ゴンドウトモヒコさんのソロアルバムが好き(Vol.23)
音楽家のゴンドウトモヒコさんがソロ名義で月次リリースされているアルバムの感想、2024年4月にリリースされたVol.23編です。各ライブやテレビ番組レギュラーなど話題は尽きませんが、今回はソロアルバムに絞った記事になります。
ソロアルバムに関する公式情報は以下を参照してください。
本記事を投稿している2024年6月2日には最新作『24 Seasons』がリリースされました。
また、ソロワークスリリース開始から2年が経過したということで、2024年6月1日発行の愚音堂メールマガジン104号では、ロングインタビューが掲載されています。これを読んで分かった事も沢山ありますが、読者限定の内容の為、本記事への反映は最低限としています。気になる方は是非購読登録を。
Vol.23『BUZZSTOP』
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2024年4月6日リリース。(本記事を書いているのはもう6月なのだが)新年度のスタートダッシュのお供にこんな1枚はどうだろう、と言わんばかりに、随所でユーフォニアムやトロンボーンやフリューゲルホルンの音色が光る、バラエティに富んだアルバムだ。タイトルの『BUZZSTOP』とジャケット写真の「バス停」という道路標示…かかっているのかいないのか。
因みに楽器を吹く時に唇だけでやるアレも、「バジング(buzzing)」と言うよね、という事も当然考える(でもSTOPさせるものでは無いよなあ、とも)。
M-1「Pth on my way」は、ソリッドなドラムやギターと、それとは対照的にレイドバックしたエレピやベース、そこにトロンボーンやフリューゲルのギラギラしたメロディが乗る、聴き応えのあるファンクチューンだ。トロンボーンやフリューゲルのメロディは発音から音の処理までくっきりと分かるようになっており、ブレス音こそ聴き取れないものの息遣いが伝わるような感触で、ライブ映えしそうな印象を受ける。エフェクトをこれでもかというぐらいかけた中盤からラストにかけてのフリューゲルのソロも、臨場感溢れる聴き心地だ。
一転してM-2「Gindai」は静謐なシーケンスと穏やかなユーフォが響く曲で、ソロワークスの初期(Vol.1~Vol.3頃)を想起させるものでもある。基本的にはユーフォを含めて同じフレーズの繰り返しなのだが、終盤でそっと入ってくるピアノが水音のような揺らぎを添え、次なる展開を予期させる。
ソロワークスのアルバムは時々、ガラッと流れを変えるようなアップテンポで疾走感のある曲が3曲目に来ることがあるように思うが、M-3「just a hunch」はまさにそんな曲。ドラムの他に皮もののパーカッションの音、それに金属音っぽいパーカッションの音も鳴っていて、細かく刻まれるリズムが気分を高揚させる。リズムセクションと一緒に土台を作るのは柔らかで小気味良いフリューゲルだが、それとは別に一番上で鳴るミュートを使ったフリューゲルの、鋭利だが残響のある音も聴き逃せない。1:42辺りからベースの動きが大きく変わるが、ここからベースのフレーズが変わると共に、走っては立ち止まる、を繰り返すような展開になる。この展開を聴きながら、ジャケットの写真のイメージに一番合う曲はこの曲かもしれない、と思う。
M-4「bloomin'」は、パキッとしたリズムと、それとは対照的に低く這うベースがクセになる横ノリのエレクトロ楽曲だ。ピコピコとしたゲーム音楽のような音が次々と降り注ぐのが楽しく、ループの曲ではあるが聴き飽きずにあっという間に3分強が経過する。
本作も中盤に差し掛かったM-5「Tell the Time」は3分未満でありながら、エフェクトの効いたファンファーレのようなフリューゲルが存在感を示す、本作のハイライト的な1曲だろう。左右を行き来するように16分で鳴るパーカッションのような音(過去、Vol.2『A Song without Words vol.2』のM-9「Drift」でも似た音が使われていたと思う。他にもあるかもしれない。)や、太く厚いベースなど、音数は少ないながらどれも個性的な音ばかりで耳を奪われる。
次のM-6「teleportation」は一聴すると2曲が1曲になったかのような構成で、前半は打ち込みのリズムの上に真っ直ぐなフリューゲルのメロディが優しいポップなパート、後半はシンセの深い音に包まれるようなアンビエントのパートとなっているが、全編を通して鳴っている金属っぽい鍵盤の音にも注目したい。前半ではどことなく空港や駅のアナウンスのチャイムのように聴こえ、後半では風になびくように響く音色が心地良い。
M-7「DinV」は冒頭のフリューゲルから不穏な空気が醸し出され、それを引き継いだエレキシタールのような音を軸として展開していく曲だ。リズムボックスがドラムへ、単音で聴こえていたウッドベースのような音がストリングスセクションへ、とスイッチングした辺りから一気にスリルが増すが、そこに至るまでの、効果音のようなフリューゲルや中音域のオリエンタルなオブリガードによる緊張感の高まりも楽しみたい。じわじわと展開していく同曲とは対照的に曲中で何度も場面転換が行われるのが、続くM-8「Shiyo」だ。打撃音のような電子音が咲き乱れる中、時折聴こえるシンセの分厚い音が良い。
本作も終盤、M-9「Moleeta」はスティールパン、ドラム、ユーフォのアンサンブル曲。元は2012年7月に開催されたゴンドウさんのソロライブ『Euphobia 002』で演奏されたものらしく、ライブの際は小林うてなさんと田中佑司さんが参加されていたそうだが、今回はご自身での打ち込みとドラム演奏とのこと(註1)。スティールパンの奥行のある音と、少し愛嬌のあるドラムのアンバランスさが面白い1曲だが、その中心でメロディを奏でるユーフォは「ゴンドウトモヒコのユーフォの音を聴くならこれ!」と言い切ってしまいたいぐらい、クラシカルで暖かみがあり、しかし時には翳り、或いは淡々とした色さえも見せる表情豊かなものとなっている。
M-10「Busman's Holiday」はラストを締め括るに相応しいゆったりとした曲だ。タイトルから休日も音楽を作っているゴンドウさんの姿を思い浮かべるが、本当にそんな中で出来たのかもしれない、と思うほどシンプルな曲でもある。ところどころでリズムが無くなり自由に弾いているような部分が訪れるのも、そんな想像をさらに膨らませる。
2024年、4月までにリリースされた4作品の中でも、金管楽器の魅力を一方向からでは無く複数の視点から捉えられるのが本作だと思う。ゴンドウさんをユーフォ奏者として知ったリスナー(中にはきっとプレイヤー、或いは元プレイヤー、元吹奏楽部員、等も居るだろう)には是非お薦めしたいと同時に、同観点から2023年11月リリースのVol.18『Ehuphobient Music』と併せて聴いてほしいアルバムだ。
註1…愚音堂メルマガ104号、「特集1 ゴンドウトモヒコソロワークス2周年記念インタビュー」より。また、それ以前に、本作リリース直後に本件についてファンの方とXでやり取りされているポストも残されている。
最近のソロワークス感想記事では当月に観たライブの感想も添えていたのだが、5月は久しぶりに何も観ない1か月だった(そもそも私は首都圏在住では無いので、上京しない限りは滅多にライブを観る機会は無い)。
その代わり、日テレ『Apartment B』の事ばかり考えていた。これについては以下記事につらつらと書いているのでリンクを添えておきます。