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彼の後ろに見える月

「いらっしゃいませ」

 私は花屋でバイトをしていた。理由は簡単、単純に花が好きだからだ。 
 季節の花や、花言葉を学べるし、売れ残って少し茎がダメになった花は処分される前に店長がこっそり私にくれていた。
 それを押し花にしたり、ドライフラワーに加工してもらうと、枯れかけた命がもう一度芽吹く。

 ただほんの少しだけ取り扱いが悪かっただけで廃棄処分になる花は本当に勿体無い。各地の温暖化と季節外の悪天候によりせっかくの花の寿命が短かったり、生育が悪かったり、花の色づきが悪かったり花屋の悩みは尽きない。


「この薔薇、素敵ですね」

 最近やっと仕入れた赤い薔薇に食いついたのは、まるで英国紳士のようなスラリとした身長に似合う白いスーツと、切れ長の青い瞳を持つステキな殿方だった。どこかの御曹司だろうか。まさか、お忍びで日本旅?

 彼は私を見つめてふわりと優しい瞳で微笑み、もう一度この薔薇、素敵ですねと声をかけてくれた。その甘いとろけるような声を聞いていると眠くなりそうな──。
 そんな事言ってられない、店番、店番……!

「ええ、赤い薔薇は最近暑いせいで少し色が落ちてしまうんです。花びらの外側もちょっと破れたり薄かったり」

「でも、すごくいい香りがしますよ。とても良く手入れされていますね」

 彼の後ろに、赤と青が混じる月が見えたような気がした。そんな訳ないんだけど。 
 思わず、その英国紳士さんみたいなお客さんからとてもいい香りがして、薔薇よりもあなたの方がいい香りがします、とつい口を滑らせそうになった。

「この薔薇、全部いただけますか?」

「ぜ、全部ですか!?」

 驚いた、流石御曹司(私の中で勝手にそうなっているだけ)
 確か入荷したのは36本だから、花束にするって言ってもあまり縁起のいい数字には少し足りない。どうせなら、100本の赤い薔薇!って言った方が映えるし、纏まりも綺麗だ。

「明日になったら、残りも入荷できると思いますけど……」

「そう。じゃあ、残りの64本は君が僕の屋敷まで届けてくれるんですね?」

「え? 私、ですか?」

「勿論。君に届けて欲しいんだ。よろしくお願いします」

「えっと、他の色でしたら多分100本あると思いますが…?」

「ううん、僕は、赤い薔薇を君に届けてもらいたいんだ。明日は、うんとお目かしして、僕のところに届けにきてください」

 流暢な日本語でそう言われてしまうともう何も言い返せない。御曹司スマイルに一撃必殺を喰らった私は無言のままコクコク首を縦に振った。
 すると少しひんやりする彼の手から白いメモをいただき、明日待っているよと満面の笑みを受けた。

 私の一目惚れから始まったこの恋──これが、ウィル=グレイアースと呼ばれる吸血鬼との出会いだった。




 久世くぜ花恵はなえさんという名前が遥の母親になります。
 名前にも意味がちゃんとあるんですが、これも語られるのは多分最後の最後のあとがきになりそうです。
 ウィル様はまだまだAIで作り続けておりますが、この時の表情が柔らかいのはまだ彼が若いからです。

 え、吸血鬼の癖に年齢あんの!?とか思った方正解。私の設定では始祖と吸血鬼、半死人(グール)と屍人(アンデッド)は別物です。

 ティムくんは何処に該当するのか、予測してもらえると面白いかもしれません😊

 私のAI画像作成&お遊び話にお付き合いくださりありがとうございました🎵

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