あの子の彼氏になりたかった
"愛ちゃん(私)て、なんとなく男っぽいっていうか……もしかして男と女両方いけたりする人?"
昨年とあるバーで顔見知りの男性に言われた言葉。表面上は軽く受け流したが、だったらなんなんだ?という疑問が心の中に浮かんだ。男性は続ける。
"ちなみに俺は男に触られるのが昔から苦手でさ。美容室でも必ず女性を指名しているんだよね。"
言えなかった。異性愛者に擬態してる人達を含めると、世間にセクマイがどれだけいるかということを。いわゆるセクマイ・LGBTと言われる人たちは、左利きの人の割合や、AB型の人の割合と同じであると言われている。大体10人に1人。確かに少数派ではあるが、クラスでいうと3〜4人くらいはいるという計算になる。
そしてこのような思想を持った人に言われる、セクシャルマイノリティなのか?という質問、そして男っぽいという言葉は、侮蔑以外の何物でもないと強く感じた。
勇気が出なくて、ファッションLGBTと思われるのが嫌で、今までごく一部の友人にしか言ってなかったことだけれど、私はバイである。
人生で初めて告白をした人は女の子だった。高校一年生のときで、相手は中学時代の同級生だ。真面目に書こうと思ったらいくつもの記事に渡る大巨編になりそうなのでかいつまんで書く。
生まれてから15年間、自分は異性愛者であると信じて疑わなかったから、この気持ちが恋であると気づくまでにかなり時間がかかってしまった。そして、恋だと気づいたときにはもう手遅れで、自覚したのとほぼ同時に、後先も考えずに、友達としての好き以上に恋愛対象として好きになっている旨を伝えてしまった。あの時ほど心臓が爆発しそうだったことはない。
あの子は思いのほか真剣に受け止めてくれて、恋人としては見れないけど友達としては大好きだし純粋に嬉しいと言ってくれた。嫌われて縁を切られても仕方ないと思っていたから、安堵感から家に帰って死ぬほど泣いた。
同性愛にはかなり理解がある子だった。おまけに、大好きな友人が喜んでくれるならできることはなんでもすると言ってくれた。私はそれに甘えた。セックスこそしなかったけれど、その二歩くらい手前まで。他にもラブラブなメールを毎日のように送りあったり、イベントごとにプレゼントも交換した、実質ほぼ恋人だった。肌が触れあうだけで顔が熱くなって、ドキドキする。青春だ。リア充だ。私は幸せな毎日を過ごしていた。
あと何経由か知らんが、完全に母親にも勘付かれていた気がする。
"あんた、まさか女の子が恋愛対象とかじゃないよね?気持ち悪いからやめてね。昔私が勤めてた会社にもいたのよ、レズビアン(以下略)"
まさか、と一言だけ返した。なんて時代遅れなんだろう。こういう人が世間にいるのは知っていたが、私の母親もそうだったとは。腹が立ったが、自分は幸せだからそれでよかった。
ある日、あの子は言った。
"愛ちゃんが男だったら二つ返事で彼女になってたんだけどなー。"
全然嬉しくなかった。どんなに大好きと言われようとも言おうとも、やっぱり本当の恋人になれる日は来なかった。
諦める決定打となったのが、最初の告白から一年以上経過した、高校二年生の夏のこと。最近知り合った男の子に告白されて、保留にしたけどどうしようとあの子から相談を持ちかけられた時だ。
いやいやいや、待て。
一年以上の間、一日も欠かさず毎日ラブラブなメール送り合って学校が違っても犬の散歩がてら夜な夜な会いに行ってイチャイチャしたり休みの日は図書館で一緒に勉強したりしてたこの私が?あなたは特別な存在だと言わしめたこの私が負けた?そんなぽっと出の男に?
どうしようもない絶望感に苛まれた。付き合ってもいないくせに、堂々と浮気されてるみたいな気分だった。やっぱり一生かかっても越えられない壁なんだって気付かされた。また家で1人で泣いた。
結局、そうこうしているうちに、そのぽっと出の男はあの子ではない女の子とお付き合いを始めたらしい。あの子は、ぽっと出の男のことを好きになりかけていたようで、ショックだと泣いていた。そんなに簡単に心変わりするようなヤツに、ぽっと出の分際であの子を泣かせるようなヤツに負けたという事実に、私も情けなくなった。
私の心にはぽっかりと大きな穴が空き、無気力状態になった。考えあぐねて出した結論は、もうこれっきりにしよう。ということ。
私はあの子に、あなたを好きでいることを諦めるから、普通の友達に戻ろうと伝えた。あの子は、寂しいこと言わないでほしいって驚いていたけど、どうやったって私があなたの気持ちに応えられる日は来ないならあなたが苦しいだけだからどうこう言える筋合いはないよね。って納得してくれた。
平日の朝っぱらからこんな別れ話じみたことをするなんて愚の骨頂だったなぁ〜なんて思いながら目真っ赤に腫らして号泣しながら自転車漕いで登校した。iPodに入っている失恋ソングを片っ端から聴いた。
それからも毎日毎日家で泣いていて、立ち直るまでにどれくらいの時間を要したんだっけ。
でもあの経験がなければ、私は今も何も考えることなく純粋に異性愛者として生きていただろう。
そして、もし友達から同様のカミングアウトをされたら結構動揺していただろう。
私は同性愛者ではなく両性愛者だ。つまり男の人も好きになることができる。それならば、逃げればいい。女の子を好きになるのはあの子が最初で最後にしようと思った。
しかし、どうやって女の子に恋しないようにする?これ、実は私にとってかなりの難題だった。
私なりに導き出した答えは"常に異性に恋してる女"でいるということだった。
とりあえず私の場合、"異性の好きな人"さえいればこちらから同性に恋心を抱くことはない。まあ、自分の気持ちに半分嘘をつくことになるから、たまにそんなに好きでもない人のことを好き好きと言っている時期もあるけれど。
頭ゆるふわの男好きと思われることもある程の徹底ぶりだが、それくらいでちょうどいいと思う。私にとって、常に異性の好きな人がいるということは、二度と女の子を好きにならないようにという予防線の役割も兼ねている。それならば違和感なく異性愛者として生きられる。実際この方法は自分にとても合っていて、あれ以降、女の子が心の隙間に滑り込んでくることはほぼ無くなった。
もちろん女の子からアタックしてもらえたら真剣に考えるんだけど、今後自分から女の子を好きになることはなさそうだ。
でもね。
"愛ちゃんが男だったら絶対好きになってた。"
"愛ちゃんみたいな性格の彼氏が欲しい。"
"もし私が男だったら、愛ちゃんの彼氏になりたかった。"
こんな女同士の冗談って、私にとっては告白とほぼ同義で、今でも一瞬心がグラっと動くことがある。
"そのままのあなたとそのままの私じゃ、だめなの?"
そんな言葉を返したいのをグッと堪え、ありがとって笑うんです。
追記:完全に某友人の生配信とnoteに感化されてしまいました。敵うはずないんだけど…ってちょっと寂しそうに笑う姿に思いっきり感情移入してしまいました。
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