日記 与えて働く
朝はまだ日の出の前、早朝に目が覚めた。
目が開き、天井が見えて、手や足が動くことを確認する。
「今日も目が見える。体が動く。早くに目覚めさせていただいた。ありがとうございます」
一日のスタートに、十二下りの手踊りをつとめた。
つとめ終えると、心が陽気な勇み心で充満した。今日一日頑張れるだろうかとか、成果が上がらなかったらどうしようとか、傷つく思いをしたくないというような、憂鬱で不安な思いが消し飛んだ。そういったものは、自分の"よく"や"ほしい"の心から来ているように思う。楽に、安全に、しんどい思いをせず、いい結果を得たい、という心。十二下りをつとめると、小一時間かけて、"ほしい"ではなく、こちら側から"与える"心に切り替わるような感覚があった。
「かしもの、かりもの」右足、左足と、一歩ずつ唱えながら歩みを進めた。
朝一から昼過ぎまで、集中して働いた。働いて働いて働いて働いた。
「会う人会う人に"与えられるように"」
目を見て、元気よく挨拶を心がけた。
軽く昼休憩、また与えることを意識して働く。
飲食店で忙しそうにして目が合わない店員に、気持ちよく挨拶をしてできるだけ与えた。前から自転車を漕いできて、狭い道で少し止まってくれていた人に与えた。警戒心が強く怪訝な顔をしている人に、関係なくこちらから与えた。初対面でも愛想よく受け答えしてくれた人にこちらも与えた。必死のスピードで走っていくタクシーの運転手に与えた。玄関先で慌ただしく戸を閉める人に与えた。一時停止で止まってこっちが行くのを待ってくれている車の運転手に与えた。コーヒー屋の元気な店員に与えた。表情をいっさい変えないおじさんに与えた。なにか焦ってるのか顔がひきつっているご婦人に与えた。横断歩道を注意深くわたっている老婦人に与えた。自転車を勢いよくこいでいく小学生に与えた。調子のいいムードメーカーな店員に与えた。外国人と間違えて英語で話しかけてくる店員に与えた。疲れた顔した愛想ないコンビニ店員に与えた。エレベーターで一緒になった人に与えた。
目の前に集中して働いていて、一日も終盤、そこそこの成果ができていることに気がついた。
「こんなにたくさん出来ていたのか」
帰路に着いて、神前で手を合わせた。
「今日も一日、人様のために精一杯やらせていただきました。何か間違ったところがあればすみません。ただ、自分としては精一杯、神一条に通りきらしていただきました。ありがとうございました」
眠りにつく前に、一日を振り返った。
「今日も一日、結構に身体を使わせていただけた。ありがとうございました。
また明日も朝起きさせていただけますように」