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息が苦しい隙間風

 眠る前に、「明日起きて気分が良かったら出かけよう」と意気込むことが増えた。退職して一ヶ月。そろそろ無職期間を満喫したくなってきた。けれど今日は朝から頭痛がひどかった。お気に入りの頭痛薬を飲んで回復を待ったが、症状は治まらなかった。それどころか悪化すらしていた。結局、溜まった食器もそのままに、ベッドに戻った。 
 夕方になるとようやく落ち着いてきたのだが、今度は息が苦しくなってきた。食事を済ませてベッドに戻ると、窓から吹き込む隙間風がとても冷たく感じられた。
 無職になればもっと自由に楽しく過ごせるのだと思っていた。旅行にライブに読み書きに、楽しいことを我慢することなく謳歌できるのだとばかり思っていた。けれど実際は、納めなければならない保険料に怯えたり、乗り物に乗る気になれなかったりして、どこにも行けないでいる。
 寂しい。家族との通話以外はスーパーの店員さんと短い挨拶を交わすくらいなので、出すべきときに上手く声が出せない。それが寂しくて虚しい。情けない。
 焦ってもいる。こんなにも毎日を棒に振ってしまうなんて、良くない気がする。仕事が忙しかった頃は「辞めたらゆっくり休もう」「好きなことをしよう」と思い描いていたけれど、ゆっくり休めたら休めたで、恐ろしい。働いていた職場の様子を想像しては、皆は今頃頑張って働いているのに私は一体何をしているんだろう、と思う。