漢詩もどき(漢柳)を為す1 題:夏晩作擬詩
はじめに~ルールやきっかけについて~
初めまして。みぶあおいと申します。
ここでは私が勝手に提唱している漢柳という漢文の詩形について簡単な紹介をしようと思います。
早速ですがルールについては以下の通りになります。
・字数と句数
1句につき5文字か7文字で統一する。(いわゆる漢詩の詩形で五言か七言かにするということ)
句数は4句の絶句か8句の律詩の形をとる。
句の切り方は従来の漢詩に則る。(五言なら○○+×××、七言なら○○○○+×××)
・音韻について
五言では偶数句、七言では初句と偶数句で押韻する。
原則平水韻に基づくが、母音(基本は中国語での読みを推奨。日本語の読みでも可とする)を合わせる程度でも押韻しているとみなす。
平仄に関する規則は完全に無視してよい
・その他
1作に同じ漢字を複数回使わない。
8句ならば対句の形をなるべく取る。
詩語以外の現代語も使用してよい。
起承転結を意識する。
大まかにはこのような緩い縛りで作っています。漏れがあれば随時記載していきます。
漢詩の作詩はパズルのように決まった言葉を当てはめていく作業に近いと思います。その中でもう少し自由に作りたいと考え、このような形式で作るようになりました。
漢文の短形詩というとあまり世間にはメジャーではありませんが、漢俳(かんぱい)、漢歌という漢詩と俳句、短歌を合わせた詩形があります。それも良いのですが五言と七言のリズム感が個人的に好きだったので、やってる人がいないなら勝手にやろうということで漢柳を作り始めました。
私自身は詩に造詣があるという訳でもなく、自由に作っているので他の方にも気軽にこの漢柳を作っていただければと思います。
作品紹介 題:夏晩作擬詩(夏の晩に擬詩を作す)
白昼厳暑未収威、 白昼の厳暑未だ威を収まらざるも、
夜半之風立秋気。 夜半の風秋気立つ。
草叢鈴虫和恋歌、 草叢の鈴虫恋歌を和し、
廬中酔人吟拙詩。 廬中の酔人拙詩を吟ず。
押韻:平水韻によらず。気(qi)と詩(shi)で合わせるのみ
単語解説
・厳暑:厳しい暑さ
・廬:いおり。粗末な小屋
訳
昼間の暑さはまだ収まらないが、
夜中の風には秋の雰囲気が感じられるようになってきた。
草叢の鈴虫が求愛の歌を(巧みに)唱和している中、
あばら家の酔いどれは下手くそな詩を吟じている。
作品紹介 題:酒場見佳人(酒場にて佳人に見ゆ)
若匿喧騒入酒亭、 喧騒に匿るるが若くして酒亭に入り、
欲忘単身頼小瓶。 単身を忘れんと欲して小瓶を頼む。
閑座独酌来佳人、 閑座独酌して佳人来たりて、
近坐会釈窺伶丁。 近坐会釈して伶丁を窺う。
茫茫光彩照玉腕、 茫茫たる光彩玉腕を照し、
揺揺双眸拒酔醒。 揺揺たる双眸酔醒を拒む。
何以得親問水鏡、 何を以てか親を得んやと水鏡に問うも、
杯中徒波発芳馨。 杯中徒に波たちて芳馨を発すのみ。
押韻:下平九青(亭、瓶、丁、醒、馨)
単語解説
・酒亭:バーと訳しているが現代中国語では酒吧。古語でも居酒屋を表す語として「酒家」や「酒楼」がある。「酒亭」は本来あまり使われない。
・閑座独酌:「閑座」は静かに座る。「独酌」は独りで酒を飲むこと。
・伶丁:一人ぼっちな様。
・茫茫:ぼうっとしてはっきりしない様。
・揺揺:揺れる様。
訳
喧騒から隠れるようにバーに入り、
独り身の身の上を忘れようとボトルを注文する。
慎ましく手酌していると美しい女性が来店し、
私の近くに席取って会釈しつつ、こちらの様子を窺っている。
ぼんやりとした照明が美しい玉のような腕を照らし出す。
揺れ動く瞳に魅せられ、私は酔いから醒めることを拒んだ。
どのようにしてお近づきになろうかとグラスの酒に映る自分に問うも、
グラスの中は波紋を浮かべて香りを発するだけで何も答えてくれなかった。
おわりに
今回は例として2作品を紹介してみました。七言絶句と七言律詩の形になりますね。ただ、どちらも漢詩としての要件を満たしていないので、厳密には「絶句」とも「律詩」とも言えませんね。
なので便宜上、「七言四句漢柳」とか「七言八句漢柳」と今後呼ぶことになると思います。
詩の解釈については、自分が作ったものでも「絶対この意味だ!」と固めるつもりはありません。漢文は訓読次第で解釈は大きく変わります。後者の酒場の詩も動作の主語が、男の方か女の方かのどちらで捉えるかで解釈が変わる句があります。作るのも読むのも楽しんでもらえればと思います。
漢柳も漢詩よりかなり簡単にしたといっても、慣れるまでは作詩に時間がかかると思います。私も詰まったら半日以上悩んでいます。
今は私くらいしか作っていませんが、色んな人に漢柳、ひいては漢文に興味を持っていただけるように、詩のジャンルとして育てていきたいと熱望しています。皆さんもぜひ挑戦してみてください!