旅の効能/「風」 辻 征夫
早朝、空港へ向かう電車に乗った。窓から差し込む朝日が眩しくて、視界はオレンジ色に滲んだ。
私がしたかった事はこれなんだと思った。私は旅に出たかった。
この少し心細い、でもワクワクする気待ちを味わいたかった。
いくつになっても、リセットできる。リスタートが切れる。そんな清々しい心持ち。心の中で盛り上がり過ぎて、涙腺がゆるむ。ははは。
私の関心事はいつも自分の心の動きだ。
大好きなもの食べ歩いて、街の片隅のカフェにてひと息。出掛けにバッグに入れた詩集を開き、目を落とす。
「風」という辻征夫の詩を読んで、泣けた。あーまた泣いた。
表面が乾いたスポンジ。握ったら思いのほか水分を含んでいた。そんな涙。渇いてたんだ。
旅の効能。じんわり。
今夜は中洲で飲んだくれるよ。