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case-11- 問題児との戦い〜その1〜

case-11-    問題児との戦い〜その1〜

また40代男性。わたしの担当はもはや呪いの塊だった……。
担当は大体三人振り分けられて、糖尿病の強制退院となったおっちゃんが終わり、次こそは施設狙いのおじいちゃんでお願いします!という願いも虚しく、またもや在宅復帰目標のおっちゃんだった。

しかも、このケースはとんでもなく喧嘩が絶えなかった。

「後藤さん、よろしくお願いします」
「なんだ、俺の担当はずれだよ。もっと美人が来ると思ったのにな、わはは!」

この部屋は比較的若い男性が固まる悪い部屋だった。以前担当したITのおじさんとは全く違い、あちらは優等生の部屋、こちらはステーションの斜め向かいという立地条件から行動に危険を伴う俗に言う不良達の部屋だ。
全員40どころかアラフィフだっつーのに不良もクソもねぇよ!
私は引き攣った笑いを隠してどうもすいませんねえ、こっちだってあんたらみたいな問題児の担当したくねぇよ!と内心ぼやく。

「別に後藤さんの奥様が美人なんですから、担当がデブだろうとブスだろうと、どうでもよくないですか?」
「いやー、やっぱりさあ、見た目悪いとリハビリ頑張れないじゃん。綺麗な看護師さんがいいよ」

なあ?と同じ部屋のおっさんに同意を求め、ニヤニヤしてるオヤジ達。セクハラもいいところだ。だが、私は土偶と罵られて慣れているのでこの程度では一切折れない。だからなのか、問題児にばかり当たるのは?

「すいませんねえ、綺麗な看護師なんてこの病棟に2人しかいませんから、確率なんて無いようなもんでしょ」
「わはは、言えてるー。○○さんとあともう1人誰かいたか?可愛い看護師」
「リハビリの×ちゃんは可愛いけど、あとはぱっとしないな〜、△ちゃんは綺麗系だけど若すぎる」

こいつら、クズだ。
あーあ、さっさと退院してくれないかなあ……。
初見から最悪な中。そして、私の担当後藤さん(仮名)はよくまあラブホじゃないのに奥さん(某国の人)といちゃついてた。
何度カーテン閉め切った中を無理やりこじ開けたことか。あのさ、ここは日本です。ラブホじゃありませんし、AVの撮影場所でもないんです。日本の常識教えて?なに、ダーリンが抜いてとか言ってきたの?ふざけんな、だったら真面目にリハビリやってさっさと退院しろ!!
とまあ、こういう心の声がよくダダ漏れしなかったなと自分の忍耐力を誉めたい。

因みに、エッチしかけているのを「担当なんだから一声かけてきて?」と頼まれたのは一度や二度ではない。あまりにもひどくて、奥様を何回か出入り禁止にしている。面会時間の制限もした。
それのせいで、この後藤さんは私に全て八つ当たりし、物品を運ぶ実母にも八つ当たりした。
流石に母を殴るシーンに当たった時は相手が患者だろうと私は本気で後藤さんを怒った。もちろん、大喧嘩になり、上長にしこたま怒られた。
「だったら、わたしからあの人の担当外してください」
マジギレしてそう言ったが、誰も後藤さんの面倒は見たく無いと視線を逸らし、てめえのケツはてめえでふけと言わんばかりに、最後まで後藤さんの担当となった。

奥様が来ないことで壁やリハビリに八つ当たりが増え、トイレ動作もなかなか自立に至らず車椅子をヤンキーカーのように乗り回す後藤さんに、リハビリから苦言がきた。

「あまりにもリハビリのやる気がなくて、どうにか出来ませんか?」と。
奥様が面会に来たらいいんだろうけど、私は別にくるなとは言ってない。実はこの話には裏があり、フィリピンの奥様が、自分の旦那がこんなに動けないなら困る、弱った旦那を見たく無い、ということで面会に来なくなったらしい。
実母が泣く泣く私にどうしたらいいのか相談してきたが、そもそも私も嫌われている(見た目から)ので、これ以上親密に接するのも難しい。
本人は若いが、食生活が壊滅的で薬も適当、若いからパワーで乗り切れると思っていたようだが、麻痺のレベルが酷く、1人でトイレ動作もままならなかった。
何度もトイレで転倒してあざを作ってもコールは押さない。そんで見つかると逆ギレするし、医者が回ってきた時も、リハビリが許可しないのが悪い、看護師がうるさくて嫌だとかとんでもないことを言う。
どうせ自由な人間なのだから、いっそ自分ができるラインと、出来ないラインを把握した方がいいのでは無いか?

最初のカンファレンスで、とりあえずトイレは自由に車椅子で行かせる許可が降りた。
本来は装具をつけないと立位も出来ないレベルなのだが、彼は極度の面倒くさがりで、ハーフカットしている短い装具ですらつけるのを嫌がった。
結果、やはりバランスが悪く何度も狭いトイレで体を擦り、怪我が絶えない。特に夜中に勝手にトイレへ行き失敗されるのだ。大体みんな彼に関わりたがらないので、何かトラブルがあると私が呼び出しされる。

苦肉の策で、夜だけ尿器を使うよう促してセットしたところ、10回以上失敗してやっと夜中だけ尿器を使うようになった。
「なんで最初っから置いてくれねーんだよ」と悪態をつかれたが、わたしは最初っから説明してるし、「んなもん恥ずかしくて置きたくねえよバカ!」と設置を促す度に、毎回言われた私の気持ちがこの人にわかるものか。

しかも、置いてからは尿器の楽チンに気づいたのか、やっと夜中〜朝方のイライラが減った。しかも、事あるごとに「俺の担当が無能だから、あんないいもの隠していやがった。とんでもねえやつだよ」と同じ部屋の患者達と笑い合っている姿を見てわたしの怒りはマックスだった。

丁度この患者受け持ちの頃、自分の家も環境が最悪で疲労は取れず、なんでわたしの担当ばかり面倒くさいのが当たるんだ?とイライラが酷く、ついに最終手段として師長に相談した。
毎日セクハラ?モラハラ?あまりにも酷い。派遣看護師の担当と変えられないか?と。
しかし、担当人選トラブルが嫌いなおばちゃんは「途中から担当は変えられないから〜」と濁し、「あなたの関わりが悪いからじゃないの?」と逃げられた。

誰もわたしの声を聞いてくれる人はなく、リハビリもなかなか進まない彼の進捗に悩みを抱え、PTは実に3回担当が変わっている。
最初の女の子はセクハラに耐えられずメンタルを病んで本院へ移動、2回目の担当もメンタルをやられて担当を変えてもらい、3回目は男性になったがこれも上手く行かないまま平行線。

そんな問題児と向き合う看護が、2ヶ月続いたある日──。


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