コーヒーの苦味が、おいしくなるとき

「カプチーノ、ください」
カフェでカプチーノをオーダーするとき、私には、記憶から引っ張り出して思い出してしまう景色がある。それは、地球の反対側のオーストラリアに住む、血の繋がらないおばあちゃん、ジュディと、初めてコーヒーを飲みに行った日のことだ。

今では、自分のどこにそんな勇気が眠っていたのだろう? と不思議に思うけれど、10年前、若くて怖いもの知らずだった私は、1年間、高校生の身分でオーストラリアへ単身留学をしていた。
ジュディは、そのときにホームステイをさせてもらった家族のおばあちゃんで、普段は別の場所に住んでいたものの、親戚の集まりで会うたび、可愛がってくれた。
コームで整えられた金髪のほそい髪、手入れされたネイル、アイロンがかかったシャツ……丁寧な暮らしをぎゅっと詰めたみたいな身なりをした人で、ハグすると、陽だまりのような淡い洗剤の香りがして、鼻の奥がキュンとなった。

当時、私の留学生活はかなり不調だった。好奇心だけをカバンに詰め、勢いよく飛び立ったものの、ネイティブの話すスピードについて行くことがまるでできなかった。

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