第4話 『少女の物語の開幕〜勇者の幼馴染は小説家になりたい〜』
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♢
「こっちが町だぞ♡」
「メリル……お前多分……これから先ずっと……その語尾になると思うぞ」
「それがいいそれがいい。似合ってる」
「どういう意味だお前♡」
シャーロットと5人は町へ向かって歩き始めた。
すっかり語尾が今までずっとそれだったかのように馴染んでいるメリル。そのことをティオが指摘すると、それにロビーが悪ふざけで乗っかり、わははと笑う。
シャーロットの隣でぺらぺらと喋っていたメリルだったが、悪ふざけをしてきたロビーの隣に行って、肩を小突いた。
ロビーもそれにやり返し、さらにメリルがやり返し……とまるで5歳のような喧嘩が始まった。
呆れたようにそれを見たデイビッドとティオ、スウェンが代わりにシャーロットの近くへと集まってきた。
デイビッドは暑がりらしく、しきりに汗を拭いている。今は初夏であり、少し蒸し暑い。
ティオは、初夏だというのに漂う雰囲気は陰鬱でじめじめとしている。しかしティオによると、その雰囲気は普通にしていると勝手に出てきてしまうものらしい。今は……テンションが……高い……と矛盾して聞こえるようなことを言っていた。
スウェンはこれまで一度も喋っていないが、わりと良く見るとわかるようになってきた、とシャーロットは思う。
まるで仲間のようだ、と考えて、実際に仲間なのだと嬉しくなった。
「一生こんな語尾だったら婿に行けないだろ♡」
「ノリノリで言ってるらへんがもう手遅れだぞ」
「えー♡じゃあロビーと結婚しよ♡」
「メリル知らないのか?男性同士の結婚は隣の国じゃないと出来ないんだぞ。お前バカだな!」
「ロビーにだけは1番言われたくねぇ♡!バカのくせに♡!」
「なんだとメリル!言っとくけど俺バレンタインの件許してないからな!」
「いきなり話題変わるところがバカ♡!人の話聞かずにそういえばよって話題変えるのやめろ♡!せめてなにか言え♡ちなみにバレンタインのはマジで面白かったので反省はしてねぇ♡」
「あーいいのかなー、俺シャーロットちゃんに俺の誕生日の時にメリルがやってた大失敗言っちゃおうかなー」
「マジでやめろマジで♡」
少し無言になると、後ろではしゃいでいるメリルとロビーの会話がはっきりと聞こえた。
呆れたという感じで二人を見たデイビッドが、シャーロットへと話しかける。
「あれがメリルとロビーの通常運転だ。ほっとくといつもあれだ」
「そうだな……いつも……あの二人は……ああいう風に……言い合っている」
「そうなんですね!…ちなみにロビーの言う大失敗とは何の事か知ってます?」
「いろいろ……あったからな……詳しいことは……後でロビーにでも……聞いてくれ……」
「ティオの言う通り色々やっててな。直近だとパイを顔にぶつけようとして滑ってスウェンの顔に直撃した。……怖かったぞ」
「そうだ……スウェンは……怒らせると……怖い」
少し身震いをさせた2人に、スウェンは心外だという顔をして頬を膨らませた。どうやら身内相手だとかなり表情が豊からしい。
この様子なら、シャーロットも身内と思ってもらえているのだろう。
「スウェン、わたし、あなたからも話が聞きたいんですが?怒った時のこととか」
「(無理無理)」
さっきまではメリルの大失敗について意識が傾いていたが、ティオとデイビットの発言で、シャーロットの矛先がスウェンに向いた。
スウェンは、首をぶんぶん横に振って無理だと表現している。
メリルとロビーのあの二人の空間に突入していく勇気がシャーロットには……いやあるにはある。あるが、それよりも今はスウェンに対して興味が向いたらしい。
「普段、どうやって協力しあってるんですか?」
「そうだな……長いこと一緒にいると……わりと分かるようになって……表情で、だいたい……何を言いたいのか……分かる」
「俺はそういうの分からんから、サムズアップかダウンで判断してるぞ!……怒ってる時はさすがに何を言いたいのか分かるが」
じろ、とスウェンに睨みつけられ、まるで熊のような巨体を縮こませたデイビッド。怒ると怖い、ということを言うとどうやらスウェンは怒るらしい。
いつか見てみたい、と手元のメモにがりがりと書き込んだ。
そのメモを覗き込んで、スウェンはえぇーという顔をした。
♢
「ちょっと待って緊張してきた♡やっぱもう少しその辺うろうろ…♡」
「こっここまで来て逃げる訳にはいかねぇ…!」
「うぅ……いざ……ここに……来ると……」
「(ブルブル)」
半日歩き続け、ようやく辿り着いた、5人が元々いた街。シャーロットはあまり村の外に出る機会が無かったので、城壁にわぁー…と惚けている。
しかしメリル達指名手配されている身としては、自分の足でここに来るのは恐ろしいのだろう、ガクブルと震えている。
震えていないのは……
「何震えてんだ4人」
「デイビッドは肝が据わってますね」
「死ぬわけじゃないだろ」
デイビッドぐらいである。
性知識の圧倒的な足りてなさ、純粋さが目立っていたデイビッドだが、盗賊であった時に力自慢として最前線で活躍していたこともあり、かなり肝が据わっていた。
そのアンバランスさが良い、とうんうん頷いているシャーロットに、呆れた目をデイビッドは向けてくる。
「大体墨入れられようと牢屋に入れられようとシャーロットが雇ってくれるんだから、何を心配してんだ?」
不思議そうに首を傾げたデイビッドに、はぁあ!?と逆ギレしながら3人は詰め寄っていく。
「墨入れられるのも牢屋に入るのも怖いんだよ♡絶対痛いだろ…♡」
「♡が…ついていると…そうは…聞こえないな…」
「牢屋に入って一生出られなかったらどうすんだよ!終身刑とか!」
「ロビーはやっぱバカだろ♡盗賊全員終身刑にしてたら人が足りねえよバーカ♡」
「バカって言った方がバカだからメリルがバカだぞ!」
「やめろ5歳児…メリルも…すぐ…ロビーのバカを…からかいに行くな…」
「おいティオ誰が5歳だって!?誰がバカだって!?」
「……やっぱり……そういうのは…メリルに…やってくれ……面倒くさい」
デイビッドに突っかかる形だったのが、メリルがすぐにロビーの方へと矛先を変えたため、いつも通りの感じになった。
「ほら行きますよ」
「やっぱもうちょっと待って♡!待って♡!」
「あと5分!あと5分だけくれ…!」
「そ…そんなに…急がなくても…」
「(コクコク)」
「今でも後でも一緒だろ…」
結局1時間イヤイヤと駄々をこね、それに呆れきったデイビッドがスウェンとティオを担いだ。シャーロットがロビーとメリルを担ごうとすると、歩きます!歩きますから!と拒否された。
ちなみに担がれているスウェンの顔が、むすっとしてきたのを感じ取ったのか、デイビッドの顔色が少し悪くなった。
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