シャルウィDANCE?自粛期間後、ミュージシャンが社交ダンスを習い始めてみました
「アコーディオンの音色は人を幸せにする」と信じている安西はぢめです。アコーディオンという楽器を弾いていると、取り上げる曲の殆どがなんらかの「踊り」と密接な関係がある事に気づきます。ヨーロッパへ行った時に何度もアコーディオンで踊り出す人々を目にして来ました。けれども「踊れるアコーディオニスト」というのは聞いたことがありませんでした。そこで習いに行ってみました。そんなお話しです。
【老いも若きもアコーディオンに合わせて踊るパリの街角。安西はぢめ2016年撮影】
踊りを習いに言ってみよう!さて、どんなダンスを選ぼうか
まず、踊りを習いに行ってみようと考えたことが日常生活で全くなかったので(当たり前といえば当たり前か)、そもそもどんな踊りがあるのか考えるところから始めました。小学生の時のフォークダンスや、そうそう、アコーディオンを弾きながら踏めたらカッコ良いかも!と思って20年ほど前にタップダンスに通ったこともありましたけれど、今回はちょっとしっくりこない(そもそもタップダンスは基本的に爪先立ち。重たいアコーディオンを抱えて爪先立っているのも大変ですが、ホップと言って跳ねる動作をしてしまうと音が揺れてしまってあまり実用的ではありませんでした)
そこで辿り着いたのがいわゆる「社交ダンス」でした。ペアで組んでワルツ、タンゴ、ジルバ、パソドブレ、フォックストロット、ルンバ、チャチャチャ…などなど様々なリズムに合わせて踊ります。私が弾いているパリの下街ダンス音楽「ミュゼット」はこれらをアコーディオンで弾くのですからうってつけです。調べてみると近所の公民館のサークルから星の数ほどあるダンス教室に至るまで愛好者が全国にたくさんいることが分かりました。そして様々なスタイルがあることも初めて知りました。
【街角のアコーディオンに合わせて雪の中でも踊る人々。パリ2013冬。安西撮影】
私は知り合いの紹介で、彼が以前通っていた渋谷のスタジオに通うことを選び、オリエンテーションを受けに行きました。JSDCというスタジオです。
スタジオの説明会へ行ってみた!
毎月開催される説明会に行くと、代表のヨシ矢野先生が色々と説明したり質問に答えてくれまして「なるほどなるほど!きっと貴方の音楽にもプラスになると思いますよ。恐らくあれこれ考えるより、始めてみた方が早いと思いますよ」とおっしゃって、そもそも「まずやってみよう」派の私はすぐ次の週から参加することにしました。こちらのスタジオは入会金も要らないし、最初はシューズがなくても上履きならなんでも良く、ふらりと気軽に通える雰囲気が魅力でした(しかも最初の1ヶ月、入門クラス通い放題のチケットがあるので、私は時間が許す限り通い詰めました。振り返るとこれはとても良いチョイスだったと思います)
さて、普段の暮らしで踊ることが一切ない私ですが、決まったクラスに毎週出掛けて行くことは、自粛生活から抜け出したい私にとって暮らしにリズムを与えてくれる第一のエクササイズになりました。それはそれはもう、体力が驚くほど低下していて、例えば電車に乗ってスタジオへ行くことがちょっとしたハードルでした。重たいアコーディオンを背負って毎日のようにあちらこちらへ仕事で出向いていた頃と今は暮らしそのものに加えて身体も変化してしまったのですね。いやはや。
習い始めてみた!(案ずるより生むが易し)
さて、クラスはストレッチに始まり、まっすぐ歩いたりまっすぐ後ろに下がって歩いたりという基本動作からスタート。ゼロからスタートの私にも優しいクラスです。学校の体育やスポーツ界隈に根深い苦手意識とコンプレックスを持つ私には嬉しいことでした。
そして、1時間のレッスンを前後半分に分けてモダンとラテンから一種類ずつ練習します。パートナーチェンジをして踊らせて頂くと(当たり前ながら)「一人で踊るのではない」ことを再認識させられます。歩幅も構えも違います。
私はまず主にリーダー(以前は有無を言わせず「男性・女性」と言っていたようですが、今ではペアダンス上の役割に応じて「リーダー・フォロワー」と呼ぶ流れが一般的になって来たようです)のポジションからお勉強をさせていただいておりますが。そのお相手に「次は回りますよー」とか「ここで90度曲がりましょう」などとリーダーがサインを出してフォロワーさんにお伝えするものだというのは初めて知りました。何事も実際にやってみる事は大切ですね。
そして何よりも一番の収穫は、自分の演奏が劇的に変わったという事です!(当社比)実際に踊ってみると、いかに自分の弾いていたテンポが「なんとなく」だったのかと思い知らされます。特にペアを組んで踊ってみるとなると、全般的に早過ぎたように思います。パリのアコーディオンの先生が「レストランで弾いているような時にお客さんが踊り出したら、テンポを落として弾くのよ」と言っていたのはこれだったのか!」と目からウロコでした。市販されている「ムードミュージック全集」的なもの、またキャバレー全盛期のフロアへ本人がキャンペーンして回っていた昭和の歌謡曲の数々は「ずいぶんテンポがゆったりしているな」と思っていましたが、それにも納得がいきます。
当時、多くの歌手がキャバレーで人気を博してから全国区の芸能界で活躍したり、キャンペーンで各地のキャバレーを回っていた事を考えると、ダンスを念頭においた曲作りをしていたのかもしれない事に思いを馳せると、より一層納得が行くコンビネーションです。ヒット曲の本人が来てその歌唱でご当地ソングでダンスを踊る…なんかその頃の「文化」というかある種の「ロマン」を感じます。特に「○○ブルース」というタイトル曲が多かったのも、その歌詞の内容について考えることも、キャバレーで踊ることを前提に考えればより一層のヒットが想像できるところに「旧き佳き時代」を感じます。
競技ダンス?社交ダンス?
実は学生時代、競技ダンスに打ち込んだ従姉妹がいるので、以前あれこれと根掘り葉掘り聞いてみた事があるのですが、彼女は試合に出る事を前提とした「体育会系」の練習に明け暮れていたそうです。それは私がヨーロッパで度々目にして来た、生演奏を聴いているうちに、それに合わせて「踊りたくなったから自然と踊りたくなっちゃった」というような「ゆるい」ものとは相反するように感じられるお話しでした。はたまたParty DancingとかSocial Dancing、はたまたBallroom Dancingで私が連想するそれは、その場でご一緒した方をお誘いして一曲お相手いただくような感じでもあって、大きく違います。今回私が縁あって通っているスタジオは運よく「アメリカンスムース」というスタイルだそうで、リーダーフォロワーがコミュニケーションを取りつつその場でお互いが知っているステップを出し合って踊るというもの。振り付けが決まっている訳でなく、流れている音楽に合わせて、組んでくださるお相手と一期一会という訳です。これは深い。私は遂にダンスシューズを買ってしまいました。しかも2足。
そんな訳で、音楽に携わっている人は書物や古い録音の中ばかりに答えを探さずに、踊りの中にそれらを求めていくことは大切だなと思い知ったこの頃です。新型感染症で仕事が殆ど吹っ飛んでしまった2020年でしたが、とても大きな学びを得られたという個人的なお話しでした。