〈マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”(Martin Margiela In His Own Words)〉貴重な映像の数々!
マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”(原題:Martin Margiela In His Own Words)を観ました。
〈作品概要〉
作品名:マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”
(原題:Martin Margiela In His Own Words)
監督:ライナー・ホルツェマー(Reiner Holzemer)
制作国:ドイツ・ベルギー合作
劇場公開日:2021年9月17日
上映時間:90分
ジャンル:ドキュメンタリー
〈あらすじ〉
常に時代の美的価値に挑戦し、服の概念を解体し続けたデザイナー、マルタン・マルジェラ。キャリアを通して一切公の場に姿を現さず、あらゆる取材や撮影を断り続け匿名性を貫いた。本作の監督のライナー・ホルツェマー(『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』)は、難攻不落と思われたマルジェラ本人の信頼を勝ち取り、「このドキュメンタリーのためだけ」という条件のもと、ドローイングや膨大なメモ、初めて自分で作った服などプライベートな記録を初公開し、ドレスメーカーの祖母からの影響、ジャン=ポール・ゴルチエのアシスタント時代、ヒット作となった足袋ブーツの誕生、世界的ハイブランド、エルメスのデザイナーへの抜擢就任、そして51歳にして突然の引退――これまで一切語ることのなかったキャリアやクリエイティビティについてカメラの前でマルジェラ自身が語る、貴重なドキュメンタリーを作り上げた。
出典
https://www.uplink.co.jp/margiela/#intro
〈ADI Score〉・・・映画のスコアを作品ごとの項目に分けて採点
見るべき!度:★★★★★
映像貴重度:★★★★★
色々圧巻度:★★★★★
90分じゃ足りない度:★★★★★
急に終わる度:★★★★☆
〈感想〉
初めて、映画館に行ってまで観たドキュメンタリー映画。9月17日に公開後、すごく観たかった作品だったので期待を胸に観にいったが、期待通り。視聴前と視聴後では、ファッションの見方が変わる。終始口を開けてみていた。
私は、服飾学校に通っているのでもちろんファッションは大好きで、好きなブランドもあるが、あまりブランドのバックグラウンドや歴史を調べようとはしないタイプだ。周りの友達や、先生の多くは好きなブランドがあるとバックグラウンドや歴史など、隅々まで調べて、過去のコレクションは全て見るくらいの子もいる。
好きなブランドなのになぜ調べようとしないかというと、これは何事にも言えることだと思うのだが、好きだからといって知りすぎると、逆にそれがつまらなくなってしまうと考えているからだ。勉強でも、例えばファッションが好きで服飾学校に入学したのに、授業でファッションについて知りすぎて逆につまらなくなったり、趣味でやっていたスポーツも、やり込みすぎると逆にそれが苦痛になってしまう。これは本当に私の勝手な考えなのだが、全てにおいて、知りすぎない・やりすぎない程度が一番ちょうどよく物事を楽しめると思うのだ。そしてこの映画を観た後に思ったのは、きっとマルジェラも同じ考えを持っているということだ。
以下ネタバレあり
メゾン・マルジェラ(メゾン・マルタン・マルジェラ)というブランドは、「反モード(アンチモード)」をデザインのコンセプトに掲げ、独特の世界観で1989年ブランド初のコレクション以降、ファッション界をリードし続けている。しかしデザイナーのマルタン・マルジェラは、コレクションやブランドについてのストーリー・また自分自身についても語ろうとせず、この映画の中でもうまく濁されていた。
「ここにあなたが見に来たのはスーパーモデルでも私自身でもない。私のデザインした服である。」、「試しにモデルの顔を覆ってみると、服とその動きだけが見えるようになった。」など彼自身の言葉から、本当に仕事を愛していて、服を作ることにこの上ない喜びを持っている、また愛する仕事の作品を公開するのにデザイナーの顔も、スーパーモデルもいらない、そんな感情が伝わってきた。
また有名ブランドは年2回のコレクションの中で、トレンドを生み出し、有名ブランドのディテールやカラーリングなどを真似する安価帯のブランドがあり、真似されることが普通になっているが、マルジェラは自身の作り上げたものが真似されるのが心苦しかった、と誰しもが抱いたことのある感情を持っていることに、彼の中の人間らしさが見えた気がした。
ブランド20周年にデザイナーを降りた理由も、ブランドが有名になってゆく中で、「メゾン・マルタン・マルジェラ」が知られ過ぎること、「メゾン・マルタン・マルジェラ」はこういうブランドだ、と世間に断言されてしまうのが嫌で、謎めいたブランドクリエイションを守るためにブランドを去ったのだと私は解釈した。
作中で、確かマルジェラのアシスタント(お名前を忘れてしまいました…)が、マルジェラを着ている女性を「知りたくなる女性」と表現しており、私はその表現が非常にしっくりきた。謎めいたデザイナーがいるからこそ、そのブランドの服を着た人は「ただミステリアスな人」で終わることなく、こちらが知りたくなる、そんなオーラを放つのだと思う。ブランドが有名になってゆくにつれて、その「知りたくなる女性」という表現が、「セクシー」や「モード」などに変わってゆくのが、マルジェラ自身も複雑な気持ちだったのだろう。
作中での、彼の作業をしている時の手つきはとても繊細で丁寧で、話し方からは、穏やかな人柄が感じられた。彼の発する言葉からは、自分の思想をはっきりと持っていて、またそれに純粋な気持ちで向き合い、自分の中で大事に大事に育み続けているように感じた。
マルジェラが去っても、彼の意志を引き継いだスタッフがいる限りブランドは存続されるが、この映画を見た後にマルジェラの服や店舗を見ると、なぜか寂しい気持ちになった。これからも、誰にも媚びることなく、誰からも支持されるブランドであって欲しいと強く思った。
映画のラストでは、「あなたは表現したいことを、ファッションを通してすべて伝えられましたか」という質問に対して、マルジェラは「No.」と答えており、現在はアーティストとして作品を生み出している彼のこれからがとても楽しみになった。
ところでマルタン・マルジェラ、今どこで何をしているのかな〜。