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ゴンドウトモヒコさんのソロアルバムが好き(Vol.16)

 音楽家のゴンドウトモヒコさんのソロ名義のアルバムについての感想文。9月中に書きたいと思っていたが、ベーソンズを観に行ったりD.M.Pを観に行ったりしていたら、気付けば10月になっていた。
 既にVol.17もリリースされていますが、公式情報は以下からどうぞ。 


Vol.16【FANTASY〜安直な神話】

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 2023年9月1日リリース。ここ数か月、Vol.13は比較的スマート、Vol.14Vol.15は明確に夏の作品、といった傾向が続いていたので、久しぶりに「蓋を開けるまで何が入っているか全く分からないのが来たな…(ジャケットも怖いし)」という第一印象だ。

 蓋を開けると早速、陰のあるユーフォやフリューゲルが特徴的なM-1[安直な神話Ⅰ]が始まる。リードを取るフリューゲルやユーフォのソロのようなパートの物憂げな音色も良いが、それ以上に、イントロからずっと響き続けているユーフォの低音のハーモニーに耳を傾けたい(ユーフォだと思って聴いているが、もしかしたらシンセかもしれない)。
 M-1とはうってかわってM-2[彼女の踊りっぷり]は、タイトル通り、踊るようにシロフォンやマリンバなどの鍵盤のような音が転がり続ける曲だ。ポップな曲調だからか、蓮沼執太フィルの音楽と併せて聴きたいとも思う。M-1の空気を吹き飛ばすような勢いだが、本作は1曲毎に場面が転換していくような構成だ。
 続くM-3[End of the Century Part1]はじわじわと時間をかけて展開していくので長さをあまり感じさせないが、8分を超える大曲だ。3:36頃のブレイクから入ってくるシンセとその後の展開がメインテーマに当たるのかなと勝手に捉えている。全編を通して時折聴こえる女声コーラスも含めて、アクション映画のサントラだと言われても違和感が無い曲だ。
 M-4[On the Corner]は、ミュートしたユーフォが醸し出す寂寥感が印象的だ。1:20頃から追い立てるように入ってくるドラムやパーカッションと、一定のテンションを保ちながら重く響くウッドベースのコントラストがさらなる空虚さを演出する。この曲を聴いて私は「夏が終わった」と感じたのだが、秋の夜に聴きたい曲だ。本作で一番なのは勿論、他のソロワークスを通しても「好きな曲上位」に入る曲なのだが、生音のサウンドの無骨さが際立つという点ではVol.13のM-10[Volcano]に通じるところがあり、こういうテイストに寄せたアルバムも聴いてみたい。
 M-5[私たちから渡したチカラ]からM-6[Fifty-Hurricane]は中盤の盛り上げポイントといったところか。M-5はもう「曲名のタイトル勝ちでしょうよ…」と思わず笑ってしまった。M-6は、これもまた本当に自分にしか分からない感覚だと思うが、妙にニューオリンズジャズっぽい。きちんとコードや構成を取った訳ではないので何故そう聴こえるのかは理解できていないのだが、アレンジをガラッと変えてセカンドラインのように演奏されている様子が目に浮かぶ。
 M-7[daydreaming]はリリース前にトラックリストが公開された時点でそうかもしれないと睨んでいたが、Vol.4のM-3[Daydreaming]の別バージョンだ。ユーフォの主旋律部分は変わらないが(全く同じかもしれない)、イントロ(導入部分)が長かったり、ベースラインの動きがあまり見られなかったり、生のドラムに近いような音も無かったりするので、しっとりとしたイメージになる。[Daydreaming]が晴れの日だとしたら[daydreaming]は雨の日、或いはそれぞれ春か秋か、そういった対照的な音楽に聴こえる。
 M-3と続きものなのか、M-8は[End of the Century Part2]。M-3でも少し聴こえていた女声コーラスがこの曲では前面に出てくる。コーラスとエレピの音が漂う前半部分は聴いていて迷子になりそうなのだけど、1:41頃からベースが入ってくるとグルーヴ感が出て聴きやすくなる。ただ、(間違っていたら申し訳ないのだけれど)コーラスとベースとエレピのそれぞれのキーが違うのか、浮遊感が最後まで残る不思議な曲だ。そして、M-9はM-1とシリーズものか、[安直な神話Ⅱ]というタイトルが付けられており、M-1から続く翳りはホーンからピアノへ受け継がれている。
 全体の傾向として少し陰のあるアルバムだが、終盤は明るさも見えてくる。M-10[LoCoMo]は本作で唯一、可愛らしさのある曲だ。トロンボーンとフリューゲルとの掛け合い部分が楽しい。ラストのM-11[D.O.L. version1]では、今度は重いディジュリドゥとシャープなフリューゲル、それぞれの音が交錯する。終わりというよりも、次の物語を予感させるような趣もある。

 蓋を開けてみないと分からない、開けてみても偶に迷子になることもあるアルバムは本作が初めてでは無いが、それでも、こういう作風もあるのかという気付きがあったり、思わぬキーワードや光景(今回だとセカンドラインがそれに当たる)が浮かんだり、まだまだ新たな発見があって面白かった。一見捉えどころの無いアルバムこそ、思わぬ出会いが広がっている。


秋の夜長に…

 アルバムの感想からは離れるが、ソロワークスの中から秋の夜に聴きたい曲をプレイリスト化してみた。新作のVol.17からも全曲追加したいぐらいだが、まずはVol.16までの楽曲から抜粋。


Vol.17【17】

 10月6日にリリースされた最新作【17】も素晴らしいです。これこそ秋のアルバムだと思う。