妹がツンデレ過ぎてまともな恋愛が出来ません！ 第１３話
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第１３話 「あれ？もしかしてシスコンの序曲？」
次の日曜日。今度はスポーツの出来る場所で遊ぶことにした。
何と栞も羽球の経験があるらしく、俺達はまたひとつ意外な所で意気投合した。
「びっくりしたなぁ。まさか、忍も羽球やってたんだって？」
「ああ。顧問に『お前がいると部員が減る』とか訳分かんねえ事言われて腹が立ってそのまま辞めたんだ」
「えぇ～！ 勿体ない。忍のフォーム、凄く綺麗だよ。しかも全然ブランク無さそう。格好いいし、モテるでしょ？ もっとやればいいのに」
いやいや、栞さん。それは褒めすぎですって。と思わず心の中でごちる。
モテるでしょ？ なんて聞き慣れない事を言われて少しだけニヤつきそうになったが、俺は慌てて面を締めた。
栞は共学のT高校に在学しており、今も羽球部に所属しているらしい。あまり動体視力が良くないと苦笑しており、本人はただの万年補欠だと言う。
ということは、次の高体連でT高校とうちの羽球部が当たったら、もしかして学校で栞に会えるとか？ ちょっとそれってラッキーな気がする。まさかの出会いがこうも実を結ぶなんて。
「そういやうちの高校、１５年振りに地区大会出るって言ってたなあ。女子の羽球部は今まで弱かったんだけど、今年強い子入ってくれたから」
「N高校でしょ？ 忍んトコ。いいよねえ、あそこの“柿崎ちゃん“が超強いって先輩が嘆いてたよ」
試合は何年生とか関係なく行われるので、純粋に１年生だけど強い柿崎ちゃんはもはや羽球部のエースと言っても過言ではない程の実力だった。
そんな俺はボロボロに負けたのに、当の柿崎ちゃんは更に俺を虐めたいのか『もう一度勝負したい』とよく言ってくる。結局、麻衣との関係がどうなったのかは怖くてどちらにも聞いていない。それに、ブランクあって、部員でもない俺があんな強い子に勝てるわけないんだっつの。
柿崎ちゃんが俺とまた戦いたい理由は、『ブランク持ち野郎に１セット取られてしまう』ことが非常に悔しいらしい。
１点も与えないで完封ゲームを目指したいのか。それとも、ただ麻衣の目の前で自分が格好 好いいとこを見せたいのか。
でも残念な事に、柿崎ちゃんがいくら格好良くてもやはり女だ。その不毛な感情を応援する事は出来ん。それだけは麻衣の兄として柿崎ちゃんの気持ちはセーブしたいと思う。
「よお〜っし。忍、いっくよ～」
「おぅ」
『普通の』女子のサーブは多少上手くてもスピードがそこまで出ない。そう考えると柿崎ちゃんはやはり何か違うとつい考えてしまう。
俺はへらっと笑いながら彼女の全力スマッシュを余裕で返した。
「もっと本気でいいぞ〜」
「ぶう〜。忍ずるい。少しは手加減してよね！ 私、補欠要員なんだからっ！」
「何言ってんだよ、俺なんてブランク３年だぞ、３年」
俺にスマッシュをお返しされて、悔しそうに頬を膨らませる栞はマジで可愛かった。そうだよ、こういうのが青春だよな、うん。
ブランクはあれど、リベンジマッチに向けて暫く麻衣と練習をしたので、このお遊び程度だったら栞とも楽しめる。
ああ、元々やってたスキルがこんなところで生かされるなんてっ！
俺は、ちょっとだけこないだ柿崎ちゃんと勝負して本当に良かったとしみじみ思い、栞との羽球を楽しんだ。
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夕方まで俺は栞と遊び、少しでも彼女と喋りたかった気持ちもあり、そのまま彼女を家の前まで送った。
「今日は本当にありがとね、忍。久しぶりに超楽しかった～」
「俺も楽しかった。そんでさ、もし栞の都合よかったら……また来週な？」
栞は補欠と言っても羽球部だ。当たり前だが、平日以外も部活動の練習が組まれていることだってある。
帰宅部の俺とは違い、栞は忙しいのだ。それを配慮して尋ねると、彼女はパラパラと自分の手帳を見ながら大丈夫と笑っていた。
「練習入ってないし、来週で大丈夫。次は忍から１セットくらい取りたいな」
「はは。じゃあ俺から１セット取ったら栞の好きなプランで」
「おぉ～、言ったね。じゃあ私もいっぱい練習してくる。じゃあ、また来週ね」
ひらひらと手を振る栞を見送り、俺は自分の家の方角へと足を向ける。
自宅方面に向かう電車に乗ること２０分。物凄く幸せだった。これが青春ってやつか。
他と比較しようが無いからわかんねえけど、栞とは上手く行っていると思う。彼女は裏表がなく性格はサバサバしておりとにかく話しやすい。今は女友達の延長線上みたいな関係だが、いつか彼氏彼女になっても互いの居心地は悪くないだろう。
それに、恋愛初心者の俺を気にしないし、嫌味なことや人の悪口も言わない。
父さんも偶にはいい仕事をしてくれる。お弟子さんの帆宮さんって方にはもう感謝の言葉しか出ない。
「ただいま～」
喜々揚々として帰宅するとキッチンには夕飯の支度をしている麻衣の姿があった。
母さんは買い物で不在。父さんはこの時間だとスロットか。
リビングを素通りすると、麻衣がピタリと料理していた手を止めて何故かこちらに近づいて来た。
「……今日、何処に行ってたの？」
「あぁ……えと、弘樹んトコ」
俺は何故か咄嗟に栞と遊んでいたとは麻衣に言えなかった。折角出来るかもしれない彼女チャンスを潰されたくなかったからだ。
しかし、全てを知っているのか、麻衣は「へぇ……」と言いながら俺にずいっと歩み寄った。
目がマジだ。こ、怖い……。
「……私、さっきまで雪ちゃんと遊んでたんだけど。弘樹さんと何処に居たのかな……？」
「ご……ごめん……」
言葉尻はごにょごにょしてもはや聞こえない程、完全に意気消失していた。
麻衣の”目だけで人を殺す”ような迫力に、俺は思わず生唾を呑み込んでしまう。
視線を泳がせていると、麻衣は小さく微笑み、俺の頬を両手で掴んできた。その瞬間、背後のキッチンでは包丁がフローリングの上にカツンと落ちる。
その小気味悪い音に思わずビクッと身体を跳ねさせた俺を見て、麻衣は口元だけで笑っていた。
「……いいの。兄貴が、ここに帰ってきてくれるならそれだけで……」
頬に触れていた両手が俺の背中に回る。きゅっと抱き着いてきた麻衣が妙に愛おしく感じた。ああ、確かに俺を罵って避けてきた今までの麻衣からは考えられない行動だようん。
何だろう……さっきまで栞と、あんなに楽しく羽球やってたのに、麻衣をこんなに寂しがらせた俺って、もしかしなくても超悪人？
な、何だ。まさか麻衣に対してちょっと変な感情でも芽生えたのか？
いかん。シスコンは弘樹だけで十分だ。俺は、栞とこれからまっとうな恋愛をするんだっ！！
そう思うのに。思っていたのに……。
俺はしがみついてきた麻衣をそのまま抱きしめ、心が泣き止むのを落ち着かせるように、麻衣の背中を暫くの間ずっとトントンしていた。