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【第13章】矜持 vs 妬み
藤堂明は、どこにいても常に真摯に仕事に向き合っていた。その熱意と成果は、彼にとって当たり前のことであり、周囲の誰よりも努力し、結果を出し続けていた。だが、藤堂のように全力で仕事をする姿勢が、逆に問題を引き起こすこともあった。特に、仕事をサボりたい、楽して給料をもらいたいと思っている者にとって、藤堂の存在は目障りであり、彼の成功は自分たちの立場を脅かすものと映った。
藤堂が成果を上げるたびに、相対的に働きたくない者や、なかなか結果を出せない者は次第に立場を失い、そのことが彼らにとって耐えがたい状況となった。藤堂の努力と成果は、彼らにとっての「失敗」を際立たせ、仕事に対する姿勢や結果が自分たちと比較されることを苦痛に感じる者も多かった。そのため、藤堂を目の敵にする者たちが出てきたのである。
徳山と下田は、藤堂がいないオフィスで密かに会話を続けていた。二人の顔には、藤堂の業績が引き起こした苛立ちと、それに対する対策を練る思惑が浮かんでいた。
「藤堂のやり方、本当にうざいな。」下田が低い声で呟いた。「どんなに忙しくても手を抜かないし、あいつの成果が俺たちの立場を脅かしてる。」
「俺もだ。」徳山も頷きながら言った。「藤堂みたいなやり方を続けられると、こっちが目立たなくなる。あいつがいるせいで、俺たちがどんなに頑張っても、どうしても相対的に評価が下がってしまう。」
下田は眉をひそめ、しばらく考え込んでから言った。「確かに、あれだけ仕事を頑張っていると、周りに余裕がなくなる。藤堂がいなければ、もっと楽に仕事できるんだけどな。あいつがいると、どうしてもミスをする余裕がなくなる。」
「その通りだ。」徳山は少し笑みを浮かべながら言った。「でも、藤堂が真面目にやればやるほど、足元をすくうチャンスが広がる気がする。そういえば、藤堂の部下だった村中、覚えてるか?」
下田は少し驚いたように目を細めた。「ああ、村中か。確か、藤堂の部下だったよな。あいつ、藤堂に対してちょっとした不満を漏らしていたのを覚えている。藤堂があまりにも厳しくて、仕事の進め方が息苦しいって言ってたな。」
「そうそう。」徳山は冷静に続けた。「あいつ、藤堂が部下に対しても厳しくて、時には細かすぎると感じていたみたいだ。藤堂がしっかりしているからこそ、村中にはプレッシャーがかかっていたんだろうな。」
下田は少し考え込みながら、頷いた。「あいつ、藤堂に対して不満が溜まっていたことは確かだな。ああいう部下がいれば、藤堂もある意味負担に感じているだろう。」
徳山はゆっくりと話を続けた。「もし、村中に藤堂のミスを探させて、その不満を表に出させることができれば、藤堂の評判を落とすことができるかもしれない。藤堂は完璧を求めるから、ほんの些細なミスでも大きな問題として扱われるはずだ。」
下田は目を細め、少し思案した。「確かに、それなら藤堂の立場を危うくすることができる。もし村中に、藤堂が間違ったことをしていると感じた瞬間に、そのことを広めさせることができれば、藤堂の評価は簡単に下がる。」
徳山は満足げに頷いた。「そうだ。それに、村中だけじゃない。他にも藤堂に不満を持っている奴がいるはずだ。藤堂が真面目すぎて、ちょっとしたことでも厳しく言うから、仕事のペースに合わせられない奴もいるだろう。」
下田は冷静に言った。「その通りだな。藤堂に不満を持っている部下を見つけて、うまくそいつを集めて、藤堂を追い詰める材料にすればいい。藤堂が些細なミスをして、それが広まれば、あいつの無能さを示す材料になる。」
徳山は嬉しそうに、少し低い声で続けた。「あとは、村中に藤堂の仕事を少しでも妨害させる。そうすれば、藤堂が計画通りに進められず、さらに失敗が目立つようになる。それを利用して、藤堂がいかに部下をうまく使いこなせていないかを示すことができる。」
下田は納得したように頷きながら言った。「藤堂がミスを犯した時、それをうまく広めて、問題にする。それができれば、藤堂がいかに無能であるかを皆に知らしめることができる。あいつが真面目にやっているからこそ、足元をすくいやすいんだ。」
徳山は満足げに微笑みながら言った。「それに加えて、藤堂のペースに合わせられなかった部下をうまく利用して、藤堂の立場を揺るがす。少しでも仕事が停滞すれば、それがどんどん広がって、藤堂は結局、評価が下がっていくことになる。」
下田は冷静に続けた。「藤堂がどんなに頑張っても、周囲のサポートを得られない状況に陥れば、すぐに崩れるだろう。今のうちに、藤堂を少しずつ追い詰めていく計画をしっかり練るべきだ。」
徳山と下田はその後も話し合い、藤堂を排除するための詳細な計画を練りながら、満足げにその時を待った。
徳山と下田に仲間に引き入れられた村中は、藤堂に対する不満を持っている池田を見つけ出し、巧妙に彼女の愚痴を煽った。「藤堂さんのやり方、あんまりだよな。厳しすぎて、ちょっと耐えられないっていうか…」と池田が言うと、村中はうなずきながら言った。「そうだな、あの人は部下の気持ちを考えずに突っ走るからな。でも、もしその不満を会社でうまく利用できたら、状況は変わるかもしれないな。」
村中の言葉に池田は少し考え込んだが、次第にその考えに乗る気になっていった。池田の不安や不満を煽り続け、ついには藤堂に対する反感を強めさせていった。
そして、ある日、村中は池田を徳山と下田に引き合わせることにした。徳山と下田は、池田に何かを託すような意味で彼女を迎え入れると、無駄に時間をかけずに本題に入った。「お前、藤堂の下で働いているんだろ?あいつ、少し厳しすぎるんじゃないか?」と徳山が言うと、池田は少し驚いた表情を浮かべた。「ええ、確かに、ちょっときつい部分もありますけど…」徳山はそれを聞いて、にやりと笑いながら言った。「もしあいつが部下に対して不適切な言動をしているなら、パワハラで追い込むのも一つの手だ。証拠があれば、うまく立場を変えられるだろう。」
下田もその言葉に続けて、「そうだな。藤堂のような上司は、ちょっとしたことで足をすくわれるもんだ。お前も、藤堂が気に入らないことがあれば、どんどん利用すればいい。」と暗に指示を出した。
池田はその言葉に心が揺れ、藤堂を追い込むことへの期待と不安を抱えながら、村中、徳山、下田の計画に乗る決意を固めた。彼女は藤堂の不満をさらに深め、その後の行動に向けて動き出すのだった。
その後、池田と村中は藤堂の言動を誇張し、不適切な証拠を捏造。藤堂のパワハラをでっち上げる計画は着々と進行し、ついにその証拠が表に出るときが来た。そして、「例のパワハラ事件」として藤堂は会社内で追い込まれることとなったのである。