ、ミスコンって何するの?」
そう言えば、お願いしたものの何をやるかまで説明していなかった。
確か、アイドルのミスコンほど激しくは無いので、ファッションショー?体育館の特設ステージを歩く?だけだったような。
「いつもは学校内の生徒の中で投票高かった数名を壇上に上げて、今年の学園No.1を決めるんだけど、なんか今年は外部からも呼びかけて色々声かけるんだってよ」
「へぇ~。私なんか出て、勝てるのかなあ?」
もじもじする栞が可愛い。ここで「栞が一番可愛いから大丈夫」とか気の利いた事を言えたら最高なのに、俺はふと去年の優勝者──というか、美人の不動の先輩を思い出した。
「松宮先輩って、すっげえ美人のテニス部マネージャーが居るんだけどさあ!」
興奮気味に松宮先輩の話をしていると、すぐにデコピンが飛んできた。
「あだっ!」
「……こういう時は、栞が一番可愛いでしょ?」
そうでした。何で彼女の横で違う女を褒めてるんだよ、俺は初歩もできないバカか。
地味に痛む額を押さえ、半分棒読みで隣に並ぶ彼女を褒め称える。
「へいへい、栞サマが一番です」
「ふふっ。宜しい!」
完全に機嫌の治った栞と共にウィンドーショッピングを楽しんでいると、向かいの方から見知った顔が近づいてきた。
「お? 弘樹じゃん」
おーいと手をぶんぶん振るとあちらも気づいたのかぺこりと頭を下げた。
「田畑と一緒って事は……栞さんですね? はじめまして。俺、雨宮弘樹と申します」
「はじめまして~! 帆宮栞ですっ」
どうやら、弘樹は妹と仲良く買い物をしているようだった。
栞は相手が誰だろうと、初見から「忍の彼女です」とハッキリ挨拶をして牽制。さらに俺の腕にぎゅっと密着してきた。待て待て、あまりくっついて来ると、柔らかいむ、胸が……!
栞は積極的でこんなに可愛いのに、今まで彼氏は居なかったと言うのが本当に不思議で堪らない。俺の妄想を全部ぶち壊して新しい風を入れてくれるからそれはそれでめっちゃ嬉しいんだけど。
「あれ? マイちゃんは?」
雪ちゃんは俺の後ろにでも麻衣が居ると思っていたのだろう。栞には目もくれずにキョロキョロしている。
「麻衣は俺より早く出かけたよ」
俺が先日、下着姿の麻衣に抱きついたせいなのか一気に距離が出来た。いつも仲良くお出かけしている弘樹達を見ると羨ましい。
「マイちゃん、今日はお買い物に行くって言ってたよ。落合先輩と」
落合?
誰だそいつ? 知り合いリストにその名前はない。麻衣が仲良くする他人なんて柿崎ちゃん以来だ。
俺は全く聞いた事のない名前に首を傾げた。
麻衣の交友関係は限りなく狭い。それは彼女が小学校〜受けていた陰湿な虐めが物語っている。
男にも、女にも自分から心を開くことは極稀で、今目の前にいる雪ちゃんと、彩ちゃんという子が唯一の女友達。
そして羽球部の仲間。それくらいか?それなのに落合?誰だそいつ……。
「あぁ、羽球の男子でいるだろ。1年生の。その子じゃないか?」
弘樹の助け舟に俺は羽球部のメンバーを1から思い出す。
どうやら、その落合って奴は俺達の学校の生徒らしい。しかしいくら記憶を辿っても柿崎ちゃんのキャラが強く、落合という女子が出てこない。
「女の子でいたか? そんな奴」
「落合治君。男だよ?」
何い!? 男だと!?
俺はあれだけ麻衣に彼氏が出来て欲しい! とか願っていた癖に、いざこうして麻衣が男の子とで歩いている話を聞くとショックが隠せない。
呆然としていると、隣に立っていた栞が楽しそうに笑った。
「いいじゃない、麻衣ちゃんにも素敵な人が出来たって話でしょ? お兄ちゃんとして祝福してやらなきゃ!」
「うっ。そ、そりゃあ……そうだよな。麻衣だって彼氏の一人や二人……」
それは俺が長年願っていたことだ。麻衣に彼氏が出来たら俺だって彼女と楽しく気兼ねなく遊べるようになる。
今まで俺に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた麻衣もついに別の男に……。
はぁ、空しい。
一体どうしてこんなに麻衣が気になるようになってしまったのだろう?
麻衣が俺から少しずつ離れたせいか?
それとも、俺が麻衣を意識して気にするようになったからなのか?
「──噂をしてたら、あれ、麻衣ちゃんじゃない?」
「え?」
弘樹の指先の先には、俺が見たくない光景が広がっていた。羽球部1年生という落合君と、隣にはデニムのジャケットといつものジーパンを履いたラフな格好の麻衣。
眼鏡をかけたイケメンの落合君と、ミステリアスで可愛い雰囲気の麻衣は遠目で見てもお似合いのカップルに見えた。
何だろう。胸が痛い。──何で俺がっ!
何でか分からないが、胸が痛い。病気か? こんな気持ちになったのは生まれて初めてだった。
しかも、麻衣のことが気になり過ぎて、せっかくのデートだと言うのに栞を盛り上げることも出来ないまま帰宅することになった。
栞に嫌な思いをさせてしまったのでは無いかと詫びると彼女は首を振り「お買い物も出来たし今日も楽しかった! ありがとっ」と喜んでくれた。本当、栞は俺には勿体無いくらい何ていい彼女なんだ。
そう言えば、麻衣は、一体何が欲しかったのだろう。一緒に買い物に行く相手が俺じゃダメなのか? 羽球部の、しかも俺の学校の奴と行かないと手に入らないものなのか。
家までの道のりがえらく遠い。麻衣と俺の間に見えない深い溝が出来たような気がした。
ああ、兄離れって、こういうもんなのか。
麻衣は、兄離れを始めたのだ。俺もそれは昔から願っていた訳だし、別に異性とお付き合いするのは悪い事では無い。
柿崎ちゃんよりも強そうなライバルの出現に、俺はこの日初めて「嫉妬」した。