11/25 絶望の反対語
たまたま向きあって用を足す二人のうちの一人が、もう一人にだまって紙を差しだす。たったそれだけの、なんとも些々たる光景です。詩人に紙をわたした老人も、あえて「好意」からというより、たまたま前に腰かけている男をみて、なんということもなくおのずと手が動いただけのことかもしれない。しかし私はここを読んで、絶望という言葉の反対語は、希望などというしゃらくさい言葉ではないとあらためて感じました。なにかもっと希薄で、目にみえないヒラヒラしたものをあらわす言葉がふさわしい。それではどんな言葉がいいのか。さんざん考えてみましたが、ついにみつかりませんでした。
(中略)
絶望の対極をあらわす日本語がないかぎり、いまなお、私たちは金子光晴の書いた「絶望」の精神史(それは近代史のゆがみそのものです)の延長線のうえに生きるしかないのです。
山村修『〈狐〉が選んだ入門書』
金子光晴『絶望の精神史』について
長く引用してしまった。「希望」ではない、「絶望」の反対語を探すこと。