セラムン二次創作小説『千の星になって』


「また、来たのね?」


呆れながらそう呟くのは、セーラーヘヴィメタルパピヨン。この地ーークリスタルを持つセーラー戦士が死に、最期に辿り着く墓地を一人で管理する守人。

その視線の先には、同じくセーラー戦士がいた。一際美しく輝き、光放つ生命力に満ちた麗しく瑞々しい戦士。名をーー


「ここはあなたが来る様な所では無いと、あれ程申し上げているはずです!セーラーコスモス」


ヘヴィメタルパピヨンが呼んだその人は、セーラーコスモス。コスモス・クリスタルを持つ宇宙最強の戦士。

彼女ーーコスモスが幾度と無くここを訪れる理由、それはーー。


「だって、寂しくって」

「はぁ……」


子供っぽい言い訳に、パピヨンは深くため息をつく。

仮にも何億年と生きて、コルドロンを一人で守っているいい大人が言うセリフとは思えない。ワガママに頭が痛くなる。


「貴女のいる場所の方が、華やかでしょう?ここはもっと、寂しい場所よ」


パピヨンの言う通り、コスモスの守る場所は星々が生まれる場所。対してここは、死者を葬る場所。

寂しさで言えば、比ではない。

そんな場所に、寂しさを埋めに来る理由が分からない。


「そんな事無いわ!」

「……何を根拠に?」

「コルドロンは、生まれた星々が去って行く。けれど、ここは蝶々が貴女の元へ集まって来るじゃない。頼って来てる。今も、途切れること無く。でも、コルドロンは……」


幾ら星々が生まれても、頼られる事も無く旅立って行く。それをただただ眺めているだけで、コミュニケーションなど無い。

それが寂しく、悲しいとコスモスは必死で訴える。


「ここだって同じよ」

「そんな事無いわ!」


尚も、コスモスは否定する。


「ここには、愛する人や仲間が眠っているんですもの」

「そう、だったわね……」


ここは宇宙中のセーラー戦士だった星々が眠る場所。

かつてコスモスがセーラームーンだった頃、多くの仲間がいた。その仲間も同じく星を守護に持つセーラー戦士と、タキシード仮面だった。

30世紀で役目を終えた彼女達は宇宙のしきたりにより、蝶々となりてこの地にたどり着く。そして、パピヨンが墓を作り、葬った。

そう、ここにはコスモスの大切なかつての仲間と恋人が眠っている。コスモスには、来る理由がある。来る権利があった。


「貴女が心配しなくても、お墓は綺麗に保っているわ」

「ありがとう、ヘヴィメタルパピヨン。そこは心配していないの。寧ろ信頼しているわ」

「では、何故?」


信頼されていると知り、益々コスモスが訪れる理由が分からずにいた。


「ヴィーナスやタキシード仮面に手を合わせに。会いに来たの」

「そこに彼女達がいないのに?」

「いるわ」

「眠ってなんか、いないわよ」

「魂はきっとあるわ」


寂しそうに、ヴィーナス達の墓を見渡す。

そこには立派な墓が十体、存在していた。

太陽系の戦士は、銀水晶のご加護を受けていて、宇宙最強の戦士であるコスモスの仲間と言う地位から、他の星の戦士たちとは位が違う。

その為、墓は他の星の戦士とは違って立派なものであった。


「そうかも、知れないわね」

「え?」


全否定されていたが、いきなり肯定されたコスモスは戸惑った。


「貴女が供えてる花、ずっと枯れないもの」

「そう、なの?」


コスモスがここを訪れる度に花を供えていた。

自分と同じ名前の花ーー秋桜を一輪ずつ。

自身がここを訪れた証として。


「ええ、貴女が次に訪れるまで綺麗に咲いているわ。無くなったなと思ったらいつも貴女が現れるの。今回もそうよ?無くなったなと思ったら、あなたが訪れた」


つまり、そろそろ来るかなと思ったら貴女の姿が見えたとパピヨンは話す。

コスモスが命を削り、生み出した花だからいつまでも綺麗に咲くのだろう。


「届いて、いるのかな……?」


会いたい。その想いを込めていつもその花を供えていた。


「まだ、生き返らないの?」


そこに墓が存在している事に、コスモスは絶望していた。

コルドロンがある限り、何度だって星は蘇る。そう信じて疑わなかった。

けれど、こんなに長い年月待てど暮らせど仲間たちは蘇らない。

ここに墓が存在するということ。それは即ち、まだヴィーナス達は蘇らないということ。


「どうして?どうして、生き返ってくれないの?私、ずっと待っているのに……」

「セーラーコスモス……」


仲間たちの墓を一つ一つ参りながら、コスモスは静かに涙を流す。そして、絶望する。

その様子を見ていたパピヨンはコスモスの姿に胸を打たれる。

悲しむコスモスに自分がしてやれることは無いのか?と自問自答を繰り返す。

しかし、出来ることはなく、この墓を守ること。ただそれだけしか出来ない。そのもどかしさに悔しくなる。

力になりたいのに、なれない。信頼されているのに音を返すことが出来ない自分に腹が立った。



「ねぇ、ヘヴィメタルパピヨン?」


何分間かの沈黙に、コスモスが突然パピヨンに話しかけてきた。

一人静かに泣き、一人の世界へと入っていたコスモスに話しかけられるとはよそうだにしていなかったパピヨンは驚いた。


「何ですか?」

「貴女、死者の守人でしょ?」

「ええ、そうですが?」

「じゃあ、死者とお喋り出来たり、幽霊って奴が見えたり、しない?」


名案を思い付いた!と言わんばかりにコスモスは先程とは打って変わって楽しそうな表情をして問い掛けてきた。

これは、非常に言いづらい。とパピヨンはたじろいだ。


「非常に申し上げずらいのですが……」


そうパピヨンが言葉を発すると、悟ったコスモスの顔が見る見るうちに曇っていった。


「ダメ……なの?」

「残念ながら……第六感の様な能力は私には持ち合わせていないのです」


仮に持っていたらここで守人をするのは大変だろうとパピヨンは感じた。

死んだ戦士に話しかけられてうるさくてきっと守人を放棄してしまうかもしれない。

頼み事をされたり、戦士同士喧嘩したり。きっと収拾つかないだろう。

パピヨンには歌があるから、歌って死者を鎮めると言うのも一つの手かもしれない。いい観客になってくれるかもしれないとパピヨンは心の中で想像した。


「マーズと同じで火を操る能力があるから、もしやと思ったんだけれど……」

「ああ、そういう事でしたか」


コスモスはパピヨンにマーズを重ねていたのだ。

死者を葬る役目を持つ火を操る戦士。

同じ能力があるのでは無いかと考えていた様だ。実際は、違ったが。


「貴女の力にはなりたいと思っています。ですが、私にも能力の限界があります。ガッカリさせてしまってすみません」

「ううん、良いのよ。私が勝手に期待したのだから」

「貴女の力とロッドがあれば蘇るのでは?」


宇宙最強の戦士の力があれば死者を蘇らせることなど造作もないとパピヨンは考えて閃いた。

しかし、コスモスの顔は曇ったまま。顔は縦ではなく、横に揺れる。


「出来ないの。私だけの意思じゃ……」


出来ない訳では無いが、本来は禁忌。

強引に蘇らせると代償に、彼女は永遠に滅びてしまう運命にあった。

会う為に蘇らせているのに、それでは本末転倒というもの。

こうなるとパピヨンはもう八方塞がりだった。

しかし、何故生命力溢れる彼女がこの場所に来ても死者が蘇らないのか?不思議に思っていたパピヨンだが、訳を知り力をわざと出さずに抑えていたのだと気付いた。


「歌ってあげることは出来ますが、気休めにしかなりませんね」


パピヨンは自分の能力の限界に打ちのめされつつ、歌があることに誇りを持っていた。


「そんな事無いわ。貴女のその歌声、コルドロンまで聴こえて来るの。とっても力強くて、魂が籠っていて、素敵よ」


死者の星があるここは、コルドロンと隣接していてそう遠くは無い。

生と死は隣り合わせ。その為、全てが生まれ、全てが無くなるコルドロン。そして、死に絶えたものが蝶々となり、辿り着くこの地は近い場所に作られていた。

パピヨンの歌声は、いつもコルドロンで守るコスモスにも届いていた。


「聴こえていたのですか?は、恥ずかしい……」

「ふふふ。癒しになっているのよ。勇気を貰ってるの。孤独だけれど、貴女の歌声を聴くと元気が出るし、ひとりじゃないんだって思えるわ。パピヨンも一人で頑張っているんだと思うと、心強いの」

「コスモス……」

「だからね?恥ずかしがらずにこれからもずっと、歌い続けて欲しいんだ。貴女の歌声で救われている人が、ファンがいるってことを、忘れないで欲しいの」

「……ありがとう、コスモス」


自分には歌しかないと思っていたが、こんなに喜んで心待ちにしている人がいた事を知り、パピヨンは胸が熱くなった。

一人、歌い続けて報われた瞬間だった。

そして、何故ここに頻繁にコスモスが来たがるのかも理解出来た気がした。


「歌の事は正直分からないんだけどね?こんな素敵な歌声なんだから、きっと素敵な人なんだろうなって思ったの。死者を葬る場所で、決して楽しくないこの場所で力強く魂を込めて歌っているんですもの。だから、どんな人なんだろうって興味が湧いて、ここに来たの。そしたら、思っていたとおり、とっても素敵な子だった。この場所も、捨てたもんじゃないって感じたわ」


コルドロンで一人孤独にカオスと戦いながら宇宙の平和を守っていたコスモス。

そんな中で、パピヨンの歌が、歌声が心の支えとなり、いつしかパピヨンに興味を持ち、仲良くなりたいと思ってしまった。


「それでご自分の持ち場を離れてこちらへ?」

「ええ、内緒よ?」


コスモスは悪びれた顔をしつつ、右手の人差し指を立てて唇の前にやった。


「ぷっはは、ほんとあなたって人は、仕方ない人ね」


無茶をするコスモスの行動のお陰で、パピヨンも孤独から救われていた。

話し相手が欲しい。とは思っていなかったが、歌うことが好きだった。歌う事で自身を保っていた。

しかし、この行動がコスモスを支え、自分も救われるとは思ってもいなかった。


「これからも歌ってくれる、よね?」

「勿論!喜んで♪」

「これからもここに来て良い、よね?」

「仕方ありませんね」

「これからも仲良くしてくれる、よね?」

「貴女がそれを望むなら」

「ありがとう、パピヨン」


コスモスはその言葉を聞いて少女の様にはしゃぎ、パピヨンに抱き着いた。

強く、強く抱き締めた。


「それじゃあ、パピヨン。お元気で!また、来るわね」


暫く抱きしめていた後、離れたコスモスは笑顔を向け、踵を返した。


「貴女も頑張って」


コスモスの戦いは終わらない。

カオスと戦う場所ーーコルドロンへと戻る彼女の後ろ姿を見送りながらパピヨンはエールを送る。


「恋人と仲間のお墓は、私に任せて!貴女が来るまで又、大切に守っておくから」


コスモスの姿はやがて見えなくなってしまった。

ふとコスモスの参っていたお墓を見回すと、又綺麗な花ーー秋桜が一輪ずつ供えてあった。


「宇宙最強の戦士、セーラーコスモスか。不思議な人ね」


この場所を離れる事は禁忌で出来ないが、歌い続けようとコスモスが消えた方向を見ながらパピヨンは心に誓った。

供えられた秋桜は、次にセーラーコスモスがこの地に訪れるまで枯れることはなく、綺麗に咲き誇っていた。





おわり

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