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やっぱり囃子が好き

渋谷のセルリアンであったお能の会へ行く。今回は笛のs先生の自主公演。毎年行っていて今回で6回目。

番組はお能が一番あり「満仲」(宝生流)。いつもの通りトークコーナーがあって、一調一管(謡と小鼓と笛という組み合わせ)で葛城。最後に狂言で「石神」。

お能の「満仲」。以前に見たことがあるのかもしれないけれど、(観世流ではシテである仲光の名前のほうをとって「仲光」)思い出せないので、初めて見るのと同等だろうと思う。

内容は主従の板挟み問題。主が満仲で従が仲光。お寺に預けて勉強をさせている満仲の息子美女丸を久しぶりに呼び寄せて、勉学の進展状況を問うと思ったようま状態ではない。これは見込みなしと思ったか、満仲は息子美女丸を切ってしまおうとするが、家臣の仲光が止める。
そこから、では仲光に「美女丸を討て」という命令が出てしまう。主君の命令には背けないが、主君の子供を討つことも出来ない。自分がその年頃だったら身代わりになりたいものだというのを聞いていた、仲光の息子が「では自分がみがわりに」と言い出して・・・という話。

演劇的な内容で、私はどちらかというとそういうもの(お芝居っぽいもの)はこのんで見ないのだけれど、今の人が見るとこっちの方がわかりやすいのかもとも思う(話の展開に納得するかは別だけれども)。
武士の台詞でずーっと話が進んでいく。

結局、仲光は主君のために自分の子供幸寿を切って、美女丸を討ったと報告。幸寿は討たれる時に、(自分にとっては美女丸も主人なので)主人のために討たれるのは弓矢の家に生まれたものとして、当然といった覚悟を語ったりして、「見込みあり」の姿をみせてすでにこの世にいない状態。
仲光と満仲は二人で話し合っている時、「じゃあ、もう後とりがいないので、優秀な幸寿ちゃんを跡取りにします。連れてきて。」といった話になる。うーん。助けて。

あなたのせいで、もういませーんとは言えないので、仲光は「出家しました。私も出家します」と答える。優秀な人材の流出二名の危機(一名は確定)。

そこへ、お寺から逃がしていた美女丸を伴って、僧都が登場。満仲を説得して、元の通りに美女丸を許して、めでたい(めでたくない・・・)となって、男舞という舞を仲光が舞い、最後は恵心僧都と美女丸は再びお寺へ帰っていく。という話。

仲光がかわいそうすぎる。まさに、「主従とかは恐ろしい」(by 天守物語)なのだ。

そんな複雑なめでたい宴席での男舞なので、複雑な舞。主人公の仲光は登場すぐからずーっと複雑な立場、複雑な気持ち、しかも理由が理由でことの次第がことの次第なので、好みが分かれる演目なのかもしれない。板挟みの立場、ままならないこの世、社会のしがらみといったものに物語として入っていくのがいいというひとにはおすすめの演目。

その複雑な男舞が見どころ。舞の途中で、扇を「はたっ」と落とすという珍しい型があり、この人物の複雑なまま舞っている心情が表される部分がある。

一調一管という形で舞のところを中心に聴かせる「葛城」。
通常舞の部分は序の舞なのだけれど、神楽で演奏されました。神楽にしたこと、また一調一管(鼓と笛だけの組み合わせ)にしたことで(そうすると、通常の手組みとはまた違う手組みとなり、笛も違うものを吹きます)別の雰囲気が出て、神秘性、山の中、女神がいる山の中の風景が表現されて良かったです。
元々私は囃子が好きになって能楽堂へ通うようになったので、こういった演奏を聴かせるものが出るととても嬉しい。どちらかというと楽器演奏の方が好きなのだろうと思う。演劇というより音楽のお能の方が好きなんだろうと思う。
それで語り多めの作品がどちらかというと苦手なのかなあ。

深刻なお話が最初にあったので、最後の狂言でほっといと息。
狂言は「石神」。自他ともに認める飲んだくれダメ亭主が登場し、離婚の危機を自ら石神に扮して回避しようとする話。いままで離婚されていないのが奇跡。のダメ亭主なので、結婚の世話をした人からも「まあ、離婚・・・奥さんが言うのならしょうがないよね」と言われるしまつ。
家のこともまったく考えず、何もせず、出歩いてばかりいて外で飲んだくれているという人で、それをずーっと改めていない。もう堪忍袋の緒が切れるどころか袋もビリッビリで布じゃなくなってます。という状態なので離婚ですという話になるのだが、夫の方は自分がダメ亭主で女房に甘えている自覚はたぶんありありなので、是非とも今後も甘え続けたいため、離婚を回避したい。ぜひ。
というダメのプロ。

仲裁人も、もうダメなんじゃないの?と言っているが、ダメ亭主の必死の頼みに、「飲んだくれたままならもう庇えないよ。お酒、やめてくれるならもう一度取りなしてもいいけれど」という意見に。
そこで、お世話になっていたけれど、とうとう離婚しまーすと報告に来た妻に、まあ、離婚する前に石神様にきいてみては?と勧め、ダメ亭主には「石神に仕立ててやるから、先回りして石神になって、占いの結果をじぶんのいいようにしろ!」という作戦を仕込む。
さて、夫は離婚を回避できるのか?

という話。こういうしっかりしてはっきりした女房は頼りになるよね。好きだな。と思いつつ見る。今まで面倒見てくれているんだから、そりゃ、離婚したくないよなあと思う一方、女房のほうからすれば「そりゃ離婚だよ」とけんしょから思う。冒頭から。
最後に女房は占いの結果はアレとしても、神様に色々聞いたので、お礼に神楽を舞う。神楽部分に囃子が少し入ります。

先生の囃子も聞けたし、おもしろトークもあったしで今回も楽しい会でした。来年が楽しみだなあ。


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