遠洋マグロ漁船での業務内容と1日の流れ
みなさんは今のお仕事や今の生活に満足されていますか?
朝、目が覚めたら何をしますか?
学校や職場への交通手段は?
学校や職場でどのように過ごし、その後はどのように自分時間を楽しみますか?
また休日は何をしますか?どこへ出かけますか?
遠洋マグロ漁船での生活は陸地での生活とかなり異なります。ふつうは経験できないことばかりです。
今回の記事では、僕が実際に経験した遠洋マグロ漁船での業務内容と1日の流れをみなさんにご紹介します。
※すべての遠洋マグロ漁船に当てはまるものではありません。あくまでの僕の経験でお伝えします。
1 業務内容その1 投縄
投縄とは、ひとことで言うと「ロープを海に流しながら、そのロープに仕掛けを付けていく」ことです。
遠洋マグロ漁船の漁法はほとんど『延縄漁』です。
『延縄漁』とは簡単に言いますと、ロープを海面にずーっと流し、そのロープから海底へ向かってテグス(超丈夫なナイロンのひも)を何千本もたらし、その先端の釣り針にイワシ、イカ、アジなどをエサとして付ける、という仕掛けでマグロを捕る漁法です。
投縄とは、もっと簡単に言うと、マグロを捕る仕掛けを海に流すことです。
その海に流すロープの長さは約100㎞~120㎞でした。だいたい東京都心から甲府や宇都宮までと同じ距離。その距離のロープを毎日毎日海に海に流します。
信じられないと思いでしょうが、マジで毎日その距離です。
投縄の作業を詳しく言うと、前進している船の後ろから高速でロープを海に流しながらテグス(エサの付いた約30mの超丈夫なナイロンのひも)を数秒単位でロープにくっつけていくんです。そのテグスの数は3000本から3500本ほどでした。
この作業はだいたい朝8時から午後2時までの約6時間かけて行われました。
ただこれは船員全員で行うのではなく、3つのグループの交代制でした。3日に1度、投縄の仕事が回ってくるんです。まじで眠かったです。「朝8時から午後2時なんて、ふつう眠くないでしょう」と思いますよね。
でもですね、朝は遠洋マグロ漁船の1日の始まりはではないんです。
次にお話しする午後4時頃から始まる揚げ縄が1日の始まりであり、メインなんです。
2 業務内容その2 揚げ縄
揚げ縄をひとことで言うと、「ロープと仕掛けを回収しながら、マグロを捕獲し、内臓やエラを除去して冷凍する」ことです。
先ほどお話ししましたがこの揚げ縄が1日の、遠洋マグロ漁船の業務のメインです。
この揚げ縄には全員が参加します(漁労長は操縦席で船を操り、コック長は食事の準備をしますので、この2人以外全員)。
投縄でマグロを捕るための仕掛けを海に流し、3~4時間ほど放っておいて、マグロにエサを食べていただくのを待ちます。そして午後4時頃から揚げ縄が始まります。
海に流した約100㎞~120㎞のロープを船上の作業場にある大きくて力強いローラーで巻いていきます。その時に3000本以上のテグスを人の手で1つずつロープから外していくのです。
約30mのテグスに獲物がかかっていなければ、車のハンドルくらいの大きさの輪にします。もしテグスに獲物(マグロ、それ以外の魚の場合もある)がかかっていれば、ロープ巻きを停止し、5、6人でテグスを手で手繰り寄せ、船上に上げます。
マグロの場合は、まず神経締めをして息の根を止めます(脊髄に1mほどの針金を差し込むと「ブルッ」と震えてお亡くなりになります)。次に、両脇のヒレ付近に包丁を差し込んで血抜きをします。その後、背ビレ以外のすべてのヒレを切り取り、エラと内臓をすべて取り出し、真水で洗浄します。マグロの体重を計って、最後に-60℃の冷蔵庫へ入れます。
マグロ以外の魚はそれぞれの処理方法があるのでここでは割愛します。
このように揚げ縄は、
ロープを巻く→テグスを外す→獲物がいる→ロープを巻くのを止める
→テグスを手繰り寄せる→獲物を船上に上げる→魚の処理をする
→ロープを巻く
これをロープ約100㎞~120㎞分繰り返すんです。
みなさん、この作業を終えるまで何時間かかると思いますか?
午後4時くらいから始めて、終わるのは日をまたいで早くて午前4時くらいです。
そうです。最低でも12時間はかかるんです。もし大漁の場合は13時間を超えることもあります。うれしいけれど、ツラい…
空が明るくなるくらいに船上をデッキブラシでこすってきれいにしてから、揚げ縄の仕事、1日の仕事が終わるんです。
1日の勤務時間 約13時間(揚げ縄と掃除)
3日に1度は投縄が回ってくるので
約13時間(揚げ縄と掃除) + 6時間(投縄) = 約19時間
真ブラックですよね(笑)
ただし、みなさん、通勤時間はなんと0分です!
うれしくないか…
3 その他の業務内容
その他にいくつか毎日は行わない業務を簡単にご紹介します。
・凍結 1週間に一度順番で回ってくる勤務。霜取り作業
マグロをマイナス60℃で凍らせる約6畳の部屋の大きさの冷凍庫の内側に着いた霜を固いブラシでこすり落とす作業。
マグロを置く棚がベッドのように何重にも設置されていて、その細い間に体を滑り込ませて作業します。
防寒全身つなぎを着て、目出し帽をかぶって、防寒長靴と手袋を身に付けての、たった20分ほどの作業ですが、死ぬほどツラいんです。
何がツラいって、耳や男性の大事な部分が冷えすぎて痛くてたまらないんです。特にボールsが!噂によると、この作業をやりすぎると、生殖機能が損なわれるそうです(怖)。
・漁具の整備 漁具の点検と修理や補強作業
漁場を変えるためにかなりの距離を移動する時だけが、普段の投縄&揚げ縄をやらない休日です(まとまった休みについては別の記事で紹介しますね)。
休日なのですが4時間ほど漁具の整備をします。ロープに傷がついていないか?テグスの部品は傷んでいないか?などチェックし、修理が必要なら補強します。
普段の投縄や揚げ縄は時間との闘いですが、漁具の整備の日はみんなでのんびりできるので気楽でした。
・ワッチ(watch) 操縦席での見張り番
先ほどお話した漁場を変える時はかなりの距離を移動します。操縦はセットされているので我々はしませんが、前方に別の船がいないかを操縦席で見張るんです。
真っ暗な海を進むときは船の揺れが眠りを誘うので、睡魔との闘いでした。一度、自分が真夜中に睡魔に負けていた時に「ハッ」と気づいたら大きな壁のようなタンカーとすれ違ったことがあって、生きた心地がしませんでした💦
4 遠洋マグロ漁船での1日の流れ
最後に基本的な1日の流れをご紹介します。
午後3時 起床
身支度、洗濯、昼ごはん
午後4時 揚げ縄開始
終了までに2食(夜ごはん、朝ごはん)
午前4時 揚げ縄、清掃終了
入浴、自由時間
午前6時 就寝(もう十分明るいけど)
3日に1度は投縄が回ってくるので、以下が加わります。
午前5時 就寝(揚げ縄終了後、入浴後、速攻寝ます)
午前8時 起床
投縄開始
午後2時 投縄終了
食事、午後4時からの揚げ縄に備える
というように、遠洋マグロ漁船の1日は結構ハードです。特に投縄当番の日は3時間ぐらいしか眠れないので。
そして週休2日なんて絶対あり得ません。上記のような日が、マグロが釣れなくて漁場を変えるために移動する日までずっと続きます。僕はMax30日以上連続勤務だったこともあります。
今は労働基準法の力でそんなことがないことを願いますが。
休日といっても、だいたい漁具の整備を午前中やって、午後は自由時間。かといって、友達と遊んだり、デートしたり、買い物に行けるわけではありません。
他の船員は、映画やドラマを観たり、読書をしたり、ゲームをやったりしていました。
僕は読書に飽きると、船首へ行って海を見ていることもありました。
運がいいと、イルカの群れが伴走することもありました(結構ありました)。そのイルカたちはジャンプしたり、船首のギリギリを競って泳いだり、明らかに遊んでいるように見えました。
そんな彼らを無心で見ている時が心から癒される瞬間でした☺
ここまで自分の記事にお付き合いいただき、ありがとうございました。
どうですか?
「遠洋マグロ漁船なんて絶対に乗りたくない!」って感じですか?
普通そうかもしれませんね。
でも男って、「キツイ道を選ぶ」的な方もいますよね。損得とかじゃなくって。僕はその気持ち、よくわかります。
もしかしたらここまで読んでくださったあなたはそのタイプかもしれませんね。「楽をしていても生きている実感がない」的な。
素敵です🌟