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男性が女性にAEDを使うリスク?セクハラ?

SNSを見てると数年前から徐々に増えてきている気がするこの話題。

セクハラ冤罪なのかそうじゃないのか問題。

循環器内科医として一度は触れておこうかなと。

最初の方は前提知識、途中からタイトル回収です。



前提

みなさん知っての通り、

AEDは致死的な不整脈などが起こっている患者の胸にシールを貼ることで、機械が自動で不整脈などを判断し、除細動(電気ショック)を与えることで不整脈から回復させてあげるための機械です。

日本は世界で一番街中に配置しているらしい。ほんと神。

AEDは心臓の電気信号を読み取る必要があるため、洋服などの異物の上からシールを貼ってしまうときちんと判読ができません。

原則として上半身の洋服を脱がす必要があります。

社会的な問題に?

ここで男性が果たして女性の服を脱がしていいのか、万が一セクハラ疑いなどされたら社会的に自分が死ぬなどという噂が非常に広まってしまいました。

一部の弁護士が、万が一訴えられても弁護します、など言ったことでますます、訴訟の可能性を変に意識させてしまいました。

痴漢やセクハラに限らず、変な噂が立つだけで世間から嫌な目を向けられる可能性が出てくるのが、ここ最近の嫌な流れです。(だいたいの原因はSNSの炎上系アカウントやマスコミによる偏向報道ですが。)


心停止って

テレビなどでもしばしば話題になっていますが、

いわゆる心停止(不整脈含む)の場合は、まず5〜10秒程度で意識を失い、倒れます。

そしてそのまま3分を超えると脳が死にます。要するにカップラーメンを作る時間なにも処置をしないと仮に病院に運ばれて命が助かったとしても、意識が戻らない状態になるということです。

心停止というのは、心臓がうまく機能しないために全身に血液が遅れない状況、すなわち、脳に血液がいかない、ということになります。

ちょっと例えるならば、水の中で溺れている状態です。地上で3分だと酔っ払いと区別つかないですが、水中で意識を失って3分といわれると、そりゃ助からない、とイメージつくと思います。

実際にその状況を見たことがある方は想像がつくかもしれませんが、

心臓がとまった状態の場合、人は頑張って酸素を脳に送ろうと頑張るので、無意識のまま大きな呼吸を繰りかえします。死戦期呼吸といわれるものです。

これは寿命や病気などで人が亡くなる際にもしばしば見られるので、ご家族の最期を看取った方などはこの現象を見たことがあるかもしれません。


倒れている人を見かけたら

いずれにしても、この状況を唯一救うことができるのが、

心臓の代わりに血液を全身に回してあげるための処置、すわなち、胸骨圧迫といわれるもので、胸の真ん中を5cmほど深く押し込み、またきちんと上にあがるのを待つ、というのをひたすら繰り返す処置です。

アンパンマンのマーチを心の中で歌いながらみんな頑張ります。

「なんのために生まれて、何をして喜ぶ」の曲です。原曲の早さがちょうどいいんです。ただ、病院内でない場合はたぶん落ち着いてられないのでおそくら2倍速くらいになってしまうと思います。でもなにもしないよりはマシ。

BLS:Basic Life Supportという資格を持っている方は経験あると思いますがこの行為は見た目以上に疲れます。2分で次の人に交代、となっていますが、体力に自信のある方でなければ1分でバテる可能性もあります。

実際に、病院内で胸骨圧迫を行った看護師がその途中で酸素不足から心停止になった例なども報告があるほどです。

自分も留学前は数ヶ月に1回胸骨圧迫をしないといけない現場に出くわしていましたが、その日は必ず筋肉痛になりました。


AEDは

じゃあAEDは、というと、この心停止という状態のうち、不整脈が起こって心臓が血液を全身に送ることができていない状況(正確には心停止ではない)に対して、

不整脈をを止めることで、一件落着、という状態に持って行こう、という画期的な機械です。こんなのが街中にあるってすごい。

残念ながら不整脈ではなく、完全に心停止という状況であればこのAED、電気ショックは無効です。すでに亡くなった方の心臓に電気ショックをしたら生き返るのか?といわれたらそりゃしないですよね。

完全に心停止している方の場合はAEDは効かず、救急車がくるまでひたすら胸骨圧迫をし続ける必要があります。

救急車がきたら、救急隊が病院に到着するまで引きつぎます。無尽蔵の体力に尊敬です。


ここから大事なところ

このあたりからタイトルについてお話ししていきます。

特にいろいろ不安な男性の方、ここからだけでも覚えて下さい。

  1. まずは何より先に胸骨圧迫をする

  2. AEDはまったく意識がない人に行う電気ショック

AEDが活躍するのは、その人に「まったく意識がない状態のとき」です。

それを判断するのは素人には無理?いえ、誰が見てもわかります。

どんなにひっぱたいても、胸骨圧迫で肋骨が折れようと、なにをしても反応ないです。自転車にひかれようとも反応がありません。

酔っ払いがうにゃうにゃいってる状況とはまったく異なる、無の反応です。痛いと言うこともなく、手足を動かすこともありません。アルコールで意識失っている方もぶん殴れば体を動かします。

その状況を一度でも経験したらわかりますが、その現場に出くわすと恐らく、目の前の人が死ぬかも(あるいは死んでいるかも)という直感から、ゾクっとした悪寒と冷や汗をかきはじめます。

なんか小言いってる、胸が痛いと苦しんでる、どうしようどうしよう、と迷うような人は対象じゃないです。

迷うくらいの相手にはAEDは使っても意味がない。

この切迫した状況で、女性の服を脱がす、脱がさないで倫理的な面を言ってくる人は周りにいません。

セクハラが心配、など言ってられる状況ではありません。この発言は意識が無い人を目の前でみたことがない人の平和ぼけした発言です。

訴える訴えないなど騒ぐのは、その現場を見ていないネット上の第三者の人がSNSで変な発言をしてるだけです(言わせておきましょう)。

そしてそんな事件はいままで一度も起きていませんし、今後も起きません。SNSでそんなニュースが流れたとしたらそれは創作ニュースです。

たまにテレビでは、ブラをしたまま、洋服を脱がさないよう工夫して、覆いをかぶせて、などいろんな意見をいうコメンテーターを見かけますが、

そんなゆっくりしてたら死にます。洋服はビリビリに破ってかまいません。病院だとぶっといハサミがあるのでチョキチョキしてます。

工夫しましょう、なんていうのは現場で働いていないから出てくるアイデアってやつです。

仮に意識がなくても服を脱がされるのは嫌だと言っているSNSでの女性の意見も、みな意識を失ったことがない方の発言です。

気がついたら病院にいて九死に一生を得た、生き返った、という方は本人も家族もみんな安心感と感謝の気持ちであふれています。

未経験の妄想から適当なことをいっている人の発言も気にしなくて良いです。


AEDを使用する実際の状況

AEDを使用する場面というのは100%の確率で、胸骨圧迫をしながらです。

単独でAEDをすることはないですし、目の前にあるからといっていきなりAEDを使うなんてことは絶対にありません。アンパンマンを歌いながらAEDの準備をします。

そして、胸骨圧迫をしたら意識が少しでもある方は目が覚めます。とんでもなく痛い。胸骨圧迫なんて続けられません。逃げます。

AEDを使用するって言うのはそんなとんでもない行為をしても目が覚めない人にだけします。迷う迷わないの状況ではないわけです。


現場の映像

胸骨圧迫の現場を見てみる経験ってイメージもわきますし、すごく大事だと思うのでこちらをぜひ見てみて下さい。

人体模型ではなく、リアルの救命現場の映像です。

2:50くらいからです。特に血が出たりのシーンはありません。
心停止患者に対してレスキューした実際の映像です。

窒息での心停止なのであっさり復活していますが、実際にはこううまくはいきません。

そしてこの映像は対応になれた人たちであり、そうでない場合はぐだぐだになると思います。ただ、心停止の人に対する対応というのはこのくらい緊張感がある現場だということは理解できるかと思います。


実際そんな場面に遭遇したら

3分、理想的には1分以内に処置をしてあげる、ことを考えると、自分には無理だと考えたくなる気持ちはわかります。

おそらく2パターンです。

1つは死に物狂いでなにかをしようとテンパりながらもなんかがんばる。

もう1つは頭が完全にフリーズしてしまい、思考停止して体が動かない。

いずれになったとしても、セクハラになるだのならないだのといった雑念はわきません。

ただ、あらかじめ勘違いで変な知識や意識をもってしまうと、1のパターンの方の勢いを止めかねないので周知が必要です。

救命第一に行動するということをまずは考えていただければと思います。

倒れている人が家族であればどうでしょうか。たぶんパターン1になると思います。

そして少し言葉は悪いですが、仮にその人が助からなくても自分の責任にはなりません。なにが起きようとも許されます。対応して救命できなかった人が医者であっても許されます。

法律で、絶対にセクハラにならないように、また死んでもその人の責任にならないように制定してほしい、という一般意見も散見しますが、

そんな状況にはならないのでそんな法律作っても無駄です。


1人の時

ちなみに、倒れた人を目撃したのが自分しかいないというとき、

1人では無理です。どうやっても助かりません。

病院で心停止の人の対処するときにどのくらいの医療関係者がいるかご存じでしょうか。

大体10-15名が輪になって1人の患者の救命を行っています。専門家がそれだけいてやっと助かる(かもしれない)命です。自分一人で助けようとしないことです。

まずは周りに人がいないかを探し回って下さい。その人が生きてようが死んでようが、救急車や警察に連絡するよりも先に人を探します。

自分を含めて最低4人いること、そこからがすべての始まりになります。

4人というのは、救急車に電話する人、AEDを持ってくる人、(自分含めて)胸骨圧迫する人、という考え方ですが、数字など覚えても仕方ないので、とりあえず人がいっぱい必要、それだけ覚えましょう。


最後に

SNSの変な噂に影響されて不安になる気持ちはあると思いますが、全然気にしなくて大丈夫です。

意識失っている方であれば胸骨圧迫(これがなにより一番)をしながら、遠慮なくAEDを使用しましょう。

勢いがある処置をして、ようやく運がよければ救命できる、という状況であることを理解してもらえるといいかと思います。

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あおい@英国ポスドク生活
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