目指すのは楽しい「中国音楽の小学校」
国交回復50周年を迎えた日中関係。
私が中国音楽を学び始めた32年前に比べて、日本でも二胡を始めとする中国の民族楽器を学んだり、中国音楽に親しむ人が格段に増えた事を実感します。そして、それはとても素晴らしい事だと思うので、私のお教室「創樂社」ならびに湯島聖堂中国音楽入門のクラスは「中国音楽の小学校」をコンセプトに、他にはない独自の取り組みをしてみようと思っています。
創樂社公式ホームページ↓
多くの教室では特定の楽器を「独奏楽器」として楽しんだり、研鑽する事を目的にしていますが、中国音楽でとても楽しい事の一つが「合奏」です。有り難いことに、私が学んだ東京琴社絲竹班では、入門して二胡がある程度弾けるようになると他の楽器(揚琴や琵琶、中阮、また管楽器なら笛子や洞簫、打楽器など)に触れる機会が極く自然にある環境でした。逆に例えば笛で入門した人も、二胡と合わせたり、古箏と合わせたりという事が当たり前の、今思うととても贅沢な環境でした。そしてその原体験は今も私の中に生きていて、とても大切な財産となっています。
中国は歴史が長い上に、国土が広く(日本の25倍!)、様々な民族が住んでいるばかりか、同じ漢民族でも地域によって行う音楽に大きな差異があります。そして絲竹楽(「絲=弦楽器」と「竹=管楽器」のアンサンブル。代表的な物に江南絲竹楽や広東音楽、福建南曲、客家漢楽など)、吹打楽(文字通り「吹=管楽器」と「打=打楽器」のアンサンブル。一般的に華北に多いイメージが強いが南の広東省に至るまで全国にたくさんの種類がある)それから戯曲(お芝居の進行を司る不可分の伴奏音楽。京劇や越劇、崑劇、粤劇などに付随して発展した音楽のこと。曲牌を取り出して「崑曲」「粤曲」などと呼んで鑑賞するものもあります)曲芸(音曲の事。四川琴書や蘇州評談など楽器伴奏を伴った語り物など)もありますから、その大海原の広さにはワクワクもしますが、果てしなさにクラクラもします。
先ほども述べたように、日本の中国音楽教室は一般的に「二胡を習いたい」とか「琵琶を弾きたい」などと動機を持った方がそれぞれの先生の門を叩き、楽器の独奏を習得する事を目的にしています。けれども幸いな事に、私がたまたま入門した故坂田進一先生の門下では二胡は数ある中国の民間楽器の一つに過ぎず、他にも美しい音色の楽器がたくさんある事を知る事が出来ました。もちろん先生がどの楽器にも等しく精通しているかというとそうではなくて、得意不得意があったりしたわけですが、それでも独奏曲を何曲かは修めて合奏には問題ないくらいの習熟度には達していたので、改めて凄い事だと思います。そんな先生が生前「オレは小学校の先生みたいなもんだ。専門以外にも一人で全部の教科を教えている」とおっしゃっていました。それをふと思い出し、師にはなかなか及びませんが、私も師匠に倣って「中国音楽の小学校」と銘打って、万一傑出した生徒が育った暁の専門的な教育は、他の先生にお任せする事にして、まずは私が知っている事を幅広く興味を持ってもらえるように講義して行く事にします。
特に各地に様々なスタイルが存在するジャンルとしての合奏音楽(現代になって作られた民族楽器アンサンブルとは違うカテゴリーのもの)は、民間音楽の重要なコンテンツにもかかわらず、残念ながら日本では殆ど触れられる事がありません。これは実に残念な事で、現代曲のモチーフや楽器そのものの発生、また「らしさ」ともいうべき演奏のニュアンスの原点「ゆりかご」または「故郷」である各種合奏音楽やそこに使われる楽器類などにも焦点を当てて講義をしていきます。その中で「二胡より笛が好き」とか「琵琶をやってみたい」とか「お箏の方がしっくりくる」なんて人が出てきたら面白いし、そういう生徒がいて当然だろうとも思います。繰り返しになりますが、日本では主に各地の有名な旋律や東西の名曲をアレンジしたもの、そして近現代の独奏曲を学ぶ機会が多いと思います。また、オーケストラに倣って二胡がフロントに並んだ民族楽器によるアンサンブルもよく見かけます。けれどもいずれも、あまり中国各地に根差している特定の合奏音楽に傾倒している訳ではないようです。
そこで、私のクラスは楽しく幅広い知識を増やしたり、中国音楽(主に漢民族)の深く豊かな世界に触れるという意味において、小学校のような役割を果たせたら良いなと思っています。専門的な知識や技術を掘り下げたい人は、中学や高校、専門学校や大学に進むように「進学」すれば良いし、その手助けをしたいと思います(私の知っているそれぞれの分野の専門の先生をご紹介して、その向学心をサポートしたいと思います)
ちょっと変わった教室・レッスンですが、柔軟な好奇心があって中国音楽を多角的に楽しんでみたい熱心な人が集まる事を期待しています。新入生随時募集中。お気軽にお問い合わせください。
中国音楽教室「創樂社」主宰
東京琴社絲竹班「進韻會」世話人
国史蹟 湯島聖堂芸術講座「中国音楽入門」講師
安西創(あんざい はじめ)
いつも温かいサポートをどうもありがとうございます。お陰様で音楽活動を続けられます!