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2024.09.14 不思議ロックフェスティバルVol.3 日本の誇るプログレの祭典

ライブ概要

2024.9.14(土)
”FUSHIGI ROCK FES #03
open 14:15 start 14:45
adv¥5000 door¥5500(+1drink order)

出演者
• バスクのスポーツ
• Evraak
• 曇ヶ原
• XOXO EXTREME
• 老人の仕事
• St.Claire
• FNCTR
• ゲスト:(株)花園+
OPEN 14:15 / START 14:45
前売¥5,000 当日¥5,500(+1drink order)
配信:¥3,000 (~9/29まで視聴可能)


※前回(2023年開催 Vol.2)の感想はこちら

ドイツで開催されていた伝統的な世界的プログレフェス:Night of the Progは今年2024年の開催をもって終了となることがアナウンスされた。
5大プログレバンドの動きとしても、King Crimsonは活動を終了しており、Genesisも再結成の話は一向に出てこない。メンバーの高齢化とともに少しずつ収束していくように見られるプログレ界の世界の動きとは反対に、ナタリーに特集として取り上げられたり、フジロックに曇ヶ原が出演したりとむしろ勢いを増して来ているのが日本のプログレシーンである。
参考:ナタリーの記事
https://natalie.mu/music/column/582844

現在では世界的にも珍しい存在となってしまったプログレ・フェスだが、日本で開催されているこの不思議ロックフェスは今年で3回目の開催となる。ディスクユニオンやワールドディスクが協賛ではあるが、主催となって仕切っている井上さんは、普段音楽業界で働かれている方ではなく、とても熱意のあるプログレファンだというから凄い。
第1回目は7バンドとたくさん観れたが30分枠は少々物足りない。第2回目は十二分にバンドの魅力を感じられたが3バンドしか観れなかった。そして今回は双方の魅力を取り持った結果、各40分*7バンド+αと過去最高の出演者数・7時間半と最長のフェスとなった。とはいえ、この分野のファンのコア層はアラカン世代が中心であるので、冒頭の井上さんのMCでも、「決して無理をしないように」と参加者を気遣うアナウンスが披露され、休憩あり・ラジオ体操あり・要望者にロキソニンテープの配布ありと、あらゆる年齢層の参加者にもスタンディングライブを乗り切れるようにとの主催者のホスピタリティを感じる。

今回も、あらゆる面で話題沸騰・伝説的なフェスとなったので、その備忘録をここに記しておく。
※メンバー・セットリストは分かった範囲で記しております。
補足・修正等ありましたらご指摘いただきましたら加筆訂正いたします。


1.St.Clair

Member:
Vo:森妃名
Key:安斎ゆう子
Ba:藤井博章
Gt:小川逸史
Drs:松本慎吾
Vln:江本有咲

Setlist:※確認中

  1. Siren

  2. Hand in Hand

この日のためにわざわざ大阪から秋葉原まで来てくれた、不思議フェスでは珍しいシンフォ・プログレ。
失礼ながらこのフェスで観るまで全く存じ上げなかったのだが、これがとても素晴らしかった!
2020年に安斎さんにより結成された、ヴァイオリン入りの6人編成だ。Gtの小川さんはかの菅沼孝三も在籍したプログレバンド:ブラック・ペイジ出身でベテランで有名な方のようだ。X(旧:Twitter)では神田沙也加みたいだという意見も見かけたが、やはりVoの森妃名さんが素晴らしい。シンフォプログレというと海外だとなんとなく下手ウマな感じの男性ボーカルが多くそれがミソというところもあるが、森さんはプログレ界では珍しいポップス的な歌唱で、ストレートで良く通る声質が、シンフォプログレらしい明るく前向きな曲調に良く合っていて説得力があるのだ。「シンフォはちょっとなぁ・・・」と敬遠する人も多いジャンルだが、St.Clairは強力なメロディと森さんの歌唱力、そしてここぞという場面で入る小川さんのロックなギターソロのおかげで、この分野にありがちな冗長さはなく、終始爽やかで20分近くの長尺曲でも退屈せず聴かせるバンドであるのだ。KaipaやMagentaなどが好きな人は要チェックだ。

2.老人の仕事

Member:※確認中
Gt:killie
Ba:ミツ (アルバム発売時クレジット CxPxS)
Drs: サク (アルバム発売時クレジット johann)
Key, Program:※確認中
※アルバムに参加はGt/Ba/Drの3名のようですが、ライブはもう1名サポートと思われる方がいらっしゃいました。

Setlist:
1. 新曲?
2. 月世界
3. 翔んでみせろ

個人的に注目していたのが、この老人の仕事だ。プログレフェスでは異色の、というか不思議ロックフェスでは初めての、ドゥームバンドの出演である。昨年と比べて、今年は普段見かけないような若い年齢層のお客さんをちらほら見かけたのも、老人の仕事目当てに来たファンなのかも知れない。
なぜドゥームバンドがプログレのフェスに・・・?と思ったが、最初の音の出だしを聴いて納得。想像していたよりもずっと、サイケデリックな音なのだ。プログレライブではまず体験できない凶悪すぎる最強の音圧とノイズが、音の麻薬となってライブを体感するものをトリップさせる。
音源を買って聴くのもいいのだが、是非やはり一度配信を購入して映像で観てほしい。メンバー3人は全身毛むくじゃらの着ぐるみを着ており、全然素顔が見えないのだ!目のような赤いLEDが不気味に光るが、ベースの人は目が後頭部についていて、ずっと客席に背を向けて演奏している。この謎めいた感じは、真っ白にスモークを焚いて演奏陣の姿を消し、服がビリビリと震えるような轟音を奏でるSun O)))のエクスペリメンタルでミステリアスなライブパフォーマンスにも通じるものがある。同行した知人は、最初の曲の感じはBorisのライブにも似ているとの意見だった。
最後の曲は王道ドゥームといった感じで、客席の熱気も最高潮となり、皆がヘドバンをしていた。ドラムが客席フロアに乱入し、観客と手をタッチして終わる。こんな楽しいパフォーマンスも、プログレらしくなくて、ロックで楽しい。不思議フェスで一番、ヘドバンしてノッたバンドであった。

3.XOXO EXTREME

Member:
一色 萌​
小日向 ​まお
桃瀬 せな​
小嶋 りん
横山 陽依

Setlist:
演奏:Alsciaucat (@alsciaukat2022 )

1.十影
2.カラトピア
3.キグルミ惑星
4.鬱。
5.イロノナイセカイ

老人の仕事と同じくらい異色な出演陣なのが、こちらの"プログレアイドル"キスエクである。(正式にはキスアンドハグエクストリームと読む)
同行人が「えー、アイドルー?」と戸惑っていたので「大丈夫、ちゃんとプログレだから安心して観てほしい」となだめた。正直、自分も1月のEvraakとの2マンライブで初めて彼女たちを観るまでは、そういった敬遠を持っていなくもなかった。だが、やはり生でライブを観てキスエクが何なのかを体感した今は、これは間違いなく「プログレ」であると認めざるを得ない。生演奏で奏でるバックバンドの演奏力はとてつもなくレベルが高く、音楽性でいえば前半3バンドの中ではある意味最も正統派なプログレだ。そして、アイドルというジャンルでありながら容赦なくプログレならではの長尺曲や様々な変調・変拍子が楽曲に盛り込まれる中、華麗に柔軟に変拍子に合わせて歌いながら踊り、辛い顔一つ見せず笑顔を振りまくのは、並大抵のアイドルにできることではない。

今回はAlsciaucat (@alsciaukat2022 )によるGt/Ba/Dr/Key/Flの生バンド付きと豪華な編成で、繰り広げられた。フルートから始まる1曲目の十影が始まると、たちまちアンニュイなプログレの世界に惹き込まれ、クリムゾン色で統一されたレトロ可愛い新衣装とよくマッチしていていい。2曲目のカラトピアは今年から披露され始めたまだ発売前の楽曲だが、少しDream TheaterのHomeを思わせるような憂いのあるドラマチックなプログレメタルだ。セリフあり・小日向 まおさんによる声楽風歌唱ありの壮大なるロックオペラ・キグルミ惑星からプログレハードな鬱。が続けて演奏され、小嶋りんさんが抒情的なメロディをヴァイオリンで奏でるイロノナイセカイを演奏して締める。やはり小嶋さんは実際に音楽大学を卒業されているだけあって、ヴァイオリンの演奏も絶品で美しい。
本日はカバー曲はセトリに無かったが、マグマのカバーは小日向さんの声楽風歌唱がとても原曲の再現度が高いので、今後のライブで注目してほしい。
また、個人的な好みだが、2022年にEPで発売されたADELHEIDがジャケットワークからも連想される通りTesseractのようなDjent系Prog Metal風で、彼女たちにしては新鮮なアプローチでカッコいいので、今後のライブでは聴けたらいいな。

休憩:(株)花園+

Member: from 花園distance
Key:岡田ぴサス
Dr:ミ兵ch

Setlist:

  1. ラジオ体操第1

  2. ラジオ体操第2

これにて前半終了。
フジロックでほぼ立ちっぱなし・荷物背負いっぱなしで二日間大丈夫だったから余裕と舐め腐っていた自分も、さすがにキスエクが終了する頃には腰が痛くなってきていた・・・。
休憩の前に(株)花園+による生演奏つきのラジオ体操が行われることがアナウンスされた。
(株)花園+とは、香川県出身の3ピースプログレバンド:花園distanceのメンバーであるKeyの岡田ぴサスさん・Drumのミ兵chiさん(はまちと読む)で構成された、この日だけの特別ユニットである。Baの梶さんはKraftwerkのライブを観に遠征する関係で出られないため、2人のみの参加となったようだ。なんと、わざわざこのラジオ体操のバック演奏を行うためだけに、ノーギャラで出演してくれたらしい。
ラジオ体操をやるのは〇十年ぶりだが、これが実際やってみると結構いいストレッチになり、腰痛ほぐしにはかなり効いた。というか、生演奏でラジオ体操をやる経験なんて人生そうそうないだろう。花園の2人が第2まで練習してきてくれたとのことなので続けてラジオ体操第2も実施されたが、ラジオ体操第2なんて小学生の頃は地元ではカットされていてやらなかったので、すっかり忘れていた。ステージでディスクユニオンの永井さんがビシっとした動きで実演してくれたおかげで、少しずつ思い出しながら第1よりも少し運動量を多めになまった身体を動かし、しっかりと怒涛の濃すぎる後半戦4バンドのアクトに備える。
花園distanceはゆるっとシュールでアヴァンギャルドな音楽性ながらライブでは高い演奏力をいかんなく発揮していて、私も同行人も数回ライブに通っている大好きなバンドだ。来年こそは3人で花園distanceとして不思議フェスに出演して、もっと注目されて欲しい。

※かなり蛇足ではあるが、ラジオ体操には第3まで存在するようだ・・・。来年はラジオ体操第3まで演奏あるか?
https://ja.wikipedia.org/wiki/ラジオ体操

実質30分くらいしか休憩がなかったので、同行人と富士そばを急いでかきこみ、会場へ戻る。やはり富士そばの硬い椅子でも少し座れたのはありがたい。

4. バスクのスポーツ

Member:
Key:Nomi
Gt:Kamiya
Ba:Isobe
Drs:Ishikawa

Setlist:

  1. Halo

  2. Eye of Howruis

  3. Exodus

  4. ※確認中

  5. Seatango

  6. La tamborrada

  7. (Cover) Steve Hillageのsolar musick suite第三楽章部分

個人的に、とても観たかったバンドだった。第1回目の不思議ロックフェスは多忙により部分的にしか観れていないせいで全体的にあまり記憶がないのだが、当時の自分のツイートによるとバスクのスポーツとEvraakが特に印象に残っていたようだ。2016年にリリースした1stアルバム「運動と食卓」はプログレファンの間で話題沸騰となり、2017年にフジロックのROOKIE A GO-GOステージに出演、2022年に放送されたNHK-FMの『「プ」はプログレの「プ」』というラジオ番組にKeyのノオミさんがゲスト出演したりと、当時はプログレ界の若きヒーローとして引っ張りだこだったのだ。ちょうど現在の曇ヶ原のように。
12年ずっとバンド活動を続けてくれていたこと、そしてまた不思議フェスに戻ってきてくれたことが本当に嬉しい。2年ぶりに観るKeyのノオミさんは、帽子を被って演奏していた文化系から、筋肉ムキムキマッチョマンの体育会系イケメンにイメチェンされていたのが驚きだった。やはり筋肉、筋肉はすべてを解決する・・・!

暗闇の中からぼわっとステージ中央の豆電球が灯されると、機械音声で「バスクのスポーツ」とバンド名がアナウンスされ、2023年に発売された最新スタジオ盤AVATAMAからキラーチューンであるHaloで幕を開ける。祝祭系エンジョイサウンドと本人達が称する通り、明るいパワーに溢れた曲調と強力な演奏陣がライブとして観ていて楽しい。ノオミさんのヴィンテージとモダンが交錯するKeyサウンドを中心に、抜群の演奏力のメンバー陣でパワフルで密度の高い音空間を作り上げている。絶妙なタイミングで光るステージ中央の豆電球は持ち込みで、クラブミュージックのステージにあるようなレーザー光の照明ワークなどは、イケダトモユキさん(@short_acto)が担当・監修されているようだ。

2曲目のオリエンタルなリズムサウンドからEye of Howruisが始まると、バスクのスポーツの名物である?GtのKamiyaさんが上着を脱いで上半身裸になり、70年代のロックアーティスト面とした絵面になった。
4曲目のセトリは確認中だが(新曲?)、2023年に発売された2ndアルバムからほぼ演奏された中、ラストにはプログレファンの心を掴んだ1stアルバムから8分近くのプログレな楽曲:La tamborradaが演奏された。終盤にノオミさんがマイクを持って歌いだしたので、珍しいな新曲かな?と思ったが、プログレファンのためにSteve Hillageのsolar musick suite第三楽章部分(リリース前年にGongがヨーロッパツアーでのみやったDavid Allenがボーカル入れたバージョン)のカバーを演奏してくれていたようである。恥ずかしながらSteve Hillageは勉強不足だったので、カバーとは全然気づかなかった。

どんな音楽?と聞かれたときに一番〇〇っぽいで表現するのが難しいアーティストかも知れない。しかし、既存のプログレというジャンルの固定観念を破り、幅広い音楽層に訴えかけていこうという挑戦心を感じるバンドだ。強いていえば、今日の出演陣の中で最もフジロックさを感じたアーティストでもある。
実際、11/16には今年苗場食堂ステージ1日目出演で話題沸騰となった曇ヶ原とhenrytennisとの3マンライブ、11/28同じくフジロック2日目に苗場食堂ステージへ出演したEYRIEとの2マンライブ実施予定と、同じフジロック出演経験アーティスト同士の共演が叶っており、今後のライブも楽しみだ。

5.曇ヶ原


Member:
Vo:石垣翔太
Key: a_kira
Gt:ヴァイオラ伊藤
Ba:西平匠杜
Dr:ムJapan

Setlist:
1.うさぎの涙
2.くじらの歌はきこえない
3.雪虫 Guest:小嶋りん(from XOXO Extreme)
4.ペンタブラック
5.Impro session

そして迎えた、曇ヶ原。公式X(旧:Twitter)にて、ドラムのムJapanさんが今回のライブをもって脱退するという衝撃のニュースが発表された。にわかには信じがたい内容ではあるが、出番冒頭でもショウタさんにより同じニュースがアナウンスされると、「いよいよ本当なのか・・・」と複雑な気持ちになる。「現編成での最後のライブ、精一杯全力でやりますので、是非その目に焼き付けてください」とショウタさん。「5番、豊島区代表、曇ヶ原!はじめます!」と恒例の文句をVoのショウタさんが宣言してバンドサウンドがかき鳴らされると、秋葉原Club Goodmanは令和6年から昭和99年9月14日の舞台へとトリップする。

1曲目は、彼らの代表曲でありドラムオーディションの課題曲にもなっている「うさぎの涙」。ムJAPANさんの手数が多く力強いドラムワークこそがこの楽曲の魅力であったため、これがムJAPANさん在籍の最後の演奏となってしまうかと思うと本当に名残り惜しい。8年在籍した務めたムJAPANさんの奏でるドラムを、一音一音、名残りを惜しむように、目に、耳に焼き付けていく。ショウタさんもベースを西平さんに専任してからはどんどん歌唱力を増して来ているが、今回は歌の力・表現の力の説得性を感じ、時折シャウト気味に歌い上げるうさぎの涙はエモーショナルで心に迫りくるものがあった。
2曲目のくじらの歌はフジロックの時と同じく短縮Verで披露されたが、聴かせどころ・うまみのある部分はしっかり楽しめるよう残されてアレンジされている。a_kiraさんがKeyのソロを披露しているときに、ショウタさんが拡声器で台詞を語るという新しい仕掛けも追加されていた。3曲目は曇ヶ原で一番歴史が長く、フォーク色が強い雪虫。XOXO Extremeの小嶋りんさんがヴァイオリンでゲスト参加し、美しく切ないメロディにサウンド面と視覚面双方で華を添える。12月には小嶋さんゲスト参加で収録のシングル音源が発売されるようである。

「いよいよ次の曲で最後になります」とアナウンスされると、えーっと会場からブーイングが湧きおこる。「このメンバーでできたことが幸せです。それを皆さまにお届けできて良かったです」とショウタさん。
最後を締めるのは、今年から披露された、ショウタさん作曲・ヴァイオラさん編曲のペンタブラック。西平さんによる強力なベースラインから始まるイントロは何度聴いてもかっこいい。初めてライブで聴いたときはなんて難易度の高い楽曲なのだと思ったが、西平さんが本当に表情豊かで安定感のあるベースを担当してくれたおかげで、懐かしいメロディと技巧的な魅せ場の両方を楽しめる曇ヶ原の新しいスタンダード曲となっている。そして、続けて演奏されたのは、前回の不思議ロックフェスでも話題騒然となった、70年代Deep Purpleを思わせるインプロセション。今回は尺が短いからかa_kiraさんは昨年よりもKeyの台数をコンパクトにしてきたが、レスリースピーカーを持ち込み、Keyを傾けるパフォーマンスも発揮し、デジタルではなく本物のヴィンテージサウンドを奏でることを貫いている。西平さんのBassソロは繊細で静かでジャコパストリアスを思わせるフレーズで、4月のショウタさんのベースソロを思い出す。
ムJAPANさんのドラムソロは皆が静かに、大切に、1音1音耳を傾けて見届けていた。そして、a_kiraさんがKeybordを担ぎあげてステージ前方へ出てくると、ヴァイオラさんとのギターのソロバトルが始まる。ヴィンテージサウンド二人対決の様子はまさに昭和99年のロックスターという感じで目が離せず、何度見てもワクワクする。そして再びムJAPANさんのドラムソロが終わると、曇ヶ原の演目は割れんばかりの拍手で幕を閉じた。上手いドラマーは世の中にたくさん居れど、果たしてこの曇ヶ原サウンドの抜けたピースにカチッとハマるドラマーは他にいるだろうか、と思いを馳せながら、ムJAPANさんに特に拍手を送った。
フジロックとほぼ同じセットリストを追体験できるので、苗場食堂ステージのオンライン配信がなくてがっかりした方も、9/29まで観れるこちらの不思議ロックフェスの配信を観て、日本全国世界各地から伝説を見届けてほしいものだ。

6. FNCTR

Member:
Sax:KeÏ
Key:Fey
Ba:hiro:mitsu
Dr:oz

Setlist:
1.Lude_1
2.Lude_2
3.Lude_3
4.Lude_4
5.Lude_5
6.5_5

フジロック出演、そして8年務めたメンバーのラストライブ。そんなバンドの後で、しかも次を控えるのが同じく他出演アーティストを喰ってしまう焦土系のEvraak。普通のバンドならやりにく過ぎる出演順であるが、そんな位置にも関わらずNew Commerとして最も話題をかっさり、DU新宿プログレ館の音楽チャートでDavid Gilmourのソロ作を抜いて1位となったのが京都から出演したFNCTR(ファンクター)だ。
想像をどんどん裏切っていくのが曇ヶ原なら、FNCTRは綿密に計算された冷静でインテリジェンスな楽曲構成で、ある意味対局の個性にある。一週間前にも新大久保アースダムで背前逆族企画で3マンライブに出演しており、2週連続で東京までライブに来ていただけてありがたい限りだ。新大久保アースダムはハードコアバンドとの音響の相性が良い会場なので、ただインテリジェンスなだけではなくライブでは汗が吹き飛びそうな鬼気迫る演奏を行う熱量も併せ持っているFNCTRのロックな魅力をうまく引き出し、スタジオライブを聴いた以上の高揚感とロックの熱量を体感することができた。今回の不思議ロックフェスでのライブも、新大久保で聴いた以上に凶悪なベースの出音で、曇ヶ原の後に演奏するのに全く負けていないのが本当に凄い。

ふいに私がなんとなく言及した予測が当たっているようで、ライブ会場限定販売のTシャツの謎の図形は、それぞれFNCTRの楽曲を表していて、数学的にも意味があるようだ。その答えをネットで書くのは野暮なので自分なりの答えは書かないが、個人的には左下の図形はヒロミツさんのこのnote記事がヒントになるのではと思っている。こんな風に、FNCTRを"解いて"いくのも楽しみの一つだ。

本日は、プログレをテーマに作られた最新の2ndスタジオアルバムから順番に全曲続けて演奏された。特に最後のLude_5は1stアルバムの楽曲:5_5の延長戦上にあると見せかけ、後半部分からベースとドラムが異なるBPMを演奏するという、更なる難関に挑戦している。さすがEvraakのヨシダさんは、ドラマーなだけあって、いち早くこの仕掛けに気づいたようである。

そして、セトリ最後を飾るのはFNCTRの代表曲となった1stアルバムのラストトラック5_5だ。ここまで大学数学の講義を受けて圧倒されてちんぷんかんぷんになった人も、この曲は高校数学で解けるから気楽に聴いてほしい。なあに、5拍子・6拍子・8拍子のフレーズの最小公倍数が合わさるポイントまで変拍子をカウントするだけですよ。
・・・。とはいえ、指を折って数えていても、ライブでテンションが上がると今何回目なのか見落とすこともある。そんな風にリズムの海で迷子になっても大丈夫。こんな変態ポリリズムでも、グルーヴがどこかミニマルミュージックやクラウトロックの影響を感じられるので、ポリリズムなのに踊れるのだ。こんなスマートさ・お洒落さもいい。
普段MCをしないバンドだが、フェスということでところどころヒロミツさんがMCを入れたり煽ったりして、ロックらしい盛り上がりを見せた。でも、都合がつく人は、ホームタウンの京都で、どれだけ彼らが京都の音楽シーンで大切にされているか、そして京都を愛しているかを是非一度観てほしい。私は、若い観客がポリリズムで踊り自然と歓声をあげていた、4/13の京都GLOWLYでのあたたかな雰囲気のライブがまだ忘れられない。現在発表されている今年のライブ後、2025年6月までしばらく休止に入るようなので、是非残りのライブに足を運び、そして復帰した際には全力の拍手で彼らを迎えたい。


7.Evraak


Member:
Vo:瀬尾 マリナ
Gt:菅野 ハヤヲ
Ba:川嶋 弘治
Drs:吉田 タケシ
Key:長谷川 ミキ
Sax:今川 天國

Setlist:
1.Saethi
2.Cure Guest:小嶋りん(from XOXO Extreme)
3.Requiem for Tides

そしていよいよ、不思議ロックフェスのトリを飾るのは、Evraak。第1回目から曇ヶ原とともに不思議ロックフェスに出演し続けている常連ではあるが、昨年までずっとトップバッターという順番だった。ここにきて初めてトリを迎えるこの順番は、井上さんのMC内容から察するに前々から計画されていたようだ。
1曲目からいきなりヘヴィな呪術系プログレ楽曲・Saethi。ライブを重ねるごとに凶悪さの引き出しを広げて行った瀬尾さんが咆哮を上げ、瀬尾さんによって独自言語で書かれた歌詞の前には、ただひたすら立ちすくむしかない。目が合うと石にされてしまいそうだ。美しさ・凶暴さ・哀しみ、すべてを表現し、音として聴かせるだけでなくライブを一つの舞台として魅せることに瀬尾さんは挑戦しているように見える。ヘヴィネス・今川さんが聴かせるサックスのアヴァンジャズ要素、そして呪術的なライブステージ。Evraakのジャンルを一言でカテゴライズするのは難しいが、だからこそDoomフェスやハードロックガイダンスなどのクロスオーバーなフェスに出演するたびに、プログレ以外からの幅広い層からも注目を集めてきたことと思う。

そして、個人的なハイライトは、小嶋りんさんがヴァイオリンで加わった、2曲目のCureだ。1月に小岩オルフェウスでキスエクとの2マンショーを観たときにこの組み合わせを期待しつつも実現されなかったので、ようやくファンの願望が満を期して実現した感じだ。原曲ではサックスの今川さんがエアロフォンでチェロ音源で吹いて演奏されているが、やはりこの楽曲の持つ地中海沿岸的な雰囲気には、本物のヴァイオリンの音色が合う思っていた。確かな演奏力と表現力を併せ持つ小嶋さんが演奏することにより、Cureの楽曲がより血肉を持って、息を吹き込まれたように感じられた。また、このパートを小嶋さんが分担することによってサックスは全く新しいフレーズに変わっているのだが、むしろヴァイオリンと相乗効果によって強力なメロディラインを生み出し、初めから存在していたかのようにぴったりとパズルのピースが合わさっていたのだ。改めて、St.Clair、キスエクとヴァイオリン入りのアーティストを観て、ギターソロやサックスソロが演奏していても存在を邪魔しないヴァイオリンという楽器の万能さと可能性を感じた。また何かの楽曲でゲスト参加してくれたりしないだろうか。

そして、3曲目ラストは、この日初めて披露された新曲・Requiem for Tides。GtのハヤヲさんのX(旧:Twitter)では現在新しく発売する2nd アルバムのレコーディングに取り組んでいることが公表されていたが、15分の長尺曲が存在することも公表されており、おそらくそれがこの曲であると思われる。昨年不思議ロックフェスで披露された新曲はヘヴィネスとスリリングさを増した楽曲であったが、この日初めて公開された新曲は意外な出だしであった。Keyの長谷川さんの静かなピアノ音色と、抒情的で切ないメロディを美しく歌い上げる瀬尾さんの繊細な表現力が光る、まさに引き算の美学である。サックスソロが終わったタイミングで、瀬尾さんが会場に向かって一輪の花束を投げた。受け取った人がうらやましい。
今川さんの泣きのサックスメロディから珍しく川嶋さんのベースソロに引き渡され、静かなパートに移ると瀬尾さんが本のような小道具を取りだした。長めのポエトリーリーディングを行うという挑戦が、曇ヶ原のKey:a_kiraさんと組んでいるJ・Aシーザー楽曲を演奏する企画・天使の聲での舞台を思い出す。抜群の表現力で会場の観客を一気に惹き込んでいく瀬尾さんのパフォーマンスの裏で、二遍として同じフレーズを演奏していない他パートのバック演奏にも注目だ。
切なくドラマティックな大曲の演奏が終わると、最後の音の余韻が空間に消えるのを観客が固唾を飲んで見守る中、ハヤヲさんが「ありがとうございました」と挨拶をすると、会場から割れんばかりの拍手が上がった。まさに、トリを飾るにふさわしい、素晴らしいライブであった。
配信で聴くだけでも、スタジオアルバム、さらに昨年の不思議フェスと比較してどれだけ進化しているかが分かるので、是非生のライブでEvraakを体験してほしいものだ。満を期して12/18に発売される2ndアルバム、そして12/20の曇ヶ原とのジョイントライブと、今後の展開が見逃せない。

まだEvraakのアンコールも聴きたいところだがすでにこの時点で22時を回っていたので、出演陣みんなで写真撮影を行って終幕となった。

少し前になるが、洋楽のレベルが落ちているといった内容がX(旧:Twitter)で話題になっていたが、個人的には逆なのではないかと思う。海外製が落ちているのではなく、日本国内のアーティストが、UK・ユーロ圏で独占していた音楽シーンに肩を並べられるほど、レベルが上がっているのだ。そして、そのようなバンドが、過去の70年代や80年代で終わることなく現在まで存在し、今もなお日々新しいバンドが生まれ続け、2024年にこうして現役で素晴らしいライブを観ることができるのは、まさに日本の誇りである。
プログレファン層の少子高齢化も激しい。このような素晴らしい音楽をプログレファンだけのものにしておくのはもったいないとも個人的に思う。アーティスト自身もプログレにとどまらず、ハードロックヤジャズを聴いたりポップスを聴いたりと、幅広いジャンルの音楽層がそこにあるからこそ、マンネリ化することなく、真にProgressiveな音楽を作れるのだと思う。
興味を持った人は是非とも、9/29いっぱいまで観れる不思議ロックフェスの配信で、プログレの今の音楽シーンを覗いてみてはいかがだろうか。配信が間に合わなかった人は、各バンドそれぞれ今後たくさん豊富で楽しそうなライブ予定を控えているので、興味を持った人はライブに足を運んでみよう。

リンク集・今後のライブ情報:

St.Claire


公式HP:

公式X(旧Twitter:):https://x.com/StClair60064390
2ndアルバム販売リンク:


老人の仕事


公式X(旧Twitter:):https://x.com/workofoldman
アルバム紹介記事:

今後のライブ情報:
"Death Sonic Tokyo"
12.7(土) 東高円寺二万電圧


XOXO EXTREME

公式HP:

公式X(旧Twitter:):https://x.com/xoxo_extreme

アルバム・シングル一覧:

今後のライブ情報:


花園distance

公式HP:

公式X(旧Twitter:):https://x.com/87distance
3rdアルバム紹介記事:

今後のライブ情報:
2024/10/8(火)@下北沢spread "Antistatic Japan Tour"

10/21(月)秋葉原Club Goodman クリス・カトラー、ユミ・ハラ&須藤俊明のトリオツアー OA

※USツアー
10/23(水)San Francisco, Vesuvio Cafe
10/24(木)Sacramento, Golden Bear
10/25(金)Chico, Naked Lounge
10/26(土)San Francisco, The New Farm
10/27(日)Ojai, Woman's Club
10/28(月)Los Angeles, Zebulon


バスクのスポーツ

公式HP:

公式X(旧Twitter:):https://x.com/vsq_sports
2ndアルバム購入リンク:

今後のライブ情報:
Khamaileon 定期公演 vol.1
KONZERTO (mit) "VSQSPORTS"
2024.10.01(Tue)
下北沢Basement bar

MitsuDomoE
2024.11.16(Sat)
秋葉原Club Goodman
OPEN:18:30 / start:19:00
adv:¥3,200 / door:¥3,800

LIVE:
バスクのスポーツ / 曇ヶ原 / henrytennis

TOP BEAT CLUB presents
Instrumental Talking Blues〜The Little Prince〜
2024.11.28(Thu)
TOP BEAT CLUB
OPEN:18:30 / start:19:00
adv:¥3,500 / door:¥4,000 / student:¥2,000(学生証提示) + 1D

LIVE:
バスクのスポーツ / EYRIE / The Hey Song


曇ヶ原

公式HP:

公式X(旧Twitter:):https://x.com/kumorigahara
アルバム一覧:

今後のライブ情報:

11/16(土)「MitsuDomoE」 @秋葉原GOODMAN act)
曇ヶ原 バスクのスポーツ henrytennis

2024/11/23(土) NEW SPORTS SEMINAR vol.17
場所 : 早稲田リネン
開場/開演 : 17:30/18:00
前売/当日 : ¥3000/¥3500 +1drink
曇ヶ原 Domestic Mita Band 烏頭 背前逆族

2024年12月20日(金)
曇ヶ原× Evraak  同時発売記念・合同ライブ
OPEN 18:30 / START 19:00
会場:高円寺HIGH
料金:前売 4,500円 / 当日5,000円

〈出演〉
曇ヶ原
Evraak

〈スペシャルゲスト〉
小嶋りん(XOXO EXTREME)


FNCTR


公式HP:

公式X(旧Twitter:):https://x.com/fnctr_official
2ndアルバム販売ページ:

今後のライブ情報:
10/5(土) DEWEY周年 (京都)
10/20(日) nano (京都)
11/10(日) TBA (京都)


Evraak


公式HP:

Gt ハヤヲさんXアカウント(旧Twitter:):https://x.com/hayawogiken
アルバム紹介記事:

今後のライブ情報:
2024年12月20日(金)
曇ヶ原× Evraak  同時発売記念・合同ライブ
OPEN 18:30 / START 19:00
会場:高円寺HIGH
料金:前売 4,500円 / 当日5,000円

〈出演〉
曇ヶ原
Evraak

〈スペシャルゲスト〉
小嶋りん(XOXO EXTREME)


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