恋のし始め


Aとは、その後もメールとメッセージを通して、頻繁にやり取りをしていた。

彼はほんとうにものすごく忙しいようで、気が付くとインドにいたり、アメリカにいたり、と世界中を駆け回っているようだった。

彼のFacebookでも、行く先々で忙しそうにしていたりしているのが分かった。


一方の私も、仕事が重なって忙しい時期になっていて、ほとんどの週末が仕事に追われていた。

でもAと会ってからは、既に友人になっている男性たちとのやり取り以外の、デート候補の発掘作業を止めていた。

何となく、Aが気になっていた。


メールやメッセージでも感じていたが、Aと実際に話してみてから、本当に頭がいいというのはこういう人なんだな、と言うのを感じていた。

真面目な話題はもちろん、馬鹿なジョークでも選んだ言葉が面白かった。

絶妙な間合いで入ってくる切れ味の良い話し方や、興味深くて面白い話題が次々とでてくるところ。

変にかしこまらなくて、リラックスして、二人で大笑いできるところ。

顔のタイプも、彫りが深い南国系を思わせる感じで、低い声が好みだった。


たった一度しか会ってないのに、Aを意識するようになってしまっていた。

もしかしたら、これが恋をするということかも、と思い始めた。

ただ、久しぶりだったのでどうこれから進んで行けばいいのか、なんだか戸惑っていた。


そんなこんなで、初めて会って以降、1か月近くAとは会えなかった。

Aはしょっちゅうメールやメッセージを送ってくれて、「次に会う時は、何を食べよう?」と次を楽しみにしてくれているようだった。

でも、なかなかお互いに時間が合わないことが重なっていた。

珍しくちょっと四国まで出張に出ている時に、Aから電話が入った。

「今どこにいるの?今日は午後から時間がデキそうなんだけど・・・」

Aも出張から帰ってきたばかりだったようだ。

「私はまだ出張中なんだけど、今日の夕方に羽田に着くよ。」

「そっか・・・」

私はすごくAに会いたかった。

「・・・良ければ、夜の7時ぐらいから会わない?羽田から直行するよ。」

「ほんと?多分5時ぐらいまでは会社にいるから、駅まで来れる?」

「OK。じゃあ、また羽田に着いたら連絡するね。」


Aからの電話があったのはちょうどお昼頃だった。

実は、滅多に出張に出ないので、のんびり観光でもして帰ろうと思って帰りは8時にしてあったが、なんとか空いていた5時の便に変更した。

羽田についてまっすぐ、約束していた駅へ向かった。

スーツケースを持ったままだったが、とりあえず目についたコインロッカーに預けた。

待ち合わせのバーに行くと、既にAはそこにいたが、携帯電話で忙しく話している最中だった。

目が合って、目配せをされ、テラス席に移った。

Aがなんとか無理やり電話を切ったらしく、やっと話せた。

「おかえり!疲れてない?・・・ごめんね、急遽仕事の電話で。」

「忙しいの?今日はちょっと無理したんじゃない?」

「君の方こそ、出張帰りにまっすぐこっちに来たんだから、疲れてない?」

気遣ってくれるのが嬉しかった。

取りあえず、ビールとおつまみを頼んで、お互いの近況報告をし合った。

彼は物凄く忙しい時期だったらしい。

「なんだか色々重なっちゃって。。。」

「そっか、頑張ってたんだね。私はたまたまこっちにいたけど、ほんと今日だけたまたま、ちょっと遠くに出張だったんだよね。」

「俺、四国って行ったことないんだよね~。どんなとこなの?」

「インドもアメリカも行っているのに、四国に行ったことないの?(笑)」

「旅行なんて、最近は仕事でしか行ってないからね…。」

ちょっとだけ撮った写真を見せると、興味津々だった。

「...次は絶対行きたいなあ。ガイドしてよね(笑)」

話している最中にも、また仕事の電話が入ってしまい、私の手を握りながら電話で話していた。


Aに、すごく惹かれていた。

愛人を探しているとかではなく、素直に恋をしている感じになってきた。



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