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卵でニコニコ

 卵を割ったら、黄身が二つ現れた。
 ええっ!と驚くあまり、すぐさま箸でかき混ぜてしまった。そのときの速度といったら、まるで『僕のヒーローアカデミア』のホークスのようだった。写真も撮らなかったので記憶が捏造されている可能性も捨てきれないが、それぞれの黄身は小さかった気がする。本来は一つの黄身だったところを、どこかのタイミングで分離したからだろう。双子というのは、得てしてそういうものなのかもしれない。
 その数日後、また双子の卵に出会った。前回の卵と同じパックに入っていた卵だった。こんなことがあるだろうか?と驚くあまり、またもやすぐさまかき混ぜてしまった。そのときの速度はホークスを超越し、後悔をも凌駕し、とんでもない自己嫌悪に陥るほどだった。こんな幸運はもう二度と起こり得ないかもしれないというのに、私はただ卵を食べることにのみ意識を注いでいた。そのため手の勢いを止めることができなかった。私は愚かだった。
 でも、それから更に数日が経った今では、ラッキーな思い出として残っている。人に話したらたかが卵に何を大袈裟な、と思われるかもしれないので、誰にも言えないままだ。だから密かに思い出しては嬉しく感じている。