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変化を見つめるファンでありたい

自分には強く応援しているバンドが2組いる。
そのうちの1組、この文章の話題に挙げるバンドCAT ATE HOTDOGSは4年前にYouTubeのMVがたまたまおすすめとして表示されたのを何気なく再生したことで知った。それはまさしく衝撃的だった。タイトル通り機関銃で撃ち抜かれたのだろうか、それぐらい衝撃波を受け続けながら画面に食らいついた。

彼らは関西を中心にライブ活動しており関東にも積極的に来ていたようだが、バンドを知った当時は都合をつけて行けるライブがなく行けずじまいだった。そこからさらに2年経ち、平日休みの仕事をしていた自分はたまたま眺めていたTwitterで休日と彼らのライブ日程が被っていることに気付き、そのまま彼らのHPに飛んでチケット取り置き予約を申し込んだ。
度肝を抜かれたという表現はよく聞くけど自分でしたことは一度もない。だが新代田のライブハウスで観た彼らのライブで、度肝を抜かれるとはこのことなのかもしれないとはじめて思った。ものすごいものを観てしまったと、満たされたというよりやはり何かで体の中心をぶち抜かれたような感覚のまま物販に行った。物販対応をしていたベース担当に「楽しかったです。また来ます」となんともありきたりな言葉を伝えるのがやっとだった。それからというもの、行けるライブはすべて行きたいと思うようになり、関東でのライブには極力行くようにした。短期間に何度も足を運んだライブを通じて彼らのファンと知り合い、ライブを一緒に観たりライブ終わりに飲んだりするようにもなった。バンドを好きになってもそのファンとここまで仲良くなるようなことはこれまでなかった。自分と似たような熱量で彼らの話をできる人が何人もいるという環境が嬉しかった。バンドがいなければ生まれなかった人の繋がりだ。

それほどにまで大きな存在になっていた彼らには、2年前から腕の療養を理由に活動休止しているメンバーがいたのだが、今週その彼の脱退が発表された。

お知らせと各メンバーのコメントを全て読んだが正直言葉を捻り出そうにも出てこなかった。無理に出して、思ってもないうわべの言葉を羅列したところで意味などないし、あとで読み返した時に苦し紛れに発した言葉は読みにくいばかりで、こんな表現にしがみついてなんてことをしてしまったんだろうと自分にがっくりしそうだから、一言だけ残してそれ以上は触れずにいた。現実を直視できず受け止めきれなかった自分がとった、自己防衛のための最大限の行動だ。

自分の虚無感とは裏腹に、脱退に対するファンのコメントは多く発信されていた。悲しむ声や熱い言葉、感謝の言葉がタイムラインをゴロゴロと流れていくものだから、みんなよくこんなに言葉が出てくるもんだと、かえって感心した。なぜなら熱く語ることはもちろん、悲しむことにもそれなりエネルギーがいるから。そうできるだけ、まだみんなにはエネルギーがあるんだなと思った。自分は脱退のお知らせを前にただ呆然と立ち尽くしているのに。捻り出す言葉どころか悲しむエネルギーすらないのに。

しばらく彼らの曲も聴くことができず、ようやく聴けたのは三日経ってからだった。深夜シンクに溜まった食器を洗おうとした時だった。なぜだか無音に耐え難い感覚があったその時に「聴きたい」というより「聴かせてほしい」と思ってヘッドホンをカバンから引っ張り出し、彼らの曲をシャッフル再生し始めた。
曲を聴きながらあることに気づき、落ち込み切った自分の腕を彼らに掴まれ引っ張り上げられるような感じがした。もうこれ以上落ち込まなくていいのだ。自分にはまだ救いがある。なぜなら彼らはメンバーの脱退に留まりバンドの存続を選んだからだ。バンドはまだ続く。ギターボーカルのひこがメンバー脱退に対して残したコメントに「尾崎のギターに執着していた」とあった。それだけ惹かれたリードギターが辞めるぐらいならバンドを続けることに意味を見出せないと解散を選ぶこともあり得た。だが体制を変えて新たな足跡を残そうとしているのだ。

自分には強く応援しているバンドが2組いると言った。もう一組はBase Ball Bearという。さあ、お気づきの方もいるかもしれない。何を隠そう、彼らもCAT ATE HOTDOGSと同じく、8年前にリードギターが脱退したことで4ピースバンドから3ピースバンドへ体制を変えて活動を続けるバンドだ。そしてなおも進化を遂げ続け、新たなファンを引き込みながら今年結成23周年を迎えた。さて、自分のことを「応援しているバンドが悉く同じような道を辿っているのを見せられてさもアンラッキーなファン」と思うだろうか。だがそう思うのはいかにも短絡的でつまらない。これからも絶え間ない進化を追い続けることができそれを楽しめる自分は強運の持ち主であり、しぶといファンだ。

CAT ATE HOTDOGSのこれからの意思表示かのように新体制初の楽曲が今日リリースされた。

ボーカルの特徴的な掠れ声に泥臭いサウンドが心地よく絡み合う。メンバー脱退により当たり前にリードギターの音はしないわけだが、だからといってバンドサウンドに「足りない」と思わせる要素は感じられない。むしろすでにメンバーは3人でも大丈夫だからと駆け出していることを感じさせる音源だ。安心してついていっていいと思わせてくれた。

そうだ、置いていかれないように自分も早く駆け出さなければ。彼らとともにまだ見ぬ荒野へ。
今後も大なり小なり彼らの変化に出くわすだろう。最初はうまく受け止められなくて目を逸らしてしまったとしても時間をかけて咀嚼していけたらいい。そしてその姿を変わらず見つめていたい。

足跡のない荒野へ行こうぜ、今夜

CAT ATE HOTDOGS『ノラネコ日記』

変わり続ける君を
変わらず見ていたいよ

Base Ball Bear『Short Hair』