漢詩もどき(漢柳)を為す3
ルール等については漢詩もどき(漢柳)を為す1をご覧ください。
今回はカクヨムにて連載中の拙作「桃花詩記」に登場した作品をご紹介。
「桃花詩記」のざっくりあらすじは以下の通り。
中華史風の世界「華の国」の官吏である張本陶、彼は宮廷より都で突如流行し出した新詩形「漢柳」について調査するよう命令を受けます。漢柳の源流は都から遠く離れた「律」という街にあるとされ、彼はそこへ内偵に向かいます。そして、律に赴いた本陶は住民と交流しながら街の秘密を探っていくというようなお話です。
初めて書いている長編小説なので、謙遜でもなく本当に「拙」い「作」品ですが是非目を通して頂ければ!
1 以律文詠謝恩(律文を以て謝恩を詠ず)
長旅遥遥到桃源 長旅遥遥として桃源に至る
山谷森森入城門 山谷森森として城門に入る
番兵剛而知礼儀 番兵剛にして礼儀を知る
往来民和達恭温 往来の民和し恭温達す
婦人添夫助推敲 婦人夫に添いて推敲を助く
老若好文談詩論 老若文を好み詩論を談ず
見遠方友亦至楽 遠方の友に見え亦た至楽なりと
厚賓主交是謝恩 賓主の交わりを厚くし是に謝恩す
押韻:上声十三元(源、門、温、論、恩)
語釈
・遥遥:はるか遠くに離れる様。
・桃源:桃源郷のこと。秘境である律のことを示す。
・森森:樹木が盛んに茂る様。
・恭温:「恭」「温」別々に読む。慎ましくおだやかであること。
・推敲:故事。文章の校正をすること。
・見遠方友亦至楽:『論語』学而篇「有朋自遠方來、不亦樂乎」を参考。作中は中華に極めて近く限りなく遠い世界の華の国が舞台で、そこでは「孔論」と呼ばれる書物として登場。
訳
長旅は遥か遠くまで続き、桃源郷に至る。
山谷は木々が鬱蒼としており、城門に入る。
番兵はたくましく且つ礼儀にも篤い。
道行く民は和やかでおだやかな空気が行き届いている。
女性は夫に寄り添い、文章の推敲を助ける程に聡明である。
老いも若きも学問を好み、詩を論議している。
遠方の友に出会えて楽しいと県令は仰ってくれた。
主と客の交友を手厚くしてくれたことをここに感謝致します。
登場シーン
律を訪れた本陶、そこで律の実質の管理者である尹巴による歓待の酒宴に招かれる。彼らの誠実な対応に感謝の気持ちを示す為に、本陶は初めて漢柳を為す。
2 京師訪来
京華至絶遠 京華より絶遠に至る
野人畏誠懇 野人は誠懇を畏る
何用来此地 何を用てか此の地に来るか
以為疑隠遁 以為く(おもえらく)隠遁を疑う
押韻:上平十三元(懇、遁)
語釈
京華:都のこと。
絶遠:遠く離れた地。
隠遁:世間から離れる。
訳
都から人が遠く離れたこの地にやってきた。
(我々のような)田舎者は懇ろになることを畏れ多いと思っております。
どうして彼らはこんな所にやってきたのだろうか?
私が思うに(落ちぶれて)隠遁でもしに来たのでは?。
登場シーン
律に住む変人詩人「鈍灰」が歓待の酒宴に乱入した際、客人である本陶らを皮肉まじりにあげつらった作品。鈍灰自身は律において、後述の耀白と並んで「漢柳二聖」と称される程の人物だが、酒癖が悪く人柄に難がある。
3 談笑徹夜半(談笑夜半を徹す)
絶遠聞書声 絶遠に書声を聞く
鴻群越山谷 鴻群は山谷を越ゆ
休休楽風雅 休休として風雅を楽しむ
翼翼結親睦 翼翼として親睦を結ぶ
近体尚綿綿 近体は尚お綿綿たり
柳文亦郁郁 柳文は亦た郁郁たり
吟嘯賑夜寂 吟嘯して夜寂を賑わす
協合如糸竹 協合して糸竹の如し
押韻:入声一屋(谷、睦、郁、竹)
語釈
・書声:詩文を朗誦する声。
・鴻群:鴻の群れ。友人を例えて言う。
・休休:楽しんで安らかな様。
・翼翼:恭しい様。
・近体:作中世界での従来の詩形。律詩や絶句。
・綿綿:長く続いて絶えない様。
・柳文:造語。漢柳を指す。
・郁郁:香気の盛んな様や文化の香り高い様。
・糸竹:弦楽器と管楽器。
訳
遥か遠くで詩を吟じる声を聞き、
渡り鳥が山谷を越えてやってきた。
安らかに詩文を楽しみ、
恭しく親交を結ぶ。
近体詩は今なお伝統を継いでいき、
漢柳もまた文化的な土壌を育んでいる。
吟ずる声は静かな夜を賑わし、
和やかに調和する様は管弦の音楽のようだった。
登場シーン
鈍灰の乱入などの騒ぎはあったものの、平穏に進行する宴。その中で漢柳二聖の片割れ「耀白」が先述の本陶の作品に対する答えとして為した作品。
4 遊詩海(詩の海に遊ぶ)
舟行漂詩海 舟行詩海を漂い
浅酌浴潮風 浅酌潮風を浴ぶ
氷輪皓皓顕 氷輪皓皓として顕なり
浮光揺漾融 浮光揺漾として融なり
波平身眩暈 波平らかなれど身は眩暈し
酔脚猶朦朧 酔脚猶お朦朧たり
臨水深無底 水に臨めば深きこと底無く
望天高莫終 天を望めば高きこと終わり莫し
押韻:上平一東(風、融、朧、終)
語釈
・浅酌:ちびちび飲む。
・氷輪:冷たく冴えた月。
・皓皓:清く白い様、光り輝く様。
・浮光:水面に映る月影。
・揺漾:揺れ動く様。
訳
舟が詩の海を漂っている中、
一杯引っかけつつ潮風を浴びる。
寒々とした月は明るくはっきりと空に輝いており、
水に映る月はゆらゆらとして水中にとけている。
波は穏やかだけども身はふらつき、
酔った足取りは朦朧としている。
海面を見れば深くて底が見えず、
空を見れば高く果てしない。
登場シーン
宴に交じった鈍灰が為した作品。先の他人をあげつらった作品は彼の本意ではなく、こちらが彼の詩人としての本懐である。
桃花詩記はカクヨムにて現在第4話まで連載中、間もなく第5話を投稿する予定です。
物語は佳境を迎え、完結に向けて動いていきます。読むだけなら登録不要なので是非目を通して頂ければと思います!
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