漢詩もどき(漢柳)を為す9
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「電網水妖」
混沌電網海 混沌たる電網の海、
浸蝕呪詛波 浸蝕する呪詛の波。
穿心怨嗟眼 心を穿つ怨嗟の眼、
咽声惆悵渦 声を咽む惆悵の渦。
切切漏一行 切切として一行を漏らし、
浪浪岐涙河 浪浪として涙河を岐つ。
惑溺泡沫果 惑溺する泡沫の果て、
弔恤水妖歌 弔恤する水妖の歌。
押韻:下平五歌(波、渦、河、歌)
解釈
混沌としたネットの海、
浸蝕してくる呪詛の波。
心を貫く怨嗟の眼差し、
SOSを飲み込む憂いの渦。
切実に一行の文を絞り出し、
とめどなく流れる幾筋もの涙。
溺れ惑う泡のような身の行く末(は語るに忍びない)。
悼み憐れむ水妖共の歌がネットにまた響いている。
語釈
・電網…インターネット。
・咽…読み数種あり。イン…のむ、のみこむの意。エツ…むせぶ、声に詰まるの意。ここでは前者の読みとして解釈する。
・惆悵…うらみ嘆く、憂い悲しむ。
・切切…胸に迫るように悲しい様、思い迫る様。
・浪浪…涙の盛んに流れる様。
・岐…わかれる、わかつ。
・惑溺…迷い溺れる、迷って心を失う。
・弔恤…弔い憐れむ。
・水妖…水に棲む妖魔、セイレーン。歌声で船乗りを惑わしたと言われる。セイレーンは現代中国語で「塞壬」や「西壬」とあるが正確か判断しかねたので広義の水妖を用いる。
一言
普段は他人の不幸や死を望む言葉や過激な言動、いわれのない中傷を表に出しているのに、いざそれによって亡くなった方が現れたら素知らぬ顔どころか善人面までして悼もうとする人々へ贈る詩です。