#5 raindrop-呼吸
その時、この世界の時が止まった。
周りの音等聞こえなくて、目の前も見れなくて。
まるで、世界は私を否定しているようで。
---------------呼吸
朝起きるのが億劫になる。
布団の魅力がより一層強くなり、父親に開けられた自室の窓から流れ込む空気が
肌を刺す様な痛みで朝が来たと脳が認識する。
クリスマスも終わり、年が明けて三学期に入ってまもない頃、まだ冗談半分で年始の挨拶をしている人も学校内でちらほら見受けられる。
彼女、青葉春花は家を出発するまで五月病の様な気だるさ、学校への行きたくなさが顔、行動ににじみ出ている。
普段なら父親に挨拶をして家を出るのだが、最近の彼女は小さい声で
「行ってきます…」
と呟いて家のドアを開ける。
家を出る直前、父親から声をかけられた
「春花」
「どうしたの?」
「あぁ、いや、なんでもない…その、学校は楽しく行ってるか?」
「なにそれ、大丈夫だよ」
クスッと笑う春花
「あぁ、大丈夫ならいいんだ。去年からずっと元気無い感じだったからな。時々こうやって聞いたりするけど、お父さん学校の事は分かんないから何も言えないけど、何かあればいつでも力になるから言ってくれ。」
「…ありがと、行ってきます」
「あぁ、行ってらっしゃい」
家のドアを開けて学校への通学路を歩く彼女。
父親の手前、あぁ言ったが、本音は全然平常ではない。
むしろ異常な程に悩んでいる。
ただ、彼女自身、その原因はハッキリ分かっていた。
去年の梅雨頃、彼女の友達紅葉楓のとった行動だった。
(「今日は他に友達と約束しててさ!一緒に帰るのは少し厳しいかも!」)
(「私達、親友なんだから!」)
(「いつもの春花が私は好きだよ!」)
(「それはね、恋ってやつだよ、」)
その言葉を思い出すと同時に脳内に映り込む傘を相合傘して帰る楓ともう一人の女生徒の姿。
「はぁ…」
大きなため息を一つついた。
息は白く、冬をハッキリ印象付ける。
「(今日は、楓ちゃんいないんだ…)」
寂しさと同時に安堵感に包まれる。
普段なら早く会いたい!楓ちゃん!楓ちゃん!
まるで尻尾を大きく振る犬の様な期待感で通学路を歩いているがあの出来事以来ずっと楓とは気まずい状況に至る。
それは春花自身のみが心配している事で、一方の楓はそんな素ぶりは一切見せない。
良い事なのか、悪い事なのか。
今の春花にとっては良い事なのかもしれない。
ピロン♪
カバンの中から携帯が鳴る
「あ、マナーモードにしてなかった…」
カバンから携帯を取り出すと1通の連絡が来ている。
画面には[楓ちゃん]と表示されているのを認識した時、自分の世界だけ張り詰めた様な静けさが一瞬訪れた。
(なんだろう…)
携帯をマナーモードにした後、内容を確認する。
[やっほー、今日朝練だから一緒に行けなくてごめんねー (´;ω;`)]
[放課後は部活が休みだから一緒に買い物でも行こー!デートだね!笑]
デート という文字に体がビクッと反応してしまう。
[で、デート?]
[そ!一緒にデートでラブラブしよーぜー!笑]
(楓ちゃん、人の気も知らないで…)
変な感情を込めた返事だと微妙な雰囲気になるだろう。
此処はいつも通りに返事をしよう。
[うん!いいよー・*・:≡( ε:)]
[おっけー!そしたら昇降口で!]
[わかった!]
(そうか、今日部活休みなんだ…えへへ… )
(ハッ!いや、えへへじゃないよ、なんで喜んでるんだろう)
(こんな、こんな…)
学校に着くと彼女はいつも通り友達や先生に挨拶をして、学校生活を過ごす。
(そういえば、昼休みも最近楓ちゃんと食べてないな…)
友達とお昼ご飯を食べている時もそんな事を思いながら過ごしていた。
「ぉー…い、は…かー」
「はるかー、ちょっと聞いてるの?」
「うぇえ!?あ、ごめんちょっとボーッとしてた……」
「んもー、聞いててよねー…でさ、高校入ったらバンドとかやってみたいよね!」
「私ドラムやってみたいなー」「私はギター!」「私は、ベース。」
「じゃあ春花はボーカルね!」
「えぇ!そんな、無理だよ!恥ずかしいし…歌もそんな知らないし……」
「だって話聞いてなかったんだもーん、これは罰!」「罰符」「罰符て、千秋何歳なの…」
(…そもそも、なんでバンドの話になったんだっけ…でもまぁ…高校に入ってからだし、どうせ皆忘れるだろうし…まぁいいかな…)
「わかったよー、じゃあとりあえずボーカルで…」
そんな話をしながら昼休みも終わり、午後の授業を受け、終礼をしたと同時にカバンをせかせかと片付け始める。
(楓ちゃんとデート♪楓ちゃんとデート♪)
午前中まであんなに悩んでいたのに、楽しみが近づくとそんな悩みは忘れて目の前の事にだけ意識してしまう。
「おーい!春花!」
昇降口で楓と偶然鉢合わせた。
「あ!楓ちゃん!」
「へへー、よし、じゃあ行こうか!」
「うん!どこに行くの?」
「とりあえず、ワーケットかなー?雑貨とか見てみたいし」
「結構遠出だねー」
「あそこ色々あるからねー、フードコートとか服屋とかも沢山入ってるし!」
「うん、わかった!」
普段は全く乗らない電車。
最初は乗り方も知らなかった彼女だが、楓と共に小学生の時教えてもらい乗ったのが初めて。
今でも乗る事は基本的に無いが、こうして楓や仲のいい友達と遊びに行く時だけ利用する。
「今日、部活休みなんだね」
「ん?あーそうそう、顧問の山口がねー、寒すぎるから今日は無しにしますって」
「山口先生って体育の先生か、寒すぎるからってすごい理由だね…」
「ねー、まぁこうやって春花と出かけれるから全然おっけー!」
ニカッと笑ったその顔を見ると、自然とこっちも照れてしまう。
「あ、ありがとう…!」
小さく言ったのを聞かれてたのか、フフッと微笑まれてしまった。
それをみてさらに顔が赤くなる
(うぅぅ…はずかしい)
「それにしてもさー、去年は意外と何にもしなかったよねー」
「え?」
「ほら、二人でした事っていえば、夏祭りでしょー」
座席に座りながら指折り数え始める楓
「大晦日は会ったけど、でも二人だとこんなもんじゃない?」
「確かに…」
「二人で遊びに行くとかは、まぁたまに会ったけど、昔程多くはなくなったよね」
「う、うん」
ズキッと胸に痛みが走る。
それもそのはず、あの梅雨の出来事以来、極力春花は楓を避けるようにしていた。
理由は些細な事だが、嫉妬、不安等だった。
でも、それを楓に悟られたくは無い、焦りながらも楓に語りかける
「で、でも一回秋くらいに楓ちゃん電車で寝ちゃって一緒に埼玉の方に行ったでしょ?あれもある意味冒険的だったよね」
「あー、あったね…起こしてくれればよかったのに…なんで高いお金払って見知らぬ駅で降りなければならなかったのか、春花めー!」
「ウリウリ~」と肘で春香を小突きながら春香を責める
「わ、私も寝ちゃったんだもん!」
「でもあの時も楽しかったねー、良くわかんないデパート行ったりとかして、でも帰りが遅くなったから二人とも親にメッチャ怒られたしね!」
笑いながら遠い景色を見る楓。何か考え事をしている様に。
「私もさー、そろそろ卒業だからね、」
「あ、そうだよね…楓ちゃんは高校っt「あ!やばい!目的地だ!降りるよ!」
「え!あ、本当だ!」
急いで電車を降りる二人、降りる際お互い目が会ってハニカミながら目的地まで歩き始める。
「うわー、なんか知らないお店が沢山出てるね」
「まぁそうだよね、大型デパートだから入れ替わりも激しいだろうし」
「あ!あそこの洋服可愛い…あ!あの帽子も!」
「オッケーオッケー、ゆっくり見て回ろ?」
「うん!」
デパートで心ゆくまで堪能した二人。
その姿は端からみても仲の良い女の子同士だった。
「はー!満足満足!」
「楓ちゃん、いっぱい買ったね」
「いやー、何だかんだで来れる時間って無いからね、こういう時に買っておきたいのよ」
「楽しそうでよかったよ~」
「あ!見て!あの雑貨屋さん!新しくできたのかな?」
「本当だ!可愛い!」
「ほら、これ見てクマさんの人形、プッ! 顔めっちゃブサイク」
吹き出しながらクククと笑いを我慢している楓
「えー、可愛いと思うけどなー」
「春香は感覚ちょっとおかしいって!」
「そうかなー…こんな可愛いのに」
同じ顔が描かれているキーホルダーを眺めながら、自然と悩むような顔をする春香に気づいたのか
「それ、欲しいの?」
「え?いや…うーん…どうしようかな…?」
「ふーん」
そっと値札を見てみる楓
「(なるほどねー、強気だなー君は…お?)」
その裏に隠れていた、同じ種類のストラップを手に取る
「ねーねー春花ー」
「んー…え?どうしたの?」
「これなんてどうかな?」
隠れていたストラップを手に取り、春香に見せる
「わぁー!かわいいー!でもこれなんか形が…変?」
その隠れていたストラップは、いわばペアアクセサリーというもので、一つ一つは異様な形をしているが、その二つを合わせれば1つの形となる。
カップルや、仲のいい友達通しで買うことが多いキーホルダーアクセサリー。
「これさー、二人でお金出し合って買わない?」
「えぇ!?そ、そんな、わ、悪いよ!」
「全然いいよー、他にも柄は…っと」
棚をあさる楓
「あー、今このハート柄のしかないっぽいねー」
「は、ハートって…楓ちゃんは平気なの?それに、そのストラップの顔あんまり好きじゃなさそうにしてたから」
「へーきへーき!よく見たら結構可愛く思えてきたし、それに…あんまり最近、春香と喋れてなかったし、遊びにも頻繁に行けてなかったから。そのお詫びもかねて…私たちはずっと一緒だっていう証明で!」
「楓ちゃん…」
「で、どうするの?買うの?」
「か、買うよ!」
ストラップを握りしめながら一生懸命そうに話す春香にクスリと笑う楓
「よーし、じゃあ買おー!」
互いに買い物を済ませた二人はデパートを出て、満足そうな顔をして駅に向かった。
「いやー、疲れましたね」
「ね、疲れたよね…」
「これからしばらく貧乏生活かー…」
「お互い頑張ろうね!」
「うーぉーうおりゃー!」
「ふふっ、なにそれ」
「やる気を出したんだよー」
「そっか、私もがんばろう」
最寄り駅に到着する電車の合図で、二人は立ち上がり帰路に着く。
その間も他愛もないことで話し、笑いあいながらいつも別れる交差点に到着した。
「じゃあ、また学校でね!」
「オッケー!また明日ね!」
楓が自身の家に向かうのを大きく手を振りながら見送るその姿は、まるで無邪気な子供のようだった。
「さて、私も帰ろう」
ふぅ、と小さく息を吐き帰り道を歩きながら、ふとショッピングモールで買ったストラップをカバンの中から取り出した。
「(あんまり最近、春香と喋れてなかったし、遊びにも頻繁に行けてなかったから。そのお詫びもかねて…私たちはずっと一緒だっていう証明で!)」
「(ふふっ、かわいい)」
買った時の言葉を思い出しながら、ストラップを強く握りしめて彼女は家に向かった。
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今回の[raindrop]に関わった皆様
VOCALOID楽曲
https://nico.ms/sm37739332
Youtube
https://youtu.be/xRzQUA2C5RA
Music:AoHalGraffiti
https://twitter.com/AoHal_GZ
作曲:GK
https://twitter.com/gkaohal
作詞/動画:みゃ
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Story:AoHalGraffiti