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三木孝浩『思い、思われ、ふり、ふられ』

普段あんまり映画を観ないので、三木孝浩監督作品は『ソラニン』しか見ていないし、浜辺美波が出演している映画も『アルキメデスの大戦』しか観ていない。

Twitterでこの人がオススメしている映画は観て損はないと思える人が何人かいて、その人がオススメしている時は、自分が普段観ないジャンルもなるべく観ようと思っている。『思い、思われ、ふり、ふられ』を観たのも、Twitterで傑作と称されているつぶやきを見つけたからだ。期待半分、不安半分で観にいった結果、もう一回観たいと思えるくらい満足したので、ネタバレにならない範囲で感想を残しておきます。

映画を観ていて、これは良い映画だぞ、と自分の中でスイッチを切り替える瞬間はありませんか。僕は何回かありますね。たとえば片渕須直監督『この世界の片隅に』の冒頭シーン。すずが中島本町のふたばまで海苔を届けるために船から降りて、海苔を壁に押し付けて風呂敷を結ぶシーンを見て、ここまで細かいところにこだわるのか、と冒頭ながら『この世界の片隅に』が大傑作である予感を感じて、集中し直したのを覚えている。


『思い、思われ、ふり、ふられ』も良い映画だぞ、と感じた場面がある。それは冒頭の浜辺美波演じる山本朱里と福本莉子演じる市原由奈が学校で弁当を食べるシーン。教室で弁当を食べているんだけれど、机に置いてある水筒にこだわりを感じた。市原由奈は薄いピンクっぽい水筒(うろ覚え)、山本朱里は透明なタンブラーを使っている。市原由奈は奥手で少し垢抜けない感じで山本朱里は社交的でお洒落に気を遣う感じがふたりの演技だったり、セリフで十分伝わるんだけれど、ふたりが使いそうなアイテムがさりげなく画面内に配置されていてセリフだけに頼らずにキャラクターを表現できてんなあ、とめっっちゃ細かい部分に感動していた。同じ感想を抱く人がどれだけいるかわからないくらい細かい話なのだけれど。

勝手なイメージだが、青春映画は青い空、白い雲! って感じの爽やかなものを想像してしまうんだけれど、『思い、思われ、ふり、ふられ』では、よく雨が降る。それは「キャラクターたちが晴れを望んでいるんだけれど、いつまで経っても晴れない心、もやもやした気分を表現している」と、舞台挨拶で監督が言及していたものの、青空の場面を多用しないで青春を描写する、その心意気が良いと感じた。

『思い、思われ、ふり、ふられ』の原作を読んでいる人はご存知かもしれないが、主要キャラクターたちは全員片想いをしている。友達や好きな人のために想いを伝えられなかったり、告白されても傷つけないために振ったり、全員誰かを想いすぎるあまり、なかなか幸せになれない感じが原作の時からが持っていた良さだ。僕はこういう優しすぎる物語が大好きなので、今作を好きになるのは当然だったかもしれない。原作は途中から(7巻くらい?)読んでいないので、結末を知らなかったんだけれど、恋愛だけがテーマの物語ではなかった。他の誰かが傷つかないように自分を蔑ろにしてしまう人たちが自分の気持ちと向き合い成長する物語なので、後半は夢についても描かれたりする。自分の将来と向き合わせるためのアイテムとして、進路調査票って便利だよな〜、なんてぼんやり思う。

浜辺美波について。ちゃんと浜辺美波の演技を見ようと思って見たのは、今作が初めてだったんだけれど、こういう演技をする人なんだね。浜辺美波が演じる山本朱里は、転校が多い子なので周りと打ち解けるために打算的に行動する。その分、自分を押し殺して生活している。下手な役者がやると明るい部分を演じている時も影があるような演技をしてしまうと思うんだけれど、浜辺美波は明るく振舞う場面は陰をほぼ感じさせない演技で、自分を押し殺していることにブレーキが効かなくなり感情が爆発してしまう場面も、さっきまで明るかった朱里とちゃんと一貫性を感じてしまった。技巧派って感じではないんだろうけれど、不思議と違和感なく見れる役者なんだなと感じました。近いうちに『君の膵臓を食べたい』とか『屍人荘の殺人』を観ようと思います。


ネタバレは避けるので、細かく言及しませんが、ラストのあのシーンとても胸がいっぱいになりました。Official髭男dismも今までそんなに好きじゃなかったけれど、帰り道に主題歌をずっと聞いてしまいました。夏休みに予定がない人は観て損は無いと思います。

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