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小さな翼を持つ友だち
海や山に近い自然の多い街に、3年ほど前、都心から移り住みました。
駅前はチェーン店のカフェもなく、夜9時になれば街は真っ暗。のんびりと郊外の暮らしを楽しもう、と思ってはいたけど、引っ越してしばらくは、それ以上に「何をするにも不便だなあ」と思わずにはいられなかった。
都会では3分もしないうちに次の電車がやってくるし、ちょっと歩けばコンビニ、ファストフード、ドラッグストアが山ほどある。スピード感のある「便利さ」を当たり前に享受してきた自分のペースが、のんびりした郊外型の暮らしにフィットするまではしばらく時間がかかりました。
ようやく、生活のペースに馴染んてきたのは昨年の秋くらい。
その頃、時折、庭にやってくる可愛い小鳥に気づきました。庭の花を植え替えたり、雑草を抜いたり、しゃがんで作業している私のすぐ近くまでグレーの翼の鳥が来て、「カッカッ」と鳴いて、小首を傾げるのです。
調べたところ、ジョウビタキという渡り鳥だとわかりました。色からするとメスの鳥です。繁殖期を終えた小鳥は普通、群れで飛ぶことが多いけれど、縄張り意識の強いジョウビタキは群れないそうです。
うちに来るジョウビタキのジョビ子さんも、いつも一羽でやってきます。
「ヒ!ヒ!」「カッカッ」という鳴き声が近くで聞こえる度、姿を探しているうちに、ジョビ子さんも私を知り合い程度に認識してくれたのか、割と近くまで来てくれて、余計愛着が湧くのでした。
そして、春になると姿が見えなくなり、しばしのお別れとなりました。
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今年10月、再び秋が始まった頃。
例の鳴き声が聞こえてきました。キョロキョロと姿を探していると、「ここだよ!ここ!」と言わんばかりに、「カッカッ」とまた近くで鳴きます。
「どこだ、どこだ?」まだ見つかりません。
すると、目の前の塀までパッと降りてきた鳥がいました。
ジョビ子さんです。頭を上下に揺らし、得意げに尾をピコピコさせています。
「わあ、今年も来てくれたの!」
嬉しすぎて、つい、声が出てしまいました(普通に鳥と会話しています)。
同じ鳥がまた同じ場所に渡って来るとは知らなかったけれど、仕草や姿から昨年と同じジョビ子さんだと確信しました。このエリアを縄張りと決めているようです。
餌付けをしているわけでもなく、ジョウビタキが人間の顔を覚えるのかは不明なものの、庭に出ると鳴いて近くまで来て、自分の居場所を教えてくれることが度々あります。こちらが見つけるまで段々と近づいて、ヒントをくれているような。そして、姿を見つけて目が合うと、さらに近くに降り立ったりピョコピョコした後、満足げに飛び立って自分の「野生の時間」に戻っていきます。
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インコを飼っていた経験から、ジョビ子さんの様子もなんとなく、人との交流を楽しんでいるような気がしてなりません。
仕事のことで頭が忙しない時でも、庭でそんなふうに無邪気なジョビ子さんと出会うと、一瞬で純粋な気持ちが広がるから不思議です。
以前、有名な野鳥愛好家の方が鳥のことを「フェザード・フレンド(羽根を持つ友人)」とお話しされていたのを思い出しました。まさに私にとってはそんな存在。
小さな翼で春に秋に海を渡って、はるばるうちの庭を目指してきてくれたのならすごいなぁと感動します。
今年は去年よりも、電線などの高い場所で鳴くのが忙しそう。縄張り争いの相手がいるのかもしれません。
そんな様子をうかがって、小さな友人との会話を楽しみにしている自分は、すっかりスローで雄大な自然の時間に馴染んでいるのかも、と思うのでした。