ボイスの有償依頼をした話
六月に依頼して七月に納品して頂き、約一ヶ月にわたり声優さんに役作りをして頂いた記録とめっちゃ楽しかったね、最高~~~!というワクワク日記です。
依頼したキャラクターはノウェルズ・クディッチ。学者で人外という設定。
創作ファンタジー小説の準主人公、もしくはヒロインに位置します。本編小説はR18ですが、依頼したのは全年齢の範疇での台詞8点。それから自己紹介ボイスなど含め文字数は600字前後。
0/依頼開始
今回は女性声優さんにお願いしたのですが、ボイス公開までお名前は伏せます。一部声優さんからのメッセージを掲載しておりますが、それも意訳となっております。
私はこれまで例え話でもノウェルズの声がどんなふうだかイメージが掴めず、アニメみてもゲームみてもそれっぽいと直感する機会を得られませんでした。・・・・・・が~~!!!!有償依頼してぇな~~~と望み薄のまま各地のサンプルボイスを聴く旅を続けていると、件の声優さんのサンプルと出会いました。それは神話を語る内容で、アッこういう感じではないか?と直感し、漠然としたイメージを抱えつつ依頼しました。
でもやっぱり漠然と・・・・・・しているんですよね。正直ボイスとかこっちが知りたい。いやどういう声ですか?全然わからない。わからないけど、声優さんにとにかくイメージを伝えなくてはいけないので、なんとか絞り出し、初回時にお渡しした資料がこちら。
ストーリーをご存じない方に直感的に伝わるよう、裁判官だとか事務官だという単語を用いています。
でもこのイメージも、件の声優さんが得意とする「ツンデレな女の子」「お姉さん」との差別化のため、絞りだしてました。ツンデレとかお姉さんの演技が得意ということは、もしかするとそちらの印象に演者さんが引っ張られてしまうかもしれない。あくまで自分が惹かれたのはナレーションボイスなのだとお伝えしつつ、まずは収録をということで日を跨ぎます。
この時点で何がどうなるのだか全然想像つかないし、自分が資料として提出した画像やテキストは「本当にノウェルズの声を表すものとして、正しいか?」と疑っていました。しらないものを知ってるふうに表現するのは難しい。ほんと教えてほしい。でもこの女性声優さんなら、私に、そう、むしろ私にノウェルズの声がどういうものかを聴かせて・・・・・・教えてくれそうなんだ!依頼者として頼りなさすぎる。頼りないですが必死だったので画像とともにお伝えしたテキスト上の要望がこっち。
ちょびれ「この度ご依頼させて頂きました「ノウェルズ」というキャラクターは拙作の世界観を象徴し、雪深き土地を現すもの、氷や死をイメージしている存在です」
ちょびれ「台詞Aは危機的状況での説得。押し殺した怒りがある。台詞Bは今回ご依頼するなかで最も感情的な台詞であることを追記させてください。意味合い的にも悲鳴に近い台詞です」
いや、わから~~~ん!けど、具体的であることを心がけました。イメージ構築のために半端な遠慮は軸をぶらすとおもい、氷・死というインパクトの強い単語も用いています。
受け取った返信がこちら。
声優さん「キャラクターへの理解を深めるために、ストーリーを拝読しています。音声収録までお待ち下さい」
そんなことある!?本編チラ見してもらったほうが勿論キャラクターの具体像は理解して頂けるとは思うけれど。とても嬉しかったです。これが仕事人か・・・・・・と泣いてたら私のPCが壊れました。OH~~~~~!!!!(修理に出しました)
1/PCが壊れたタイミングで一回目の納品
仕方ないので現役PC不在の間は古いPCを引っ張りだして取引しました。古いノートパソコンなので音質が不安で、スマートフォンでも音声データをDLし、四六時中聴いてました。
楽しい~~!!!じゃなくて、イメージ・・・・・・これか!?という・・・・・・いや、これ・・・じゃない、気がする。先にいうとこれじゃないのでリテイクになるんですけど、何が違うのか、どう違うのか、それなら正しいと思う部分や、近いと思う部分はどこなのか? どう改善すべきかは依頼者でキャラクターの作者たる私が言葉にしないと始まらないわけです。それを見つけるために四六時中聴いてました。夜寝るときもイヤホンつけて天井みながら・・・・・・。
正解がわからないけれど、否定はできるんですよね。つらい話だなあ・・・・・・だって、ボイスは綺麗なんですよ。
声優さん「収録するにあたってニュアンスに迷い、数テイク収録させて頂きました」
しかも、台詞ごとに数テイク収録してくださっており、苦心の末演じてくださったことを痛いほど感じました。
「皆様、ご覧下さい」音声を再生して、最初に聞こえる台詞がこれです。澄んだ、美しい音声ではっとさせられる。私の創作はカリヴァルドだのノウェルズだの、ちょっと発音しづらい単語が多いのですがいずれも滑舌よく、演技力も素晴らしい。「グレンツェ語」の発音初めて聴きました(感動しちゃった!)
ごく短い台詞のなかで(約三秒)感情の移ろいが表現されています。最初の「ぁ」が小さいから躊躇いを表すだとか、途中で声が低くなるので悲しみがあるとか、語尾がはねることでクエスチョンになるだとか、一瞬に豊かな演技の技巧が凝らされている。発言者の前に誰かがいて、会話している図が瞼裏に浮かんでくる。状況が勝手に描き出される。背景はきっと豪華な屋敷だかお城で、親しい人と話してるんだと見えてくる。
ただ、話しているのがノウェルズの像と結びつかない。どこかのお姫様かお嬢様だと思いました。しかもそのまま、この感想をお伝えした。っていうかこのボイスのお姫様がヒロインのゲーム、普通にプレイしたいですとまで言った(プレイしてぇ~~!!私のお姫様になってくれ・・・・・・)
そもそも魅力を感じて依頼しているのでボイス自体が好きなことは当然なわけで、好きだな。いいな。く~これ堪らん!こういう台詞をこういう声で聴けるの最高~~!!というファン目線の自分を、依頼者の自分が全否定してなくてはいけない・・・・・・。
え・・・・・・嫌だが・・・?
美ボイス・・・・・・趣味で聴いちゃうもんね。っていう・・・・・・もうすごいの受け取ったからこれでいいじゃん!いやだめだろう!なんのための有償依頼だと思う?そう!
理想を追求するためなのだ。そのためならば、なんとしてもノウェルズの声を作ってもわらねばならない。この方に頼むしかない。今回が駄目ならもう一切諦めよう!元々ゲームに仕上げたところでボイスはなしのままでいく予定なので、困ることはない。理想がかなわなければ、ボイスを希望した私が愚かだったと結論づけるのみ。
相手に申し訳ないから「OKです~(汗)」などという半端を絶対に私はしたくない。しかし一体、どう伝えたらノウェルズの声は仕上がるのか!!??頼みの綱の声優さん(勝手に頼みの綱にするな)の初回ボイスが違っても、望みをかけてもう一度、何が違うか・・・・・・申し訳ない!申し訳ないが、でも何がどう違うか、しっかり言語化して伝えねばならぬ!!!!!
好感を抱きながら否定するという苦行が、二往復目のメッセージにおける課題でした。
2/心苦しい!でもリテイクだ!!
いや実際否定されて苦しいのはどう考えても声優さんです。それわかってて追い詰めるのが依頼者の私です。最低だと思うか!?石を投げろ!私に!!!
リテイク要望をお伝えした時の私のメッセージがこれ。
ちょびれ「最もかけ離れているのは00:36~の○○の部分。高くて早い。0:04~2:25までと2:26/3:06/3:21の差につきまして、吐息の抜き方に違いがあるかに感ぜられます」
このほか、秒単位ですべての音声にコメントしました。五秒の演技を否定しながら三秒の演技を肯定して、一秒以下の吐息を褒めたり否定したりするわけです。そんな注文つけられて声優さんも困るでしょ!?
5000字以上(何文字かも忘れた)の異常に細かい要望と否定と感想がごった煮になった私からの返信を受け取った声優さんの返信がこちら。
声優さん「今回のノウェルズという役は喉が最高のコンディションでないと演じることが難しい。今まで築いてきた役者の「型」を一度壊す必要がありそうです」
怖くて泣いた。
気迫に負けたし(弱小なので)好きだと思った型を声優さん自身に壊させることになると予想できる? 出来ん・・・・・・私が好きだと思った声の型・・・え・・・・・・壊されてしまうの? 壊さないといけないの? 壊すとどうなるの?
どうなったと思う?
3/型を壊すと共に体調も崩した!
ま~~~~~じで!!!!!寝込ませてしまった。嘘でしょ? 信じられん。めっちゃくちゃ吃驚してしまった。罪悪感で失禁。
声優さん「型を壊すと共に体調も崩しましたが、ようやく喉が回復したので収録できました!」
凄すぎるでしょ!!!体調崩して・・・ってどう考えても心身の負担大きすぎぃ!!!締め切りもしっかりと、余裕をもって守ってくださっているんですよ・・・・・・畏敬。体調崩して、納品日までに回復しなくちゃいけないなかで、喉が最高コンディションじゃないと演じられないような役に必死で取り組んでくださったわけです。もう・・・・・・どんな音声が、どんな音声が収録されてるのか・・・・・・一回目で総リテイクに近い負担を強いたので怖い。もう一回同じ事がおこったら怖い。でも場合によっては絶対に同じ事するのでもう・・・・・・怖くて・・・私が依頼したの間違いだったんじゃないか。声優さんにここまでの負担を強いることになるなんて・・・・・・再生準備整えたけれど緊張のあまり数時間音声を再生できず固まってました。人が丹精こめたボイスという作品に難癖つけて、寝込ませて、それで・・・それが依頼なんですか・・・・・・?修羅じゃないですか・・・・・・。
4/結果、最高だった~!!!!!
イェ~~~~イ!!!めっちゃホリデーーー!!!!!!!!!!
リテイク版と初回版があまりに違ったので驚いたのですが「これじゃん!!!!」と膝を打った瞬間たるや、光景に例えるならば斜線上の陽射しが曇天を貫く、天使の梯子状態でした(エンジェルラダーってしってる?検索して)
この声を必死で形容したときに飛び出したのが「人間じゃなく聖獣が人語を話した時のような神秘性」と表したのですがこれでした。まじでこれだ。
今回お願いした声優さんの声質は中低音、ハスキーボイスなんですね。
声が高すぎると少女過ぎる。声が甘ければ「兄に依存する妹像」が描き出される。ノウェルズは兄からすれば永遠に「妹」ですけど、彼に甘えようという神経の持ち合わせがないというのは、彼女を構成する重大なキャラクター性です。
そして透明感が高すぎても脆く、弱くなってしまう。そんな脆弱じゃいけない。守ってあげたくなる少女像を排斥せねばならない。子羊や子ウサギじゃ不足なんですよ。己の四肢で自立していると一発で理解できる声じゃないといけない。美しいボイスを求めているけれど、硝子細工じゃ困る。しっかりとした、神殿みたいな地盤の強さが要る。
声優さん「最初の演技はノウェルズのビジュアルに引っ張られて、美貌に相応しくあろうと努め、声を作ってしまっていました。けれど、青ちょびれさんからの意見をきいて一ヶ月間に渡って作り上げたノウェルズの声は、一度自分の中からノウェルズという美しいイメージを全て捨ててしまう事で成立しました」
泣いた。
声優さん「はじめに希望されたボイスがナレーションだったと思い出し、ナレーションを演じた時はあくまで俯瞰した存在であっただけで声を作る必要性が無かった事を思い出しました。作者がそれを求めるなら、あの声を求めてくれるならば、ノウェルズの容姿に寄せようとする努力は一度止めて、私自身がストーリーから読み取ったノウェルズの「心」に寄り添ってみようと思いました。それが例え自分の思う美しい声で無かったとしても」
これにて納品完了。私の「ノウェルズの声を知らないから、わからない」という長旅は決着し、一切の雲は晴れた。
今回は私から音声に惹かれて依頼したので、取引開始までお互いの人柄はわかりません。というか人柄は二の次なんですよ、演技さえ良ければ・・・・・・そう思っていました。
声優さんがここまで作品とキャラクターに寄り添い、ノウェルズという非常に厄介な、常に相反する感情を備えた、静謐でありながら攻撃性を秘めるという、なんとも形容しがたいキャラクター像に誠心誠意取り組んでくださる方かどうかは、蓋を開けてみなければわからないことでした。
蓋を開けても、こんな結果になると想像つかなかったでしょう。この世に、ここまでノウェルズの心をわかろうと努力し、演じきることが出来る人がいるだろうか。他にいません。
一切の型が通用しないから、先入観を切り捨てて心を想像して声を創ったと仰って下さる方に巡りあい、これだと納得できる幸運を掴めたことは望外の喜びです。取引中にも、Arroganz自体が琴線に触れたと仰ってくださって、すっご・・・・・・奇跡的確率過ぎて私も吃驚してるんですけど、声優さんも「貴方ほど細かなコメントと表現をしてくれたのは初めて」と仰ってくださった。こんな演技されたらそりゃツイッター常駐菌青ちょびれも九官鳥として感動を訴えずにいられなくない?(菌なの?九官鳥なの?)
これが創作の喜びじゃなくて何なのか、しかも自分ひとりなら得がたいものだった。天使と交通事故起こして翼が舞うのを見ながら昇天って感じ。
ボイスを拝聴して実感したのですが、ノウェルズの声は絶対に可愛いものじゃない。どう形容したらいいかわからない結果に出るのが「綺麗な声だ」という感想になる、そんなボイスだと思いました。いえ、女性声優さんなので女性特有の柔らかさや繊細さは勿論あって、低くはないんですよ。
甘さを完全に捨て去った「女性」の声だと思います。誰にも可愛いプリティガールとはいわせねえからな!!!!!と震えていました(見た目は少女と女性の中間、という設定なんですけども)
中低音ハスキーボイスの特性も素晴らしくて、高い声を出すと特にハスキーがかるんですね。でも中低音の演技だとハスキー部分が秘され、半紙越しに香るような魅力に変ずる。その、語尾や吐息に若干含まれる揺れというか、掠れとまで認識されない微妙な部分が、清涼感だけでない独特の魅力を備えていると感じました。そんなことも知らなかった。ノウェルズがハスキーボイスとか中低音とか、全然考えたことなかった。
収録して頂いた台詞には激高、軽蔑、緊迫した台詞(全部兄に向けたもの)が数点あり、それらと平常時の温度差も印象的でした。声優さん選びにはいろいろな条件がありますが、私は第一に演技力が気になり、この方に依頼してよかったな、と実感するばかりです。もう旅も終わったので下草を背に寝転び、晴れていく空を眺めているだけだな・・・・・・(ボイス公開のために多分動画作らないと駄目だな・・・できるかな)
いや、うん。素晴らしい思い出が出来て満足していますが、(草原全裸寝転びおじさん、ここで起き上がる)この記事を読んだ方々はそこまで絶賛するボイスは誰が演じたんだ、どんな声だ。一度聴かせてみろ、お前の話が妄言か確かめてやるとお思いになるでしょう。はい!これです~~!と自慢しまくりたいけれど、それやるとボイスを公開するに相応しい場を私が整える気力なくしそうなので「早く聴いてほしいが、今は我慢の時ですね」というセルフじらしプレイに付き合って下さい!
言うて堪えきれずボイスTwitterで公開したら石を投げて下さい。屈強さな図々しさですべての石を跳ね返すからな・・・!!!!(盛り上がる上腕二頭筋、ビキビキに血管を走らせる)
これはおまけの兄妹イラストです。