𝐀𝐧𝐳𝐚𝐤𝐢 𝐔𝐦𝐢 / 君のドア

おかえりなさい。

やっと辿り着いたね。
ずっと君を待っていたよ。

ほら、そこのふかふかの椅子に座って。
君のための温かい飲み物を準備しよう。

ん？どうしたの？
あぁ、今君が思ってることが分かるよ。
だってそこら中に書いてあるからね。

分かるよ。それでいいんだ。
よくその気持ちを味わって。

君はこの空間にすぐ慣れるし、
今しか味わえないのだからね。

さぁ、美味しい食べ物も準備してある。焼きたてのいい香りだろう。遠慮はいらない、全て君のために用意したんだ。好きなだけ食べるといい。

このふかふかの椅子は気持ちいいだろう。凄くリラックスできるし、お気に入りなんだ。君も同じだと思う。

あ、紹介を忘れていたね。Umi って呼んで。
この特別な空間を守っているんだ。

ん？ここはどこだって？君はここを知っているよ。懐かしいはずさ、今は思い出せないかもしれないけどね。そして、何度も訪れている。忘れているが、覚えている。

ふふ、まだピンと来ていないようだね。大丈夫、直に分かる。選択は君次第。もちろん分からないままでもいいと思うけどね。ともかく、この空間を楽しむことだよ。ここもまた君の通過点の１つでしかないのだから。

ほら、これ いい香りだろう。一緒に食べよう。全部香りが違うんだよ。君好みの香りはどれ？香りだけじゃなくて味もばっちりさ。ね、美味しいだろう。口いっぱいに広がる。ふふ、顔がほころんだ、いい顔するね。飲み物と合わせても最高なんだ。ほら、温かくて全身が緩んできた。そのまま椅子に深く沈み込んでみて。最高だろう。

ほら、そこから見える景色が綺麗だよ。君だけの景色だ。実を言うと、君に見えている景色はUmiの見えている景色とは違うんだ。この空間の特性で、君の状態で見える景色の深みが変わるらしい。君の景色はどんな景色かな。Umiが見えている景色はね、海の底から月をみあげて、星や雲の精霊が海の中を踊っているよ。魚たちも群れをなして銀に閃いている。とっても綺麗だなぁ。きっと君が来てくれて嬉しいから、こんなに素敵な景色が見られるんだよ。ありがとう。

Umiと同じ景色を見てみたいって？もちろんだよ。その為には、ただ手を繋いで同じ方向を見るだけでいいんだよ。簡単でしょう。でも、ずっと見るには、ただ手を繋ぐだけじゃなくて、優しい気持ちで寄り添い続ける心が必要なんだ。それが続く限りずっと見れられる。君なら持ってるから大丈夫だね。

ほら、手を繋ごう。ふふ、少し緊張してる？大丈夫だよ、Umiが手を温めてあげる。ほら、見て。息を呑むほどに、凄く綺麗な景色でしょう。ねぇ、月が綺麗だね。星達も魚達も輝いてUmi達のことを喜んでいる。ふふ、雲達は踊ってるね。これが君が見たいと願った景色だよ。君が見せてくれた景色だよ。Umiと一緒に見てくれてありがとう。　

あぁ、もっと一緒に過ごしたかったけれど、終わりのドアが近付いてきた。君はまた元の世界に戻らないといけない。ここで味わった気持ちを忘れないで。もし忘れても、Umiが覚えているよ。そしてまたいつか君がこのドアをくぐり抜けたら思い出させてあげる。だから、安心してね。

大丈夫、離れていても、見えていなくても、　いつもこのドアは君の近くにあるよ。今日、Umiに会いに来てくれたから、きっとまた会えるよ。また君がこのドアをくぐる日を楽しみにずっとここで待っているね。

今日はここにキスをさせてね。
星の欠片とともに。

それじゃあ、またね。
いってらっしゃい。