ゴンドウトモヒコさんのソロアルバムが好き(Vol.20)
リリースから随分日数が経ち、次作となるVol.21も既にリリースされていますが、音楽家のゴンドウトモヒコさんがソロ名義でリリースされているアルバムの感想、Vol.20編です。それから、ソロワークスの曲をライブで聴けた、という話も少しだけ。
公式情報は以下ページからどうぞ。
上記の公式ページにてセルフライナーノートが読める旨も先日アナウンスされていました。
Vol.20『Frosthony』
配信リンクはこちら。
2024年1月6日リリース。2024年第一弾リリースは、雪景色のジャケットに、冬の澄んだ空気の中で聴きたい楽曲が詰まった1枚。3分以内の短めのトラックも多いが、どれも個性が強く聴き飽きない楽曲ばかりだ。
冒頭はM-1「2.25」、M-2「Portable Rock」と前作(Vol.19)の重さを振り切るような軽快な楽曲が続く。M-1はフルートのような音色とそれに呼応する北欧(若しくは東欧)風の滑稽なフレーズがクセになる。M-2はドライブ感があるがアグレッシヴでは無く可愛らしい1曲。いずれも手のひらサイズのような、或いは箱庭のようなイメージで、Vol.6『こびとづかん』に通じるところがあるようにも思う。
M-3「Mystic Melancholy」は、全く同じという訳では無いが、Vol.10『tuning pressure』のM-1「河童の堵列」やM-10「Music for Psychoroman」で使われているものにも似たフレーズが、冬の空気の冷たさを表現しているように聴こえる。そのフレーズの下、リズムボックスが刻む拍の間を這うように進むシンセベースが気持ち良い。続くM-4「Whispers of Disquiet」も冬景色だが、こちらは曇天を思わせる。不穏なユーフォの響きが描くのは、分厚い雲か、それともしんしんと降り積もる雪の深さか。その後ろで入るノイズがさらに不安を駆り立てるが、最後もノイズで終わるというのだから気を抜けない。
不穏ながらも少し流れが変わるのがM-5「Enigmosity」だ。ソロワークスの中でも珍しく横ノリのグルーヴ感のある1曲だが、もたるようなテンポが全身を揺らし、1:14辺りからのエレピのキメのフレーズが入ってくる頃にはもうすっかりこの曲の虜になっていること間違い無し。キメの後半からは畳み掛けるようにフリューゲルが合流して場を盛り上げるが、その後始まるソロは音色・フレーズ共にいつになく気怠く、特に3周目辺り(2:46頃)からスケールアウトしていくのは少しジャズっぽくもある。そこから再びキメのフレーズに入るという緩急差を味わいつつ、アウトロの最後の一音まで聴き逃せないまま曲は終了する。今迄あまり聴いた事の無いような曲故に新鮮さを覚えつつ、しかし(これまた本当に珍しく)自分のリスニングのベーシック部分に沿うようなものに出会えた事にも驚く。もう20作目だが、ソロワークスにはまだまだ新しい出会いが広がっている。
冒頭で本作の収録楽曲はどれも個性が強いと書いたが、この辺りからは1曲毎に場面転換が繰り広げられる。M-6「Quirkspire」はユーフォの暖かな音色が全体を引っ張る変拍子曲。アコースティックなサウンドの上に、途中から入るミュージックソーのような不思議な音、そしていきなり展開が変わりソロピアノだけとなるという一筋縄では行かない展開も含め、anonymassの曲のようでもある。M-6から一転、次のM-7「Luminozzle」はトラフィックインフォメーションで使われそうな軽やかなエレクトロ楽曲だ。Vol.13『Vortex of Blue』のM-4「Pulse Drive」と近い印象を受けるので、もしかしたら同アルバムの楽曲群と同時期の作品なのでは、と想像する。続くM-8「Eclipsire」は1:34と短いが、16分でうねうねと動くベースラインと小気味良いウクレレ(ギター?)のカッティングが心地良い。
M-9「Gloomburst」は、冒頭のギターから映画のワンシーンを想起させるようなドライビングソング。イントロのパーカッションや途中から入ってくるクラベスによるラテンのエッセンスに、ユーフォのハーモニーがさらなる怪しさを添え、準備が整ったところで「待ってました」と言わんばかりにフリューゲルのソロが始まる。一瞬ギターかと聴き間違えるほどにワウがかかった音色は、本作のジャケットの雪を全て溶かすかのような勢いで猛進する。曲自体はこのフリューゲルソロのままフェイドアウトしていくが、それも映画のサントラのような終わり方だ。
次のM-10「At the time of departure for cuckoo clock」では、再び雪景色が現れる。M-9での熱気から一夜明け、雲の切れ目から光が差すような穏やかな時間だ。続くM-11「Breezefulic」もサントラのような曲だが、こちらは日常のワンシーンといったところ。
そろそろ本作も終盤に差し掛かるが、ユーフォの厳かなハーモニーの上に凛とした佇まいのフリューゲルが響くM-12「Quiet Ceremony」は、後半から終盤のハイライトとも言えるだろう。金管アンサンブルのような楽曲だと過去にVol.7『about Boylston street』のM-1「One holy night」があるが、同曲のような愁いは無く、タイトルさながら教会音楽のような清廉さを持つ。この曲のように、ユーフォ・フリューゲル(+打楽器)や、ユーフォの多重録音のみ、という曲は過去のソロワークスにも幾つかあるが、一度こういう曲だけを纏めたアルバムというのも聴いてみたい。
M-13「Mystiquil RC」はM-12から一転してゲーム音楽のようなサウンドだが、アコースティックでも聴いてみたいと思うような進行、構成の曲だ。音が変われば、こちらも冬の様子を描くような曲になるのでは、と想像できる。ラストのM-14「Lumiscape KRY4」でも、ここまで見てきた雪景色が広がるが、途中から入ってくるストリングスの響きに暖かさがある。寒さが続く中でも少しずつ春が近づいている事を知らせてくれるような締め括りだ。
不穏な曇り空から、少し晴れ間も垣間見える、冬の不安定な天気と雪の模様を描く本作。そこから一つ歩みを進めると、新しい出会いもありつつ、過去作を振り返りながら聴く曲も多かった。リリース当初はトラック数の多さに少し慄いたが、手を変え品を変え生み出される音楽の幅広さに、今回も一人唸っている。
ライブで聴くソロワークス
昨年も何度か機会はあったようだが、今年に入ってからも、ゴンドウさんはソロワークスの曲をライブで演奏されている。
トピックとしては1/21に渋谷WWWで開催されたイベント『ユーバランス』にて1ステージ全てソロワークスの楽曲から(*1)、というものがあるが、私が直接観る機会を得たのは、2/10に吉祥寺MANDA-LA2にて開催された『東京国際バリトンサックスフェスティバル』(同イベントの2日目の公演)でのThe Last Day of Winter(上野洋子さん、VJの阿佐美和正さんとのユニット。この日は東京中低域のバリサク奏者 井出崎優さんをゲストに迎えた編成。以下、LDW)のステージだ。
この日はLDWとしての曲の他、Vol.7『about Boylston street』からM-2「Walking with Gremory」、Vol.10『tuning pressure』からM-3「Age of Blue」が演奏された。前者は先の『ユーバランス』、後者は昨年のLDWの本公演でも演奏されたそうなので、ライブの定番になりつつあるのかもしれない。
普段は音源でしか聴いていないうえ、やはりエレクトロニクス主体の曲なので、アンサンブルアレンジでのライブというのはかなり新鮮だった。『ユーバランス』のようにソロでのステージだとまた違うのだろうが、管楽器2本+アコーディオンという編成ならではの繊細さ、息の合わせ方が伝わってくる。また、凝ったアレンジで完成形に聴こえるソロワークスの曲も、こうやって変容していく様子を目の当たりにすると、意外とスタンダードとして機能するシンプルで強いメロディ(とコード)を持つのだな、という気付きもあった。
同ステージではLDWオリジナル曲や上述のソロワークスに加え、anonymassの'04年作『harusame』から「Awkward Dance」が演奏されており、anonymass(に随分遅れて出会った)ファンとしては嬉しいものだった(因みに同曲のオリジナルは田中邦和さんが参加されているが、この日は太平楽トリオとして出演されていた)。
3/20(水・祝)にはLDWの本公演も開催される。今回演奏された曲もまた聴けるのだろうか。詳細は以下。
*1…『ユーバランス』でのセトリと使用機材については翌日に投稿されていた。
愚音堂メルマガ100号
ソロワークスからは離れるが、愚音堂のメルマガが今月1日発行分で100号だったとのこと。私が購読し始めたのは71号発行後のタイミングからで、気付けば30号近く読み続けていた事に驚く。LINE登録であれば投稿タブからバックナンバーも追えるので気になる特集があれば都度遡って読んでいるのだが、どれも無料配信とは思えない充実ぶり。歴代編集者の熱量に感服。
以上、色々盛り込んだら4000字近くなりました。既にVol.21もリリースされているのでそちらを聴きつつ、機会を見てまたライブにも足を運ぼうと思っています。