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ゴンドウトモヒコさんのソロアルバムが好き(Vol.25)

 音楽家のゴンドウトモヒコさんがソロ名義で月次リリースされているアルバムの感想、2024年7月にリリースされたVol.25編です。その他、グリーンスケッチのライブの感想や、亀戸の立ち飲み屋さん、いぐち式「ゴンドウトモヒコday」への探訪記など。
 ソロアルバムに関する公式情報は以下を参照してください。


Vol.25『untitled』

配信リンクはこちら

 2024年7月11日リリース。アンビエント、ミニマル、エキゾ、テクノ、サウンドスケープ、そしてクラシック…。お品書きは相変わらず多種多様、そのどれもが味わい深く、細かな音の一つ一つまで聴き逃せない。特に前半部分(レコードだとA面に当たるだろう)の幾つかの曲では、元は柔らかで綺麗だったであろうホーンの音色に遠慮なくエフェクトをかけたり電子音を重ねていく様子が痛快だ。
 なお、アルバムタイトルが『untitled』である事に加え、収録トラックの幾つかは明確なタイトルが付いておらず「24」から始まる6桁の数値になっている。制作時期に関する説明は特に無いが、最近作られたばかりの曲が多いのだろうか。

 そんな奥行きのあるこの作品は、静謐なシーケンスの上でユーフォニアムの音が重なっていくM-1「AGATA」から始まる。冒頭からいきなり7分を超える長さだが、時間をかけてゆっくりと厚みを増していくユーフォニアムのハーモニーを堪能したい。因みにこの曲は本作リリースより少し前、6月30日にMusic Bar 道にて開催されたライブ『道との遭遇AGAIN』にて、あがた森魚さんとの共演時に披露されたそうだ。タイトルも勿論、あがたさんから来ているらしい(註1)。
 M-1の印象からガラッと場面を切り替え、あらゆる方向から響くリズムに囲まれるような少しエキゾな感触もあるのはM-2「240615」。シンセ、パーカッション類、ドラム、チェロなど、複数の音が絡み合う様子は一度では聴き切れないボリューム感だ。途中から入ってくるフリューゲルホルンも飄々とした表情を見せ、メロディというよりもリズムパートの内の一つのように聴こえる。
 またもや場面が切り替わり始まるM-3「Ensemble Impossible」は、ソロワークスでは珍しくも偶に顔を覗かせるクラシックの楽曲だ。ユーフォニアムだけのアンサンブルで、何重奏かなどという予想(4本ぐらいだろうか)は全く自信が無いが、左右から聴こえる音が重なったり離れたりを繰り返す様子が楽しく、こちらも一度では聴き切れない内容。続くM-4「Horns」も、ユーフォニアムとフリューゲルホルンだけで構成されているが、こちらはM-3とは違いエフェクト加工された音のうねりで酩酊しそうな感触だ。ホーン類のざらざらとした音色も好きなので、エフェクトの無い元の音に触れてみたいとも思う。
 M-5「Pink Star」もユーフォニアムの、郷愁を誘うかのような旋律が印象的で…と思うのも束の間、直ぐにドラムや電子音が空間を打ち破るように入ってくる。2パートが並行で進むような構成の為、ユーフォニアムの音を容赦無くぶつ切りにしていくように聴こえて面白い。
 中盤から後半にかけては「Gloomin’」というタイトルのついたトラックが3つ収録されている。先ずはM-6「Gloomin'1」。2分余りの短いもので、イントロから鳴っている浮遊感のあるシンセの音が心地良い。
 折り返しのM-7「240530」はアコースティックでミニマルな曲。全編に渡って鳴っている金属系(?)の鍵盤や、後半で動きを見せつつも静けさを保ったまま響くベースなど、冷たい音で一息つけるポイントでもある。また、続くM-8「ORGEL」も夏に聴きたい清涼感のある音だ。タイトル通りオルゴールの音なのだと思うが、オルゴールというと、ゴンドウさんが参加されている2+1を思い出す。去年の磔磔でのライブ(註2)でも観たし、今年リリースされた新作『Dedicate to my father』(註3)でも使われているようだ。
 M-9「Gloomin'2」はM-6と同様に短めのトラックだが、こちらも、M-7やM-8から続けて聴くと、どこか夏らしく聴こえる。ドラムのビートやベース、シンセなどは真夏のビル街、ピアノは夏の青すぎる空と入道雲、といったイメージが膨らむのだ。
 M-10「240613」はテンポの良いテクノのトラックの上でフリューゲルホルンが鳴り響く、METAFIVEが好きなリスナーにはおすすめの1曲。次のM-11「Gloomin'3」も一聴すると疾走感のある曲だが、そのビートとは対照的に少し響きを残しながらゆったりと進むベースの音で、リラックスした流れも漂うように思う。なお、1年以上前のリリースだがVol.12『Snafu』に収録されている幾つかの曲にも通じるところがあって、併せて聴きたい作品でもある。
 ラストのM-12「240324」は、グロッケンの音や電子音が涼し気で爽やかな曲。途中から入ってくる少しトリッキーなハンドクラップが、ゴンドウさんの他の作品やanonymassの楽曲を思い出させる。日付のようなタイトルなので最近作られた曲なのかと思っていたが、2010年にリリースされた、高橋幸宏さんが音楽を担当されている企画盤『Try Little Love ~チギレグモノ、ソラノシタ~』収録の「A Common Experience」(作曲は幸宏さんとゴンドウさん、演奏には高田漣さんも参加されている)のバージョン違いらしい。

 いつも通り淡々と全曲の感想を述べたが、現時点で、今年に入ってからリリースされたものの中では最も好きなのが本作だ。一昨年、去年もそうだったのだが、私は何故か夏にリリースされる作品が好きらしい。


註1…詳細なレポートは愚音堂メールマガジン106号掲載のレポートを参照のこと。

註2…2+1が出演した2024年11月11日に京都の磔磔で開催されたライブイベント『VIBRAZUL』。このライブでの2+1の演奏は完全即興だった。感想は以下の記事に少し。

註3…カセットでリリースされた、2+1の2ndアルバム。愚音堂STOREでも購入できる様だ。



Green Sketch『グリーンスケッチ 2024 夏の陣』(2024/7/20 キチム)

 イノトモさん、徳澤青弦さん、ゴンドウさんによるユニット、Green Sketchがライブ活動をしていたのは2019年~2020年頃(初期はユニット名が付いていなかった時期もあるらしい)で、当時その活動を知らなかった自分にとっては、音源のみ後追いで聴くだけの存在だった。
 それが、急に4年ぶりのライブ開催である。2020年にはツアーをしているが、今回はそれがあるとは限らない。少し迷ったが、意を決して、もとい、財布の紐を緩めて東京へ。会場のキチムは、幾度となく写真や映像を通して観てきた場所だが、初めて行くことが出来た。

 今回のライブは、ライブ直前にリリースが告知された新作『Green Sketch Ⅱ』収録曲を含めたGreen Sketchのオリジナル、イノトモさんのソロ名義での曲、ゴンドウさんと青弦さんがいらっしゃるのでanonymassの曲、スタンダードを含むカバー曲などで構成されていた。
 新作収録曲は5曲中4曲が披露される。イノトモさん作曲の「ほしかったもの」、ゴンドウさん作曲で最近他のライブでもよく演奏されている「I feel lonely」(註1)、同じくゴンドウさん作曲の「Truth and Evidence」、そして青弦さんとイノトモさんの共作「星の記憶」。特に「星の記憶」は、(的外れな事を言っていたら申し訳ないが)青弦さんが弾くバッハの無伴奏チェロ組曲(註2)のような旋律のうえに、イノトモさんの呟くような歌詞とメロディが乗る綺麗な曲なのだが、拍子が取りづらく難しい。曲の前だったかそれとも終了後だったか、イノトモさんが笑いながら「これ、皆で歌えるようになったら良いね。CDに入ってるから次のライブ迄に覚えて来てね」との旨をお話されていたが、何回聴いても覚えられそうにない…。因みに新作のうちゴンドウさん作曲の「It's a Hard Life」(註3)だけは今回のセットリストには含まれていない。
 イノトモさんのボーカルとアコースティックギター、青弦さんのチェロ、ゴンドウさんのホーン類やaFrame(あと、iPhoneからリズムトラックを出す場面が何度かあった)の組み合わせということで、好きな音であることは1stアルバム『Green Sketch』を聴いた時点で予想していたが、確信を得たのは二部で演奏されたイノトモさんの「沈む太陽」だ。イノトモさんのギターが6/8拍子を刻み、そこにチェロとユーフォの音色が絡まっていくアンサンブル。ポップに留まらず、緊張感も、それとは裏腹の踊るようにおどけた表情も一気に押し寄せるサウンドは、まさに聴きたかった音。原曲を知らなかった私は、これはGreen Sketchの未発表曲なのだろうか、と勘違いしたほどだ。
 また、anonymassのファンとしては同バンドの曲が演奏されていたのも嬉しい。夏の夜にゆったりと聴く「ニビイロの森」も良かったが、終盤に青弦さんが突然「お二人に少し提案なのですが…ここで『smalltalk Ⅱ』をやるというのはどうでしょうか」との一言。どうやら予定していたセットリストには無かったようだが、anonymassのメンバーではないイノトモさんがフレーズを思い出しながら曲に入っていく様子や、急な演奏でもしっかりと成立する曲自体のシンプルな構成を聴いていると、同曲はスタンダードナンバーとしての色も持っているのだな、という印象だった。

 いつかツアーもしてほしいところだが、ひとまず現段階では都内で2本のライブが決定(註4)しているようだ。こちらにも出来れば足を運びたいと思う。


註1…「I feel lonely」については9月1日発行の愚音堂メールマガジン最新号(107号)内の連載、「ゴンドウワークログ」に詳細がある。登録はこちら

註2…青弦さんで、バッハの無伴奏チェロ組曲1番 プレリュード、といえば、ラーメンズの第9回公演『鯨』の「器用で不器用な男と不器用で器用な男の話」で使われている事を思い出した。

註3…ソロワークスVol.21『NeBuLa』収録の「It's Hard Life」が元々ボーカルものである旨は以下のページに書かれていたが、ボーカル版がGreen Sketchバージョンとして録音されるとは。

註4…現時点でアナウンスされているライブ情報は以下。

Green Sketchのlit.linkも要チェック。



亀戸 いぐち式『ゴンドウトモヒコday』(2024/7/21)

 東京、亀戸にある立ち呑み居酒屋の「いぐち式」。ここで不定期にゴンドウさんが「1日店長」として、料理を作り、ミニライブもする、というイベントをされている。都内の居酒屋でのイベント、となるとなかなか機会を掴めずにいたのだが、Green Sketchのライブ翌日ということで伺ってみることに。亀戸という街に行く事自体も、勿論初めてである。

 とはいえ日曜日。その日の内には帰らねばならない。遅くまで飲むだなんて無謀なことはできないので、夕方までの滞在と決め込んで入店。ハートランドを飲みながら通常メニューを頂きつつ、忙しなく準備をするゴンドウさんを眺めている内に、この日の特別メニュー表が掲示される。

「ゴンド式」メニュー。
何度か追記され、このような一覧に。

 これらのメニューから幾つかを頂きつつ、ゴンドウさんや他のファンの方と会話をする。そもそも首都圏のライブにあまり行かない私にとっては、ゴンドウさんは勿論、他のファンの方ですら直接お話する機会はかなり少ない。これだけでも貴重な時間である。因みに、お話ししながらも調理の手を止めないゴンドウさんの手際の良さにも驚く。自炊派としては見習いたい。
 この日私が頂いたのは以下のメニュー。どれも美味しかった。

  • 山芋 塩こうじバター炒め(¥300)
    実は、もう1ヶ月以上前なのに未だはっきりと味を覚えている一品。自分でも作ろうと思っていたら時間が経ってしまった。頼んだらサッと作って出してくださったのが、仕事の早いマスター、という感じだった。

  • ナスミソ炒め(¥300)
    一度に多めに作ったものをカウンターに置き、恐らく注文が入る度に取り分けて火を入れ直していた、ような気がするが記憶が曖昧。刻んだ葱が添えてあるのが嬉しい(自炊では省略しがちなところである)。

  • 牛丼(¥500)
    ゴンドウさんは牛丼屋でのバイト経験があるらしく(愚音堂メールマガジン73号「特集2!Gyuoondon’ night」参照)、恐らく看板メニュー。舞茸やエノキなどのきのこ類も入ってバランスが良く食べやすかった。紅生姜は大量なのがデフォルト(写真から想像する量の2倍ぐらいある)。

 お客さんもそれなりに出入りし(そもそも、いぐち式は常連さんが多いお店だ)、ゴンドウ店長の手も休まらず、ライブはなかなか始まらなさそうやな、ぼちぼち帰らないとまずいな、等と思っていたら、17時を回った辺りから少しずつセッティングが始まる。
 忙しさも少し落ち着いたように見え、そろそろかな?と思ってセッティングの様子を眺めていると、「まだやらないよ」と悪戯っぽく笑いながら一言。暫くの間、少し準備をして厨房に戻る、の繰り返し。一体いつ始まるんやろ。終電自体はまだ先だけど日曜だし遅くまではいられない。あまりにも始まらないようであれば仕方ないが今日は諦めるか。

セッティング途中のライブスペース(?)の様子。
因みに当時気付かなかったのだが、この「The Godhands」は、亀戸の「くろさわ整体院」のロゴ。
ベーソンズのファンの方、として一方的に存じ上げていた同整体院院長のクロスさんにこの日初めてお会いした。

 こちらが勝手に葛藤すること数十分、18時前にやっとライブが始まる。帰らなくて良かった…。
 セットリストは以下。本アカウントでは何度もソロワークスについて記事を書いてきたが、ソロワークス中心のライブを観るのは初めてだ。

  • いぐち式組曲 (未発表曲)
    「い」「ぐ」「ち」の3曲から成る組曲。「ここでしか演奏しない」と仰っていたような気がするが、記憶が曖昧。キャッチーな「い」や「ち」に比べると、少し辛口な印象が強い「ぐ」が私は一番好きだった。

  • ShowSho (ソロワークス Vol.24『24 Seasons』 収録)
    7/21は二十四節気でいうと小暑の時期にあたる。実は当初、輪郭を掴みかねていたアルバムだったが、この曲の演奏を聴いて急に自分にフィットした感覚があった。原曲ではミュートが使われているが、この日はミュート無しで演奏されていた。

  • Joyful Cricket (『ムジカ・ピッコリーノ 飛べ!アルカ号』 / ソロワークス Vol.11『G55』 収録)
    ムジカ・ピッコリーノのサウンドトラックにも収録されている曲。ライブバージョンらしく、原曲とはキーの違うトラックが使われていた。途中でトラックを止めて「落ちた…」と言いながらやり直す場面あり(笑)。

  • Euphobia No.6 (ソロワークス Vol.3『A Song Without Words, Vol.3』 収録)
    Euphobiaはユーフォニアムで演奏されている楽曲群だが、この日はフリューゲルホルンでのバージョン。この「No.6」(以前は「#6」という表記だったと思うが、各種配信プラットフォームで確認すると変更されていた)が一番好きなので、この場で聴けて嬉しかった。

  • inane laugh (ソロワークス Vol.7『about Boylston street』 収録)
    「暗い曲だけど…」と言いながら始まったこの曲は、今年1月のイベント『YOU BALANCE』への出演時など、これまでもソロ名義でライブをする際に何度か演奏されているもの。明るい立ち飲み屋の店内で聴くのは不思議な心地だった。

  • Dear Harold (ソロワークス Vol.7『about Boylston street』 収録)
    こちらもVol.7から。90年代前半の作品はライブを想定されて作られている曲が多いのか、ライブでソロ名義の曲を演奏される際はこのアルバムからが多い印象。

  • (恐らく)未発表のアンビエント
    最後にアンコール的に演奏されたもの。6分ぐらいの長めの曲で、こちらも立ち飲み屋の中で聴くには少々ギャップのある曲だったが、そのちぐはぐな感じも面白かった。

 およそ30分ほどのライブを楽しみ、2+1の新譜カセットと愚音堂缶バッジを購入して帰路へ。お店の場所は覚えたので、また東京に行く機会があれば通常営業時にも伺ってみたい(人気店のようなので、入れるタイミングがあるか心配だ)。

この日の物販。
愚音堂ロゴの缶バッジは、レーベル設立の2014年、メールマガジン創刊時に配布されたもの。
その後何度か物販で入手できる機会があったらしいが、近年になってライブに行き始めた私は
一度も見た事が無かった。


おまけ: ゴンドウさんの選曲あれこれ

 店内ではゴンドウさんのスマホから色々と音楽を流されていたようで、覚えているものを幾つか、と思ったが随分偏っている(本当はもっと色んな音楽が流れていた)。知らないものはその場でお尋ねすれば良かったのに、聞きそびれてばかりで反省。アルバム単位でメモしておきます。

  • 4hero『Creating Patterns』
    2001年作。4heroは、小川充さん著の『CLUB JAZZ definitive 1984-2015』を読んで知り、気になりつつ未だ聴けていないもののうちの1つ。

  • Thelonious Monk『Solo Monk』
    自分も好きな1枚、なのだが…。よく聴いているけど、その場で他の方から、この曲何でしたっけ、と聞かれても即座に答えられず。そして別の曲では私が全く分からなくてゴンドウさんに教えて頂く場面も。

  • Robert Glasper『Let Go』
    6月7日にリリースされた新作。Apple Music限定ということもあり聴いていなかったのだが、この場で聴いて気になり、iTunesで購入した。

  • Christian Scott『Stretch Music』
    名前は勿論知っているし本作も知ってはいるが、聴いたことが無い…という2015年作。これを機に。因みに作風はガラリと変わるが、同氏については昨年リリースされたChief Adjuah名義の『Bark Out Thunder Roah Out Lightning』が一番気になっていた。


 今回は以上。9月~10月は道4thのオープンを始めとしてイベントが多いようだが、私は年内にあと一度ぐらい東京に行ければ良いかな、という感じです。