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【第10章】収奪者の影

橘薫は藤堂の名誉を回復するため、どこかで手がかりをつかめないかと日々悶々としていた。藤堂が追放されてからしばらく経つが、どうにも藤堂の評価を下げるような妙な噂が次々と広まっていることが気になっていた。社内では、「藤堂の実績は実は捏造だった」とか、「彼が残した成果は、実は誰かの手柄を横取りしたものだ」という話を耳にすることが増えてきた。

橘薫はそれが単なる悪口ではないことに気づいた。あまりにも広まりすぎていたからだ。社内のどこにでも、藤堂を貶める噂が蔓延している。

その日の昼休み、橘薫は桐生と一緒にランチを取っていた。桐生はどうも噂に気づいていた様子で、苦々しい表情を浮かべている。

「また藤堂さんのことを言ってる連中がいるよな…」桐生は口を閉ざし、隣に座った橘薫に話しかけた。

「ええ。『藤堂さんの成果は実は捏造』とか、『手柄を横取りした』って…」橘薫の声も自然と低くなる。

桐生は憤りを抑えきれずに言った。「そんなの、聞き捨てならない。あんなに真摯に働いてた藤堂さんを、そんな形で貶めてどうするってんだ。」

「…でも、この噂、あまりにも広まりすぎているんです。誰かが意図的に広めている気がするわ。」橘薫は眉をひそめ、周囲を見回しながら言った。

桐生がうなずいた。「間違いないな。でも、一体誰がこんなことをしてるんだろう?」

その時、橘薫の頭にひとつの名前が浮かんだ。「水木…」

桐生もその名前を口にする。「水木さんか…。藤堂さんの前の上司だもんな。あいつが今、何かを隠してるんじゃないかって思う。」

橘薫は急に思い立ったように立ち上がった。「桐生さん、行きましょう。水木のこと、当時のことをもっと掘り下げて調べてみる。」

桐生は驚きながらも頷いた。「それはいいアイデアだ。俺も手伝うよ。」

二人は午後の仕事が終わった後、さっそく水木の過去を調べることにした。水木の元部下や、当時藤堂と一緒に働いていた社員を探し、話を聞くことにした。

数日後、ついに一人の社員が、当時の状況について語り始めた。「実は、藤堂さんの成果を奪って上に報告していたのは、水木さんだったんですよ。」

橘薫は息を呑んだ。桐生も驚きの表情を浮かべる。

「藤堂さんは本当に素晴らしい仕事をしていた。でも、水木さんはそれを自分の手柄にしようとして、藤堂さんの名前を挙げることは一度もなかった。」その社員は続けて言った。

橘薫はしばらく黙っていたが、心の中で何かがはっきりと見えた。「水木が藤堂さんの成果を奪っていたなんて…。どうして、こんなことを?」

桐生はつぶやく。「自分の立場を守るためだろう。水木さんは藤堂さんの成功が目障りだったんだ。」

「そして、今もそのことがバレるのが怖いんだろう…」橘薫はつぶやきながら思った。

その後、二人はさらに調査を進めた。どうやら水木は今も、藤堂が自分に手柄を横取りされたことを知られるのを恐れているらしい。水木は自分の地位を守るため、藤堂を貶めるような情報を広めていたのだ。

「藤堂さんの汚名を晴らすには、これが鍵かもしれない。」橘薫は決意を新たにした。

桐生も同じ思いを持っていた。「俺たちで水木を暴いて、藤堂さんの名誉を取り戻そう。」

二人は再び、藤堂の汚名を晴らすために行動を起こす決意を固めた。



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