漢詩もどき(漢柳)を為す10
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バレンタインが近いということで、過去作でそれにちなんだものをご紹介。
欲与君呼春 君と春を呼ばんと欲す
贈君巧克力 君に贈る巧克力(チョコレート)
蔽頬紺圍巾 頬を蔽う紺の圍巾(マフラー)
赤面如新燕 赤面新燕の如し
敢哢同呼春 敢えて哢る 同に春を呼ばんと
押韻:上平十一眞(巾、春)
解釈
君に贈るチョコレート。
私の頬を覆い隠す紺のマフラー。
その下の赤くなった頬はまるで恋する燕のよう。
思い切って声をかけてみる。「一緒に春を迎えようよ」と。
語釈
・巧克力…チョコレート。現代中国語。
・圍巾…マフラー。現代中国語。
・新燕…渡ってきたばかりの燕。転じてこれから恋をする燕と独自に用いる。
・哢…さえずる。自身と燕をなぞらえる。
一言
燕の赤い頬と寒さや照れで紅くなった頬が重なる作品。これから始まる恋と春の訪れとにマッチするのではと思い、春のイメージが強い燕であえて冬の詩を作ってみました。製菓会社のマーケティングだの何だの言われていますが、冬の一歩手前に「春」が来ると思うとほっこりしませんか?なので個人的にはバレンタインデーは好きです。
想二月十四日 二月十四日を想う
躍胸爛爛徹甘夜 胸を躍らせ爛々として甘き夜を徹す
恋慕悶悶待校舎 恋慕悶々として校舎に待つ
風寒颺颺落葉舞 風寒く颺々として落葉舞う
遠聞踏踏足音下 遠く聞こゆ踏々として足音下る
如何如何誰不応 如何せん如何せん誰も応じず
撫髪濡唇拙譎詐 髪を撫で唇を濡らして譎詐拙し
嗚呼竟此二人已 嗚呼竟ついに此に二人のみ
揺瞳湿掌渡高架 瞳を揺らし掌を湿らして高架を渡す
押韻:去声二十二禡(夜、舎、下、詐、架)
解釈
胸を躍らせてうきうきで甘い夜を過ごす。
恋思いして悶々とした心地で校舎で君を待つ。
外では風が寒々しくざあっと吹き上げ、落ち葉が舞っている。
遠くからコツコツと階段を下ってくる足音が聞こえてきた。
どうしようどうしようと思うも、誰もこの焦燥に応えてくれない。
髪を撫でたり渇いた唇を湿らせたりするけれども平静を装うのが下手だな。
ああ、とうとうここに二人きり。
視線が揺れ手汗も酷い中、私は君に橋を架ける。
語釈
颺颺…風に吹き上げられ翻る様。
踏踏…コツコツ。本来は蹄が鳴る音を指すが、ここでは人の足音とする。
譎詐…偽り欺くこと。「拙譎詐」は本心を偽ることができないというニュアンスで解釈。
渡高架…腕を伸ばして贈り物を差し出す様を橋が架かる様子になぞらえる。
一言
バレンタインデーの前夜から当日の心の揺れ動きを描いた作品。渡す側の心理を描写していますが、実際はもらう側もそわそわしてしまいますよね。